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社員寮で発生したサルモネラ属菌O4群食中毒事例について

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社員寮で発生したサルモネラ属菌O4群食中毒事例について

(IASR Vol. 47 p56-57: 2026年3月号)

サルモネラ属菌による食中毒の発生件数は減少傾向であるが, サルモネラ属菌には2,500種以上の血清型が存在1)し, 様々な血清型による食中毒が報告されている。

今回, 近年の病原体検出情報サブシステムへの報告で上位にある2)SalmonellaO4:i:-による食中毒事例を経験したので報告する。

概要

2025年5月12日, 茨城県潮来保健所管内の事業所から保健所に「寮の食堂を利用した社員が発熱, 腹痛, 下痢等の食中毒症状を呈している」旨の連絡があった。

調査の結果, 5月9日午後9時を初発として5月12日の午前8時までに, 5月8日の夕食〔油淋鶏(キャベツ, きゅうり, トマト添え), 卵と木耳の炒め物, 冷菜(ピリ辛メンマ, きゅうりの和え物), 白米, 味噌汁(ほうれん草)〕をとった35人中28人(20~60代男性)が下痢(28人), 腹痛(26人), 発熱(23人)などの症状を呈していた。調査の結果から, 発症者の共通食は5月8日の当該寮の調理施設が調理した夕食のみに限定されたことから, 保健所は5月19日, 当該施設が調理, 提供した食事を原因とする食中毒と断定した。症例定義は, 当該施設が調理した5月8日の夕食を喫食し, 喫食後~5月16日までに下痢, 腹痛のいずれかを発症した者を食中毒患者とした。

発症者便14検体, 調理従事者便3検体, 5月8日夕食の保存検食2検体, ならびに調理施設ふきとり7検体の合計26検体について細菌およびウイルス検査を実施したところ, 発症者便13検体および調理全般を行っていた調理従事者便1検体からSalmonellaO4群を検出し, その後の検査で血清型はSalmonellaO4:i:-と同定された。保存検食およびふきとり検体からは食中毒菌は検出されなかった。また, 統計学的分析において特定の食品に有意差が認められなかったことから, 原因食品の特定には至らなかった。

5月8日の夕食を喫食してから発症するまでの潜伏期間は25~85.2時間()であり, 平均値は44.4時間であった。5月8日夕食の調理従事者2人は味見および確認のため一口程度ずつ調理品を喫食していたが, 発症はなかった。

調理施設は汚染区域と非汚染区域との区分けがされておらず, また手洗い設備は手指の再汚染を防げる構造ではないため, 容易に交差汚染が生じる可能性があった。調理台では下処理と盛付けの時間帯を分けて作業しており, 作業終了後はアルコール噴霧で消毒していたが, 同一の調理台で行っていた。

汚染経路の特定には至らなかったが, 提供された食品が発症者と同一のサルモネラ属菌が検出された調理従事者の手指を介して汚染されたこと, 調理台または器具等からの二次汚染や原材料由来のサルモネラ属菌が残存し, その後の保管状況で増殖した可能性が考えられた。

考察

サルモネラ属菌による食中毒の潜伏期間は, 食品安全委員会によれば12~48時間1)であるが, 今回は潜伏期間が25~85時間と, それより長かったのが特徴的であった。SalmonellaO4:i:-はSalmonella Typhimurium(ST)の第2相鞭毛抗原が発現しない変異株(非定型ST)である。非定型STの病原性はSTと差がないことから3), STの潜伏期間12~72時間程度4)に当てはまる。2016年に千葉市内の高齢者施設で発生したSalmonella Nagoyaを原因とする食中毒事例5)の潜伏期間は36~134時間であった。2022年に埼玉県で発生した卵調理品からSalmonella Enteritidisが検出された食中毒事例6)の潜伏期間は4~137時間であった。このように, サルモネラ属菌の潜伏期が48時間より長い事例は過去にもみられており, そのような場合にもサルモネラ属菌食中毒を除外しないことが必要である。

サルモネラ属菌食中毒の原因と考えられる卵の取り扱いの不備や加熱不十分な鶏肉の提供は, 本件においては確認できなかった。検便から発症者と同一のサルモネラ属菌が検出された調理従事者は, 使い捨て手袋を着用し作業を行っていたが, 当該従事者の手指を介し食品が汚染された可能性が示唆された。なお, 当該従事者は事業所での検便を毎月実施し, 前回の検査ではサルモネラ属菌は不検出であり, 体調不良はなかった。

本事例より, 常に調理従事者自身が保菌していることを前提に衛生的な手洗いを実施すること, 食中毒予防の3原則「細菌をつけない, 増やさない, やっつける」の徹底をはかること, が極めて重要であることを再認識した。

本事例は, 日本食品衛生学会「食品衛生学雑誌」にも掲載している。

参考文献

  1. 食品安全委員会, 食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~鶏肉におけるサルモネラ属菌~(改訂版), 2012年1月
    https://www.fsc.go.jp/sonota/risk_profile/genussalmonella.pdf
  2. 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, IASR速報集計表, サルモネラ血清型(2026年1月アクセス)
  3. 厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課長, サルモネラ(4:i:-)の取扱いについて, 平成30(2018)年3月30日付薬生食監発0330第9号
  4. 食品安全委員会, 社団法人畜産技術協会, 食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書, 15.サルモネラ・ティフィムリウム
    https://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H21_15.pdf
  5. 熊谷智生ら, IASR 37: 160-161, 2016
  6. 久保川竣介, 国立保健医療科学院, 健康危機管理支援ライブラリー, No.23004卵調理品からSalmonella Enteritidisが検出された食中毒事例-埼玉県
    https://h-crisis.niph.go.jp/archives/396119/

  茨城県潮来保健所          
   海老沢さと子 箭内希代子 小林賢弥 沼尻芳洋
   大曽根賢一 桑原慎太郎 緒方 剛             
  茨城県衛生研究所          
   石川加奈子 奥村知美 内田好明 上野絵里             
  茨城県保健医療部生活衛生課     
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