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輸入デーツ関連のA型肝炎の集団発生, 2021年―英国, オーストラリア

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輸入デーツ関連のA型肝炎の集団発生, 2021年―英国, オーストラリア

(IASR Vol. 47 p50-51: 2026年3月号)

2021年に英国およびオーストラリアにおいて, A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus: HAV)感染症の集団発生が報告された。国際的な情報共有に基づく疫学調査およびHAVの分子疫学的検査により, ヨルダン産の輸入デーツが2つの事例に共通する感染源として強く示唆された。近年, 複数国で, ザクロ, 乾燥トマト, 冷凍ベリー類等の輸入食品に関連する集団発生が報告されている。本事例は, 輸入食品を介して国境を越えて感染が拡大するリスクが存在することを示している。

これら2つのアウトブレイクの報告について, 概要をまとめ紹介する。

事例1:イングランド・ウェールズにおける集団発生(2021年1~4月)

Public Health England(PHE)は, 2021年1~4月にかけて, イングランドおよびウェールズにおいて, 渡航歴のないA型肝炎症例の集団発生を探知した。症例がデーツを摂取していたこと, 4月中旬からラマダン期間中にデーツの消費量増加が見込まれたこと, から迅速に調査が実施された。

症例定義における確定例は, イングランドおよびウェールズにおいて, 2021年1月1日以降に発症し, 遺伝学的に関連する3系統に属するHAV感染症が検査室診断されたもので, 発症前60日間に海外渡航歴がなく, A型肝炎の確定例または疑い例との接触歴がないもの, とされた。また, 疑い例は, 確定例と疫学的関連があり, HAV感染症が検査室診断されているが, シーケンス解析結果が未定のもの, とされた。

5月18日までに31名の症例(確定例30名, 疑い例1名)が報告され, 症例の55%が女性であった。年齢中央値は60歳(範囲:6-93歳)で, 81%が入院し, 94%で黄疸が認められた。

症例定義に用いられた遺伝学的に関連する3系統のHAVの配列は, 中東地域由来の遺伝子型IBに属しており, シリア・レバノンからの渡航者由来株と最も近縁であった。

感染源特定のため, case-case studiesが実施された。その結果, デーツ(メジュール種)の喫食が症例と有意に関連していた(調整オッズ比47.36, 95%信頼区間:1.79-1,256.07)。

症例のうち25名(81%)が, 発症前に同一商品を購入, 摂取しており, 流通調査から当該商品はヨルダンから輸入されたデーツであることが判明した。加えて, 患者宅から回収された未開封製品を含むデーツ製品2検体からもHAVが検出され, 当該デーツが本事例の原因食品である可能性が強く示唆された。

公衆衛生対応として, 3月末に店舗での販売を中止, 4月中旬に商品のリコールおよび注意喚起が実施された。二次感染例は5名で, 症例や疑い例との接触者は64名であった。濃厚接触者への曝露後予防として, HAV感受性者に対してはワクチン接種が手配され, 高リスク群(高齢, 慢性肝疾患等)に対してはヒト免疫グロブリンが投与された。また, 国際保健規則(IHR)や国際食品安全機関ネットワーク(INFOSAN)を通じて国際的に情報共有された。

事例2:オーストラリアにおける集団発生(2021年6~9月)

2021年6~9月にかけて, ニューサウスウェールズ(NSW)州およびオーストラリア首都特別地域において, 分子疫学的解析により遺伝学的に同一であると判断されたA型肝炎症例6例が報告された。調査により, これらは共通の感染源に由来する集団発生の可能性が強く示唆された。届出時点で, 上述の事例が英国により情報共有されていたことから, デーツとの関連が検討された。

症例定義は, (1)逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によりHAVが検出され, (2)遺伝子型IBで, NSW州のA型肝炎クラスターの初発例と関連性の高い配列の分離株が同定され, (3)2021年6月1日以降に発症した者, とされた。

NSW州では, 医療機関と検査機関へ, A型肝炎の症状がありデーツの喫食歴を呈する患者に対し, 検査診断するよう求めた。

疫学調査の結果, 6月1日~9月30日までに6名の症例が報告された。症例の83%は男性で, 年齢中央値は26歳(範囲:15-53歳)であった。67%が入院を要したが, 死亡例は認められなかった。すべての症例で生のデーツ(メジュール種)の喫食歴が確認された。

6症例すべてのHAV遺伝子が高度に類似しており, 英国で報告されたヨルダンからの輸入デーツ関連事例で分離された株と遺伝学的に同一であることが明らかとなった。

さらに, 流通していた輸入デーツ製品からHAVが検出されたことを受け, 8月5日に商品のリコールが実施され, 一般市民への注意喚起および症状出現時の医療機関受診の呼びかけが行われた。また, 8月6日にオーストラリアの農林水産環境省はヨルダンからのメジュール種のデーツの輸入品に対し保留命令を出した。

本事例において, 早期探知と迅速な介入ができた要因は2つある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として国境閉鎖が行われたことにより, 国内での共通する感染源が強く疑われた点と, 英国におけるデーツ関連事例についてHAV配列情報を含め早期に共有されていた点である。これらの事例では, 国際的なアウトブレイク情報およびゲノムデータの迅速な共有の重要性が示された。

出典

Vilaplana TG, et al., Euro Surveill 26: 2100432, 2021
https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/1560-7917.ES.2021.26.20.2100432
O'Neill C, et al., Commun Dis Intell 46, 2022
https://ojs.cdi.cdc.gov.au/index.php/cdi/article/view/438

  
  抄訳担当:国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所         
       実地疫学専門家養成コース(FETP)
        田才愛子           
       応用疫学研究センター      
        高橋あずさ 島田智恵 砂川富正


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