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チェコ共和国における2025年のA型肝炎の流行

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チェコ共和国における2025年のA型肝炎の流行

(IASR Vol. 47 p48-50: 2026年3月号)

チェコ共和国(以下, チェコ)における2025年のA型肝炎の届出数は3,256例(暫定データ:2026年1月6日時点)であり, 前年と比較して5倍以上に届出数が増加した。本稿では, チェコ国立公衆衛生研究所(以下, 当局)の公表資料1)を中心に抄訳し, 紹介する。

チェコにおけるA型肝炎サーベイランスと過去の発生状況

チェコでは, A型肝炎は届出と症例の入院医療機関での隔離措置が義務付けられている。地域の衛生局職員は届出をもとに疫学調査を実施し, 感染源および接触者の特定が行われる。A型肝炎患者と接触した感受性者(ワクチン未接種者等)には健康観察が命じられ, 濃厚接触者に対しては曝露後ワクチン接種が実施される。

旧チェコスロバキアでは, 1965年までA型肝炎の流行が毎年のように発生していたが, 1960年代後半以降, 衛生水準の改善により罹患率は徐々に減少傾向を示した。1993年の独立以降, 1997~1999年の届出数は年間1,000例前後で推移し, その後2000年代以降は全体として減少傾向であった2)。2008年には1,648例と再増加がみられ3), 以降2017年まで数年周期での増減が認められた。2018年に211例に減少して以降は, 低い水準で推移し, 2023年には年間65例と, 2008年以降で最も少ない届出数であった4)。しかし, 2024年に636例へ増加し, 関連する死亡が2例届出された。

2025年におけるA型肝炎流行の概要

2025年の届出数は3,256例(うち死亡36例)であり, 2008~2024年までの年別最多届出数を大幅に上回った。月別では10月に599例と, 最も多く届出された(図1)。

すべての年齢群で症例が届出され, 最も多かったのは35~39歳(350例), 次いで40~44歳(312例), 30~34歳(295例), 45~49歳(289例)と続いた。10代以下の年代では, 5~9歳(229例)の症例が最も多かった一方, 1歳未満の症例は14例であった(図2)。年齢群別10万人当たり罹患率においても35~39歳で最も高く, 10歳以下の小児層で高い罹患率を認めた2024年の流行とは異なる傾向を示した。

地域別では, チェコの内陸部である首都プラハが全届出数の42%(1,376例)を占め, 次いでプラハを取り囲む中央ボヘミア州14%(471例), 北東部のポーランドとの国境にあるモラヴィア・シレジア州8%(261例)で, 都市部を中心に多かった。

届出されたうち, 入院した症例が77%(2,514例)を占めた。死亡は36例で, うち30例が男性であった。死亡例は30代以上で届出され, 60代が最も多く(11例), 次いで50代(9例), 40代(6例)であった。

また, 症例において, A型肝炎罹患のリスク行動・背景要因が770件(重複あり)確認されており, 内訳は, ホームレス400件, 薬物使用299件, 刑務所服役44件, 男性間の性的接触23件, HIV感染者4件であった。

本流行の背景には, 近年のA型肝炎の発生率の低下にともない, 感受性人口が徐々に増加していることが指摘されている。チェコでは過去に全国的なA型肝炎ウイルス(hepatitis A virus: HAV)抗体調査が実施され, その結果, HAVの抗体保有率が高いのは, A型肝炎の流行期を経験した65歳以上の人々に限られていることが明らかとなった。このため, 若年層および中年層では抗体保有率が低いと推測される。

今回の流行は規模が大きいことに加え, リスク行動をともなう人々に限らず, あらゆる年代および社会層で症例が認められた点でも通常の流行と異なった5)

現在の状況と今後の予測

症例の約4割が届出された首都プラハなどの主要都市では, 公共交通機関における消毒の強化が行われている。さらに, 保健当局は感染拡大を防ぐため, 衛生習慣の重要性に焦点を当てた啓発を継続して実施している。また, A型肝炎の予防にはワクチン接種が重要だが, チェコでは任意予防接種であり, 接種費用が高額であることが, 多くの人がワクチン接種をためらう要因の1つとなっていると指摘されている5)

2025年11月以降, 届出数は減少傾向にある。ただし, 一部地域では年末の数週間で感染者数の増加が報告されており, 特にホームレスの人々や大学生のコミュニティでの増加が認められた。年末年始の接触機会の増加を考慮すると, 2026年初頭の数週間で届出数の再増加が予想されている。一方, 当局は過去数年の経験に基づき, 2026年中に届出される症例数は徐々に減少し, 流行は次第に終息すると想定している。

A型肝炎は潜伏期間が長く, 5~6歳未満の小児では不顕性感染が多いという特徴がある。このため, 現在の感染状況は, 症状を呈した症例およびその接触者に基づいて推定されている点に留意が必要である

参考文献

  1. Státní zdravotní ústav, Pravidelné zprávy k VHA za rok 2025 a 2026(2026年1月6日閲覧)
    https://szu.gov.cz/wp-content/uploads/2026/01/B15-VHA-zprava-2025_2026-4.pdf
  2. European Commission, Number of cases Hepatitis A(2026年1月6日閲覧)
    https://ec.europa.eu/health/ph_information/dissemination/echi/docs/hepatitisA_en.pdf
  3. Cástková J, Beneš C, Euro Surveill 14: 19091, 2009
    https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/ese.14.03.19091-en
  4. Státní zdravotní ústav, Rosta počet případů virové hepatitidy A v ČR -chraňte se před virovou hepatitidou A!(2026年1月6日閲覧)
    https://szu.gov.cz/temata-zdravi-a-bezpecnosti/a-z-infekce/h/virove-hepatitidy-infekcni/hepatitida-a/vha-situace-v-cr/chrante-se-pred-virovou-hepatitidou-a/
  5. Holt E, Lancet Infect Dis 25: e688, 2025

  抄訳担当:国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所         
        実地疫学専門家養成コース(FETP)
         小倉弘也           
        応用疫学研究センター      
         高橋あずさ 島田智恵 砂川富正

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