2019~2025年までの国内のA型肝炎の発生動向と分子疫学調査

2019~2025年までの国内のA型肝炎の発生動向と分子疫学調査
(IASR Vol. 47 p45-47: 2026年3月号)
2010年に開始したA型肝炎ウイルス(hepatitis A virus: HAV)の分子疫学調査は, 地方衛生研究所, 保健所等の協力のもと, 2026年現在も継続している1)。2015~2025年に提供された検体あるいは塩基配列情報は1,039検体分であった(表)。遺伝子型の内訳はIA:953(91.7%),IB:31(3.0%), IIIA:54(5.2%), IIA:1(0.1%)で, 多くがIAであった。各検体の遺伝子情報と感染症発生動向調査2)のデータをリンクして解析すると, いくつかのパターンが認められた。2024, 2025年のデータに焦点を当てて紹介する(以下, 【 】は図1中のクラスターを示す)。
遺伝子型IA
【a】IA-2024型
2019年に初めて検出され, 2020年にも3株検出されたがその後の検出はなく, 2024年に増加した株である。感染地域は福岡県, 長崎県, 宮崎県, 鹿児島県, 広島県, 大阪府, 静岡県, 埼玉県と広範囲で, 患者同士の共通事項はなかった。HAVに汚染された食品が広範囲に流通した可能性があるが, 感染源は不明である。
【b】2018年流行株の亜型-1
2024, 2025年に2018年流行株の亜型-1が6検体から検出され, このうち3検体はミャンマーへの渡航者, ミャンマーからの入国者, ミャンマーから持ち込んだ食品の関与, が示唆された。残りの3例には渡航歴はなかった。2024, 2025年のA型肝炎患者のうち2)ミャンマーからの入国者, 帰国者は7例で3.5例/年であり, 2015~2017年の年平均1.6例の約2倍であった。2025年3月にはミャンマー保健省の公衆衛生局からA型肝炎の感染拡大についての注意喚起があり, ミャンマーでの流行を受けた輸入感染およびそこからの二次感染が疑われた。
【c】2018年流行株の亜型-2
2024, 2025年に2018年流行株の亜型-2が9検体から検出された。2024年は福岡県, 佐賀県, 2025年は兵庫県, 大阪府から検出された。推定される感染経路は経口感染(4例), 性的接触(4例), 不明(3例)(重複あり)が混在していた。性別は男性8例, 女性1例, 年齢は23~71歳であった。2018年の男性間性交渉者のようなリスクファクターは特定されず, 感染経路の複雑化が示唆された。
遺伝子型IB
【d】IB-2025型
日本では遺伝子型IBの検出は稀であり, 多くが海外の流行地からの帰国者であったが, 2025年は渡航歴のない遺伝子型IB株が検出された。シーケンス対象領域はすべて同一配列で, 1月:1例(福岡県), 2月:5例(福岡県, 山梨県, 長野県), 4月:1例(神奈川県), 5月:2例(広島県, 千葉県), 合計9例であった。患者間の共通事項はなく, 広範囲に流通したHAV汚染食材の摂取が疑われたが, 感染源は不明であった。遺伝子型IBはアフリカ, 中近東に広く分布しており, 喫食調査の際は流行地からの輸入食材も視野に入れる必要がある。
遺伝子型IIIA
遺伝子型IIIAはこれまでのデータの蓄積によって南アジアをさらに3つに分けた地域別クラスターに分類することが可能であった(図2)。
【e】は主にパキスタン, アフガニスタンなど西アジアからの帰国者からの検出が多かった。また, このクラスターは渡航歴がない患者も含み, 日本土着株と西アジア地域流行株とのつながりが興味深い。【f】はバングラデシュ, 【g】はインド・ネパールなど南アジアからの輸入感染が多く含まれており, 各地の流行株を反映していると考えられる。
分子疫学調査は, 1)A型肝炎の流行状況の精査, 2)渡航関連症例における感染地域の特定, 3)原因ウイルスの由来の推定, に有効である。特に3)については食品衛生への応用が期待される。A型肝炎は潜伏期間が長く, 発症したときには喫食の記憶が曖昧であったり, 食材が廃棄されていたりして原因究明が難しい疾病である。しかしながら, 今回示したように, 患者の共通事項や地域集積性が認められず, 一見散発例のようにみえるものの, 分子疫学的にはHAVが混入した食品の広範囲流通が起こっていることは否定できない。2024, 2025年にはなかったが, 2019年にはこのパターンの流行が発生した3)。また, 抗体保有率が低い日本では, 2018年のようにHAVがハイリスク群に入り込むと容易に流行を引き起こす可能性がある。重症化が危惧される高齢者や肝疾患の既往歴がある者, 糖尿病患者などや, 感染リスクが高いと考えられる流行地への渡航者にはワクチンによる積極的な予防が勧められる4)。また, 数は少ないものの家族内感染の報告もあり5), 患者が発生した際は同居家族のワクチン接種が望ましい。
参考文献
- A型肝炎発生届受理時の検体の確保等について, 健感発0206第1号, 薬生食監発0206第2号, 平成31(2019)年2月6日
- 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 感染症発生動向調査事業年報-2023-
- IASR 40: 147-148, 2019
- WHO, WER 97: 493-512, 2022
- 斉藤淳哉ら, 肝臓 63: 500-503, 2022
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
ウイルス第二部第五室
清原知子 丹野久仁子 鈴木亮介
