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多剤耐性を示す肺炎球菌の血清型15Aによる院内肺炎の1例

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多剤耐性を示す肺炎球菌の血清型15Aによる院内肺炎の1例

(IASR Vol. 47 p35-36: 2026年2月号)

はじめに

肺炎球菌は莢膜を有するグラム陽性双球菌で, 市中細菌性肺炎の20-50%, 院内肺炎の5-9%を占めるとされている。13価肺炎球菌結合型ワクチン(pneumococcal conjugate vaccine 13:PCV13)の導入後, 肺炎球菌感染症の発生頻度は世界的に減少している一方で, ワクチン非対応血清型や, 3種類以上の抗菌薬クラスに耐性を示す多剤耐性株による感染が増加していることが指摘されている。本稿では, 多剤耐性肺炎球菌血清型15Aによる院内肺炎の1例を報告する。

症例

頚椎症性脊髄症に対して脊椎前方後方同時固定術を施行された70代男性。術後4日目に発熱, 膿性痰, 低酸素血症が出現し, 胸部CTでは右下葉背側に肺炎像を認めた。喀痰(Miller-Jones分類P1)のグラム染色では莢膜を有するグラム陽性双球菌を含むpolymicrobial patternを呈したことから, 誤嚥性肺炎と診断された。同日夜, 呼吸状態が急速に悪化し, ショックを呈したため, ICU入室のうえで人工呼吸器管理となった。気管支鏡で右下葉から採取した気管支吸引痰のグラム染色では, 好中球貪食像をともなうグラム陽性双球菌のみを認めた。重症化を考慮し, メロペネム(MEPM)+バンコマイシン(VCM)の併用療法が開始された。

術後6日目, 気管支吸引痰の培養でStreptococcus pneumoniaeが同定され, 院内のアンチバイオグラムを参考にセフトリアキソン(CTRX)へ治療変更した。しかしその後判明した感受性試験では, CTRXを含め多剤耐性であった()ため, 感受性を残していたレボフロキサシン(LVFX)へと変更し, 治療を完遂した。分離株は国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所へ送付され, Quellung反応による血清型判定, 7つのハウスキーピング遺伝子(aroE, gdh, gki, recP, spi, xpt, ddl)に基づくmultilocus sequence typingが実施された。その結果, 本株は血清型15Aのsequence type(ST)63と同定された。

考察

本症例は, 多剤耐性を示す血清型15A-ST63の肺炎球菌による院内肺炎であった。血清型15A-ST63は代表的な多剤耐性クローンで, 近年その世界的な分離頻度が上昇している。PCV導入以前, ST63株のうち血清型15Aに分類されるものは6.5%に過ぎなかったが, PCV導入後にはその割合が65.4%へと急増しており, 特に血清型15A-ST63クローンは, 臨床で汎用されるβ-ラクタム系抗菌薬に対する耐性から注目されている。また直近でも, 日本国内において多剤耐性肺炎球菌血清型15Aによる院内クラスター事例も報告されており1), 院内伝播リスクが示唆される。血清型15Aは既存のPCV13, PCV15, PCV20, PPSV23には含まれていなかったが, 近年導入されたPCV21にようやく組み込まれた。

肺炎球菌における広範なβ-ラクタム耐性の獲得には, 主にpenicillin-binding protein(PBP)の変異や組換えが関与している。肺炎球菌には6種類のPBPが存在するが, β-ラクタム耐性は主としてPBP1a, PBP2x, PBP2bの変異に関連するとされる。Nakanoらは, MEPM感受性が低下した15A-ST63株の全ゲノム解析を行い, pbp1aおよびpbp2b領域の組換えが耐性に寄与することを報告している2)。中でも, pbp1aは米国で高度のMEPM耐性を示す多剤耐性株19A-ST320のものと同一であり, この組換えがカルバペネム耐性の獲得に関与するとされる。さらに, ST63系統でみられるpbp2x遺伝子の組換えは, セファロスポリン耐性と密接に関連することが知られている。本症例では, PCRや全ゲノム解析などの分子学的検査は行っていないものの, ペニシリンG(PCG), CTRX, MEPM耐性という表現型は, pbp1aおよびpbp2xの遺伝子変異を介した広範なβ-ラクタム耐性の存在を示唆すると考える。また, マクロライドおよびリンコサミド系抗菌薬への同時耐性は, erm(B)遺伝子に関連したリボソーム修飾機構の関与が考えられる。

結語

血清型15A-ST63による早期発症院内肺炎の1例を経験した。既存のワクチンによってカバーされない多剤耐性株の台頭に留意が必要である。また, 多剤耐性肺炎球菌の院内伝播リスクについても周知し, 適切な感染制御体制を整えることが求められる。

本症例報告は, Infectionに掲載された症例報告3)を基に翻訳および再構成したものである。本稿はCreative Commons Attribution 4.0 International Licenseの条件に基づき再利用しており, 一部内容の編集を行っている。

ライセンスの詳細はhttps://creativecommons.org/licenses/by/4.0/を参照されたい。

参考文献

  1. Takahashi J, et al., J Infect Chemother 31: 102811, 2025
  2. Nakano S, et al., Emerg Infect Dis 24: 275-283, 2018
  3. Akazawa H, et al., Infection, Online ahead of print, 2025
    doi:10.1007/s15010-025-02652-3

岡山大学病院感染症内科     
 赤澤英将 福島伸乃介 萩谷英大

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