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A型肝炎の臨床像

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A型肝炎の臨床像

(IASR Vol. 47 p43-44: 2026年3月号)

A型肝炎は, 急性ウイルス性肝炎であり, 主に糞口感染によって伝播する。A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus: HAV)はエンベロープを持たない一本鎖RNAウイルスであり, 経口的に体内へ侵入後, 腸管から門脈を介して肝臓に到達し, 肝細胞内で増殖する。肝障害はウイルス自体の直接的細胞障害よりも, 主として宿主免疫応答によって引き起こされるとされている。衛生環境の改善により, わが国の60歳未満でHAVに免疫を有するのは1.1%と報告され1), 多くが感受性者である。2018年のRIVM-HAV16-090株(遺伝子型IA)によるアウトブレイクでは, men who have sex with men(MSM)が罹患者の多くを占めた。A型肝炎は, 世界的にも性感染症として認識され, 診断時には本人の理解のもとでHIVなど他の性感染症検査を考慮する必要がある。また, 安全性・有効性の高いA型肝炎ワクチンが存在するため, 海外渡航時, 感染リスクが高いMSMなどは積極的なワクチン接種が推奨される。

臨床経過と症状, 臨床検査値

A型肝炎の潜伏期間は平均約4週(3~5週)とされ, 発症初期には発熱, 全身倦怠感, 食欲不振, 悪心, 筋肉痛などの非特異的症状が出現し, 異型リンパ球がみられることもある。その後, 黄疸, 腹痛, 嘔気, 嘔吐, 下痢が出現し, 黄疸発症後, 高ビリルビン血症は7~10日でピークに達する。他の急性ウイルス性肝炎の患者と比較し, 特に発熱が目立つ特徴がある。黄疸は, 胆汁うっ滞が遷延する一部の例を除いて比較的早期に改善するが, 倦怠感や食欲不振は数カ月持続することがある。小児では不顕性感染が多く6歳未満は通常無症状で, 成人では症候性となる割合が高く, 8割はAST・ALTが上昇し, 年齢が高いほど重症化しやすい。多くは自然軽快するが, まれに劇症肝炎に進展する例も報告されている2-4)。発症前から便中や血液中にウイルス粒子が確認され, HAV-RNAは肝炎が治癒した後も便中に検出され, 発症後数カ月後まで検出され, 感染管理上, 注意を要する5,6)

血液検査では, AST・ALTがしばしば1,000 IU/L以上と高度に上昇し, ALT優位の肝細胞障害型パターンを示すことが多い。総ビリルビン値の上昇, ALP・γ-GTPの軽度上昇をともなうこともある。プロトロンビン時間の延長やアルブミン低下は通常軽度であるが, 重症例や劇症化例ではプロトロンビン活性低下(40%未満)が顕著となる。血清学的診断として, 急性期には抗HAV IgM抗体が陽性となり, 回復期以降には抗HAV IgG抗体が出現し, 長期にわたって持続するとされている。抗HAV IgM抗体は, 必ずしも初回採血時に陽転化していないことがあるため, 抗HAV IgM抗体陰性であっても臨床的にA型肝炎が疑われる場合, 初回採血から7日以降に再検査することが望まれる2)

重症度に影響を与える要因と合併症

A型肝炎は予後良好な疾患であるが, 急性肝不全, 胆汁うっ滞型肝炎, 再燃性肝炎などを併発することがある。A型肝炎による急性肝不全(初発症状から8週以内にプロトロンビン活性が40%未満ないしはINR値1.5以上)は1%弱であるが, 致死的な疾患であり, 専門医療機関への相談が必要である。

重症になる宿主側因子として, 40歳以上, CD4/CD8比低値, TLR4遺伝子多型 rs115368897)などが知られている。ウイルス側因子では, 高HAVウイルス量やHAV subgenotype IIIA, 変異型HAV(5’NTRにおけるヌクレオチド変異)なども報告されている。また, B型・C型肝炎, アルコール性肝障害, 脂肪性肝疾患などの慢性肝疾患合併例では, 急性肝不全や劇症化のリスクが高い1)。HIV感染や免疫抑制状態も遷延化や重症化に関与する可能性があり, これらの症例では慎重な経過観察が求められる。

発症後6カ月以内に1.5-15%に再燃性肝炎を認めるが, これらは2カ月以内に回復することが多い。4.7%に遷延する胆汁うっ滞を併発すると報告されている。肝外合併症としては, 急性腎障害, 溶血性貧血, 血小板減少, 血球貪食症候群, 関節炎, 皮疹などが報告されている2)

治療と予防

A型肝炎に対する特異的な抗ウイルス療法は確立されておらず, 治療の基本は支持療法である。十分な安静と栄養管理, 水分補給を行い, 肝機能障害が強い場合には入院管理が推奨される。重症例では凝固異常や肝不全の進行に注意し, 必要に応じて専門施設での集中管理や肝移植評価が行われる。

A型肝炎はワクチンによって予防可能な感染症であり, 不活化ワクチン3回の接種により高い抗体獲得率が得られることが報告されている。

HIV感染者におけるA型肝炎

2018年のアウトブレイク時では, HIV感染者が約半数を占めたと報告された8)。HIV感染者においても, A型肝炎は基本的に急性経過をとるが, 糞便へのウイルス排泄期間の延長9)や臨床経過の遷延が報告されている。特にCD4数が低い症例で症状が非典型的となる可能性や, 重症化するリスクが指摘されている。また, MSMを中心とした集団内での感染拡大が国際的に報告されており, HIV感染MSMは疫学的にも重要な位置づけとされている。詳細はIASR 40: 149-150, 2019「2018年シーズンのA型肝炎の臨床像について」を参照にされたい。

HIV感染者では健常者と比較して, ワクチン接種による抗体獲得率や抗体持続性が低下することが示されており, ワクチン接種後のブレークスルー感染も報告されている10)。HAV感染のリスクがある場合は, 追加接種の必要性が示唆されている。我々の施設では, HIV感染MSMのうち, 自然感染によると考えられるHAV-IgG抗体獲得は19.6%であり, ワクチン接種による抗体獲得は28.8%であった。アウトブレイク終息のために必要な集団内の抗体陽性率は65%とされ11), 感染リスクが高いMSMは, 海外渡航者と同様, A型肝炎ワクチンの接種を積極的に勧奨していくことが望ましい。

参考文献

  1. Kiyohara T, et al., Microbiol Immunol 67: 14-21, 2023
  2. Kanda T, et al., Hepatol Res 54: 4-23, 2024
  3. Săndulescu O, et al., Clin Microbiol Infect 32: 416-426, 2026
  4. Koga M, et al., Jpn J Infect Dis 73: 89-95, 2020
  5. Nara H, et al., Gastroenterol Jpn 13: 374-382, 1978
  6. Tjon GMS, et al., J Med Virol 78: 1398-1405, 2006
  7. Kashyap P, et al., Acta Virol 62: 58-67, 2018
  8. Itaki M, et al., WPSR 16: 1-10, 2025
  9. Ida S, et al., Clin Infect Dis 34: 379-385, 2002
  10. Schnyder JL, et al., Int J Infect Dis 161: 108113, 2025
  11. Chen GJ, et al., Liver In 38: 594-601, 2018

  東京大学国際高等研究所新世代感染症センター感染症研究分野  
  東京大学医科学研究所附属病院感染免疫内科
   古賀道子               
  国立健康危機管理研究機構        
  東京大学医科学研究所附属病院感染免疫内科
   四柳 宏         

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