高齢者施設における夏季のRSウイルス集団感染事例―神奈川県

高齢者施設における夏季のRSウイルス集団感染事例―神奈川県
(IASR Vol. 47 p51-52: 2026年3月号)
はじめに
RSウイルス感染症は, RSウイルスによる夏~冬にかけて流行する急性呼吸器感染症であり, 潜伏期は2~8日, 発熱, 鼻汁, 咳などの上気道症状が数日続き, その後, 気管支炎や肺炎などの下気道症状が出現することがある1)。今回, 有料高齢者施設(以下, A施設)でのRSウイルス感染症の集団感染事例を経験したので報告する。
施設概要および経過
A施設は3階建てであり, 1階は食堂および事務室, 2階と3階に各25名ずつの計50名の高齢者(平均年齢85歳)が入居し, 職員数は42名であった。今回, 7月X日にA施設より発熱と呼吸器症状を呈する患者が10名発生したとの報告を保健所が受け, 翌日, 調査を行った。最初の患者2名が7月X-4日に確認されたため, 症例定義を7月X-4日以降に37.0℃以上の発熱を呈した者, としたところ, 7月X+8日までに入居者21名(年齢62~103歳:中央値88歳), 職員3名の発症がみられた(図)。入居者は特に血中酸素飽和度(SpO2)が低下し, 8名が入院したが, うち2名はRSウイルス感染症以外の疾患による入院であった。
インフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の簡易迅速診断キットによる検査を実施した者もいたが, いずれも陰性であった。原因病原体の検索のために, 7月X+6日, 症例定義に合致し, 発熱が継続している患者6名の咽頭ぬぐい液の検体を施設から提出を受け, 県衛生研究所に検査を依頼した。その後, X+9日以降に新たな患者の発生は認められなかったため, X+16日に終息を確認した。
病原体の検出状況
7月X+6日に6名の咽頭ぬぐい液を県衛生研究所ウイルス・リケッチアグループに搬入した。CycleavePCRTM 呼吸器系感染症起因ウイルス検出キット Ver.3(TaKaRa)を使用してインフルエンザウイルス(A, B), RSウイルス(A, B), パラインフルエンザウイルス(1, 2, 3), ヒトメタニューモウイルス, アデノウイルス, ボカウイルス, ライノウイルス, Takara SARS-CoV-2 ダイレクト PCR 検出キット(TaKaRa)を使用してSARS-CoV-2に対するreal-time PCRを実施した。なお, CycleavePCRTM 呼吸器系感染症起因ウイルス検出キット Ver.3(TaKaRa)は, Ct値33以上の場合には, 検証が推奨されているため, 判定保留とした。その結果, 6名中4名はRSウイルス(B)検出, 1名はRSウイルス(B)判定保留(Ct値37), 1名はすべて不検出, となった。また, RSウイルス(B)検出者のうち1名は, ヒトメタニューモウイルスについて判定保留(Ct値37)となった。判定保留の検証のため, RSウイルス(A, B)については世界保健機関(WHO)のRSVグローバルサーベイランスで検討されたL遺伝子検出系2)のプライマー・プローブセットを, ヒトメタニューモウイルスについては水村らのヒトメタニューモウイルスF遺伝子検出系3)のプライマー・プローブセットを使用して, 6名全例に対してreal-time PCRを実施したところ, 6名中5名からRSウイルス(B)検出, ヒトメタニューモウイルスは全例不検出となった。
考察
RSウイルス感染症は乳幼児期に多い感染症として知られている1)が, 高齢者施設での集団感染事例についても報告4)されている。2024年1月から60歳以上を対象にRSウイルスワクチンが接種可能となった5)が, まだ浸透していない現状がある。しかし, 今回報告したように, 高齢者施設でRSウイルス感染症が集団発生し, 重症化して入院する事例がみられている。RSウイルスワクチンによるRSウイルス関連入院に対するワクチン有効性は80%〔95%信頼区間(95%CI):71-85〕, RSウイルスに関連した重篤な疾患(ICU入室, 死亡, またはその両方)に対するワクチン有効性は81%(95%CI:52-92)6)との報告もある。また, 高齢者施設で同一の感染症が疑われる患者が複数発生した場合, 「社会福祉施設等における感染症発生時に係る報告について〔厚生労働省通知・平成17(2005)年2月22日付, 令和5(2023)年4月28日一部改正〕」の4-ウに基づき, 10名に至らない場合でも保健所への速やかな報告により, 保健所は疫学調査や感染対策の指導を実施し, 早期に原因病原体検索のための検査を検討することができる。県衛生研究所と保健所が連携し, 速やかに原因病原体を特定することで, 病原体の特性を踏まえた効果的な感染対策とともに感染症のまん延防止を図ることができる。
参考文献
- 厚生労働省, RSウイルス感染症の予防について, 2024(令和6)年3月14日
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001226197.pdf - WHO, WHO STRATEGY FOR GLOBAL RESPIRATORY SYNSYTIAL VIRUS SURVEILLANCE PROJECT BASED ON THE INFLUENZA PLATFORM
https://www.who.int/publications/i/item/who-strategy-for-global-respiratory-syncytial-virus-surveillance-project-based-on-the-influenza-platform - 水村綾乃ら, 千葉市環境保健研究所年報 第21号: 47-50, 2014
- 永田紀子ら, IASR 35: 146-147, 2014
- 厚生労働省, RSウイルス感染症(五類・定点)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rsv.html - Payne AB, et al., Lancet 404: 1547-1559, 2024
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