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国内のA型肝炎ウイルスの分子疫学検査について

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国内のA型肝炎ウイルスの分子疫学検査について

(IASR Vol. 47 p44-45: 2026年3月号)

潜伏期間が長く, 感染源に関する聞き取り調査が困難なA型肝炎において, ウイルス学的検査に基づく分子疫学調査は, 単にA型肝炎ウイルス(hepatitis A virus: HAV)感染の有無を判定するにとどまらず, 「どのウイルス株が」, 「どこで」, 「どのように」拡大しているかを明らかにする情報を提供する。これらの情報は, 効果的な感染症対策を講じるうえで極めて重要である。

A型肝炎の流行状況を把握する目的で, 厚生労働省は2010年に「A型肝炎発生届受理時の検体の確保等について」〔平成22(2010)年4月26日健感発第0426第2号, 食安監発0426第4号〕を発出し, 各自治体に対して, A型肝炎の発生届を受理した際の患者検体の確保および分子疫学解析を目的とした積極的疫学調査の実施を依頼した。さらに2019年には, 調査の継続的な運用について改めて通知〔平成31(2019)年2月6日健感発第0206第1号, 薬生食安監発0206第2号〕が発出され, 本調査は2026年現在も継続して実施されている。

国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所(感染研)・ウイルス第二部では, 全国の地方衛生研究所(地衛研)および保健所と連携し, A型肝炎患者の検体(血清または便)からHAVの一部遺伝子領域をRT-PCR法により増幅し, 塩基配列を決定することで, 国内の流行状況を分子疫学的にモニタリングしている。

具体的には, 検体からウイルスRNAを抽出後, HAV特異的プライマーを用いてRT-PCR法によりVP1/pX領域を増幅し, サンガーシーケンス等により塩基配列を決定している。real-time PCRによりウイルス量を定量することも可能であるが, 分子疫学検査の主目的は塩基配列の解析であるため, ウイルス第二部では通常, conventional RT-PCR法を用いている。ただし, 各検査において陽性RNAコントロール(1×101 copies/reaction)が少なくともnested PCRで検出されることを確認しており, この条件下で検出されない検体は検出不可と判定している。

A型肝炎の分子疫学検査におけるHAV RNAの検出率は, E型肝炎と比較して高い傾向にある。2019~2025年にかけて, 各自治体からウイルス第二部に送付された検体のうち, 発病年月日および検体採取日が明らかであったものは, 血清16検体, 便36検体であった。血清検体では, 発病から7日以内に採取された7検体すべてで1st PCRによりHAV RNAが検出された(図1)。発病から8~15日に採取された血清9検体では, 6検体が1st PCRで, 2検体がnested PCRで検出され, 1検体は検出不可であった。血清検体全体の検出率は93.8%であった。

便検体では, 発病から7日以内に採取された5検体中4検体で1st PCRによりHAV RNAが検出され, 1検体は検出不可であった。発病から8~20日に採取された15検体では, 10検体が1st PCRで, 1検体がnested PCRで検出され, 4検体は検出不可であった。発病から20日以内に採取された便検体における検出率は75.0%であった。検体採取の利便性を考慮すると, 急性期血清の確保が可能であれば, 必ずしも便検体の採取は必要ないと考えられる。一方で, 発病から51~100日を超えて採取された便検体からもHAV RNAが検出された例があり, ウイルスが長期間にわたり便中に排出されることが改めて確認された。

ウイルス第二部では, 1st PCRで検出された検体については, プライマー配列を除いた619塩基の配列情報を自治体に報告している。系統樹解析には, nested PCRで増幅された領域からプライマー配列を除いた568塩基を用いている。nested PCRのみで検出された検体については, 568塩基の配列情報を自治体に報告している。決定された配列は, 各遺伝子型のリファレンス配列および近年国内で報告されている配列とともに系統樹解析を行い, 類似配列の検出時期や地域的分布等を踏まえて, その特徴を解析している。

A型肝炎ウイルスの検出マニュアルは, 平成18(2006)年に初版が公開され, 当初は遺伝子診断に加えてIgM抗体検出やウイルス分離法についても記載されていた。その後, 2018年12月に主として分子疫学調査を目的としたconventional RT-PCR法および塩基配列決定法を中心とする内容へと改定(第2版)1)され, 全国の地衛研において参照されている。現在, ウイルス第二部で検査が実施されるHAV検体は全体の約1割にとどまり, 多くの検体は地衛研等で塩基配列が決定され, その配列情報が感染研に集積されている(図2)。検査体制が全国的に整備されたことにより, 届出症例に対してウイルス遺伝子情報が得られる割合が増加し, 国内における流行株の動向や地理的分布をより網羅的に把握することが可能となった。今後は, 検査手法の標準化や精度管理のさらなる充実を通じて, 分子疫学情報の信頼性を一層高めていくことが求められる。分子疫学情報は, 患者背景, 推定感染地域, リスク行動, 食品摂取歴, 等の疫学情報と組み合わせることで, はじめて感染経路の推定やクラスター検出に有効に活用できる。遺伝子情報と疫学情報を効率的に統合・解析できる体制整備が求められる。

参考文献

  1. 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル A型肝炎ウイルス検出マニュアル(第2版), 平成30(2018)年12月

  国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所ウイルス第二部 
   鈴木亮介 丹野久仁子 清原知子 五十川正記

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