障害者入所施設で発生したヒトパラインフルエンザウイルス3型の集団感染事例

障害者入所施設で発生したヒトパラインフルエンザウイルス3型の集団感染事例
(IASR Vol. 47 p54-56: 2026年3月号)
はじめに
ヒトパラインフルエンザウイルス(human parainfluenza virus)は, パラミクソウイルス科に属するRNAウイルスである。現在4つの型(1-4型)があり, 4型には2つのサブタイプ(4Aおよび4B型)がある。ヒトパラインフルエンザウイルス感染症は一般的に誰でも感染しうる疾患であるが, 特に幼児や免疫が低下している人においては感染しやすい。成人においては, 上気道炎の主な原因となるウイルスの1つである。多くの場合は軽症で上気道症状を呈するが, 高齢者や免疫不全者では肺炎等重症化することがある。特にヒトパラインフルエンザウイルス3型については, 気管支炎, 細気管支炎, 肺炎を引き起こすことが多い1)。また, ヒトパラインフルエンザウイルス感染症の多くは散発性であるが, 高齢者施設や重症心身障害者病棟のような比較的易感染状態にある集団では流行が起こることも稀ではない2)。
今回, 2025年7月に東京都の島しょ保健所出張所(以下, A出張所)管内の知的障害支援施設(以下, B施設)で発生した発熱・感冒症状の集団事例から, ヒトパラインフルエンザウイルス3型が検出された。本事例では, A出張所は早期からB施設職員への標準予防策の指導の徹底を行い, 感染拡大を防止するための支援を行ったのでここに報告する。
発生状況・遺伝子検査
2025年7月, A出張所はB施設から施設利用者64名中46名, 職員は46名中4名が発熱している, との第一報を受けた。重症者がない一方で, 発熱に加えて, 咳嗽や鼻汁を訴える者がおり, 利用者に知的障害があったことから, 多くはマスク着用が困難な状況であった。なお, 発症した複数名に対し新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)およびインフルエンザウイルスの抗原検査が実施されたが, 全員陰性であった。
A出張所では初期対応として電話での調査を実施し, 個人防護具(PPE)を含めた標準予防策と手指衛生の指導, 介護ケアに応じた感染対策についての助言を行った。また, 本庁所管部署(以下, 本庁)と情報共有を行った。
第一報の約1週間後, A出張所はB施設から利用者の有症状者が53名に増加し, 発熱が5日以上長引く者や再発の発熱者もいる, との報告を受けた〔フロア別発症状況(表), 流行曲線(図1)参照〕。
同日, A出張所は本庁に行政検査についての相談を行い, 翌日, A出張所がB施設を訪問し, 有症状者3名に対し咽頭ぬぐい検体を採取し, 行政検査として, 東京都健康安全研究センターに搬入した。その原因が特定できなかったことから, ウイルス・細菌核酸多項目遺伝子検査システムを用いた病原体検索スクリーニング検査を実施した。その結果, 検体からヒトパラインフルエンザウイルス3型が検出された。A出張所はB施設に対し, 検査結果を説明するとともに, 症状消失後もウイルス排出の可能性があるため, 施設内での引き続きの感染対策について注意喚起を行った。
分子系統解析
スクリーニング検査により, 供試した全検体からヒトパラインフルエンザウイルス3型が検出されたことから, 分子系統解析により関連性を確認した。咽頭ぬぐい検体から改めてRNAを抽出し, HN領域を対象としたRT-nested PCR検査3)を実施した結果, 2検体から増幅産物が得られた。次いで, 得られた2検体分の試料を用いてダイレクトシーケンス法により塩基配列(728bp)を決定し, 分子系統解析を実施した。その結果, 本事例の配列は同一クレードに帰属するとともに, 2025年に東京都内で実施した感染症発生動向調査において検出された島しょ地域外のヒトパラインフルエンザウイルス3型の近傍に位置することが判明した(図2)。
推定感染経路
初発患者が発症4日前にB施設内での家族合同面接に参加していたことが確認され, また同時期に開催された地域の盆踊りに, 施設利用者の一部も参加しており, 通常より人の往来が活発化し, 飛沫・接触感染による感染が伝播したことが推察された。
まとめ
A出張所の原因不明の集団発熱事例に対し, 東京都健康安全研究センターでウイルス・細菌核酸多項目遺伝子検査システムを用いて検査を行った。分子系統解析により, B施設の患者検体と, 2025年に島しょを除く都内で採取した検体の株が近縁であったことが示された。
全国から報告された急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランス報告においては, ヒトパラインフルエンザウイルスは一定の割合で検出されており, 3型においては春~夏にかけて多く流行が認められる。ARIが疑われる患者が発生した場合, クリニックに整備されていることが多い抗原検査等の検査にて検出可能な病原体が否定されても, ARIとして感染対策を維持・強化することが重要である。
今回, マスク着用を含めた感染対策が難しい知的障害者支援施設でヒトパラインフルエンザウイルス3型による集団感染事例を経験した。A出張所は施設の特性を踏まえ, 早期から施設職員の標準予防策等の指導徹底に努めた。今後も, 感染リスクが高い社会福祉施設等では早期の発見, 感染拡大を防ぐための取り組みを講じることや必要な検査を迅速に行うこと, 施設における自主管理を保健所が支援していくこと, が重要である。
参考文献
- CDC, Clinical Overview of Human Parainfluenza Viruses(2025年12月23日閲覧)
https://www.cdc.gov/parainfluenza/hcp/clinical-overview/index.html - 石川智子ら, IASR 41: 170-171, 2020
- 蕪木康郎ら, 感染症学雑誌 94: 86-96, 2020
東京都保健医療局
鈴木 薫 堀 元海 芋川有希 松田杏奈 高橋愛貴 西塚 至
東京都健康安全研究センター
天野有紗 熊谷遼太 高橋久美子 三宅啓文 千葉隆司
島しょ保健所大島出張所
高津奈緒美 市川日菜 渡邉洋子
