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世界における男性間性交渉者(men who have sex with men:MSM)間でのA型肝炎のアウトブレイク

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世界における男性間性交渉者(men who have sex with men:MSM)間でのA型肝炎のアウトブレイク

(IASR Vol. 47 p47-48: 2026年3月号)

A型肝炎は, A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus: HAV)による感染症で, 病原体に汚染された食品の摂取や糞口感染で感染する。潜伏期間は2~6週間であるが, 感染後1週間~発症後数カ月まで糞便中にHAVが排泄されるため, 感染者は発症前の無症状期間にも感染源となりうる。ヒトから検出されるHAVは遺伝子型I, II, III型で, それぞれA, Bの亜型に分類される。

男性間性交渉者(men who have sex with men: MSM)は世界的にみてもhuman immunodeficiency virus(HIV)感染症をはじめとした性感染症のリスクが高い。1970年代から, 肛門性交をした, または, セックスパートナーが複数いるMSMの間で, A型肝炎のアウトブレイクがたびたび報告され, MSMはA型肝炎罹患のハイリスク集団と考えられている。2016~2018年に欧州のMSMを中心として広く報告されたA型肝炎のアウトブレイクは, LGBTQのイベントなどが契機となっており, 同じ遺伝子型IAの中でも同様の配列を持つウイルス株が関与していた2,5)。今回, 欧州でのアウトブレイク以降にMSMが関連した事例の特徴を明らかにするため, 2020年以降の事例について, 文献レビューを実施した。

方法

PubMed(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed)で2000~2025年の事例で, “hepatitis a”, “men who have sex with men”, “outbreak”, 医学中央雑誌で「A型肝炎」, 「MSM」, 「アウトブレイク」をキーワードに検索して得られた文献を対象とし, IgMまたは遺伝子検査で急性感染を確認している文献について, 特徴を記述した(検索日2026年1月17日)。

結果(

MSMが関連したA型肝炎アウトブレイク事例は2020年以降に5事例(5文献)報告された。2020年は報告がなく, 2021~2022年米国1事例, 2022年クロアチア, ハンガリー, ルーマニア3事例, 2023~2024年ポルトガル1事例が報告された。このうちMSMのみを対象とした報告が1事例, A型肝炎患者を対象としたうちのMSMについての報告が4事例であった。期間中, 日本からの報告はなかった。

報告された5事例のA型肝炎症例数は合計525件で, 年齢の中央値は27から38歳であった。男性は459件(87.4%)で, そのうちMSMと判明しているのは263件(57.3%)で, 年齢中央値が記載されていたのは2文献で34歳と38歳であった。MSMのA型肝炎症例のうちHIV感染者と判明しているのは129件(49.0%)で, HIV-曝露前予防(pre-exposure prophylaxis:PrEP)の使用者は52件(19.8%)であった。

5事例のうち4事例で, A型肝炎ウイルスの遺伝子型検査が実施されていた。クロアチアおよびポルトガルでは, IA型のうち2018年に欧州で流行した2種類のウイルス遺伝子配列が検出された。米国では, IA型であったが, 欧州とは異なるウイルス遺伝子配列が検出された。また, 2022年のハンガリーでは, 食中毒事例の原因となった輸入品の冷凍ベリーソースとその患者, その後に感染が拡大したと考えられるMSM事例, のどちらからも遺伝子型IBが検出され, 関連が示唆された。

クロアチアでは, HIV治療またはHIV-PrEPの処方を受けている対象者のうち26.1%(364/1,397件)がHAVの抗体価を有しており, ハンガリーでは, アウトブレイクに関連した遺伝子型IBの症例のうちの5.3%(9/171件)が1回以上のA型肝炎ワクチン接種を受けていた。

考察

2020年以降に報告された5事例のうち, クロアチアおよびポルトガルでの2事例からは2016~2018年に流行したウイルスの近縁株が検出されており, MSMの間で循環している可能性が示唆された。一方で, 米国やハンガリーの事例では, それぞれ異なるHAVが検出され, アウトブレイクの規模は, MSMで一般集団よりも大きかった。

本邦では, 2020年以降のアウトブレイク報告はなかった。しかしながら, 今後, 海外の流行状況が日本のMSM集団に影響を及ぼす可能性があり, 世界のA型肝炎の発生状況を注視する必要がある。上記文献では, HIV感染やHIV-PrEP使用のあるMSMはA型肝炎罹患のハイリスク集団であり, アウトブレイクの発生予防のために, MSMに対するA型肝炎ワクチン接種も有効な手段と論じられていた。国内でもハイリスク集団に対するA型肝炎の情報提供や, ワクチン啓発が望まれる。

参考文献

  1. Doyle TJ, et al., Emerg Infect Dis 30: 634-643, 2024
  2. Bogdanić N, et al., Viruses 15: 87, 2023
  3. Dencs Á, et al., Infect Genet Evol 123: 105622, 2024
  4. Neagu G, et al., J Clin Med 14: 4368, 2025
  5. Rosendal E, et al., Euro Surveill 29: 2400272, 2024

  国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所         
   実地疫学専門家養成コース(FETP)
    澤 友歌           
   応用疫学研究センター      
    加藤博史 島田智恵 砂川富正

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