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流行性耳下腺炎サーベイランスにおける検査診断の必要性の検討―石川県金沢市の調査より―

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流行性耳下腺炎サーベイランスにおける検査診断の必要性の検討―石川県金沢市の調査より―

(IASR Vol. 47 p73-74: 2026年4月号)

背景

流行性耳下腺炎は, 圧痛, 咀嚼時痛, 発熱などをともなう, 耳介下部から顎角部にかけての腫脹(片側または両側)を主徴とする感染症である。ムンプスウイルス(MuV)による流行性耳下腺炎の予防には生ワクチン接種が有効かつ効果的とされており1), 現在, 日本ではムンプスワクチンは任意接種として位置付けられている。

感染症法では定点把握対象疾患5類感染症に定められ, 指定された小児科定点医療機関から患者数が毎週報告されている。感染症発生動向調査における流行性耳下腺炎の定義は, MuV感染により耳下腺が腫脹する感染症, となっているが, その届出基準は, 2つの臨床症状(ア:片側ないし両側の耳下腺の突然の腫脹と2日以上の持続, イ:他に耳下腺腫脹の原因がないこと)のいずれも満たすものとされており, 検査診断は求められていない。このため, 届出症例にはMuV以外の病原体による耳下腺腫脹も含まれている可能性がある。今回, 流行性耳下腺炎が疑われた耳下腺腫脹患者にMuVによる症例がどの程度含まれるのかを調査し, 流行性耳下腺炎サーベイランスにおける検査診断の必要性について検討したので報告する。

対象と方法

2022年12月~2025年9月に石川県金沢市の小児科医院9施設を受診した患者のうち, 片側ないし両側の耳下腺腫脹を認め, 症状や所見から流行性耳下腺炎を疑われた15歳未満の患者で, 同意が得られた222例を対象とした。患者の年齢, 性別, 発症日, 検体採取日, ワクチン接種歴は, 主治医が記入した調査票より把握した。なお今回は, より多くの症例を収集するため, 届出基準に定められた「2日以上の耳下腺腫脹の継続」は条件としなかった。このため, 本研究対象には届出基準に一致しない症例も含まれている点に留意が必要である。

検体は唾液腺開口部ぬぐい液を用い, MuV遺伝子検出は米国疾病予防管理センター(CDC)のプロトコル2)に準じN遺伝子領域を対象としたreal-time RT-PCR(rRT-PCR)を実施するとともに, 検体処理(採取・保管・輸送・RNA抽出等)の不備による偽陰性が生じていないかを確認するため, ヒトRNase P遺伝子検出を実施した。また, rRT-PCR陽性例については, 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所の「ムンプスウイルス病原体検出マニュアル」に基づき3), SH遺伝子領域のRT-PCRを実施した。これにより得られた316塩基を基に系統解析を実施し, その結果をワクチン株と比較した。

結果

対象となった222例の患者年齢は1~14歳(年齢中央値6歳), 性別は男児128例(58%)であった。

rRT-PCR 222例中1例がMuV遺伝子陽性であった。この陽性例の系統解析を行った結果, 遺伝子型はB型であり, ワクチン株である星野株と類似していた。この患者は発症3週間前におたふくかぜ生ワクチン「第一三共」の接種歴があり, ワクチン由来であると考えられた。なお, 発症から検体採取までの日数は, 3日以内が215例(97%)であった。また, ヒトRNase P遺伝子は全検体で検出されており, 陰性検体の結果の信頼性が確認された。

考察

本調査において, 金沢市内の9施設では自然感染によるMuV陽性例は確認されなかった。また, 調査を実施した期間の感染症発生動向調査では, 金沢市における小児科定点当たり週当たり報告数は, 最大0.27人であり4), 注意報の基準値35)を大きく下回っていた。これまでにも流行性耳下腺炎の臨床診断例には, MuV以外の病原体が関与している可能性が指摘されており6,7), 今回の結果からも, 非流行期においては, MuVに関連しない耳下腺腫脹が多数報告に含まれる可能性が示唆された。また, これにより合併症の発生頻度やワクチンの有効性が過小評価される恐れもある。

流行性耳下腺炎に関する疫学情報およびサーベイランスデータはワクチン施策の検討・定期接種導入後のワクチン効果を含む施策の評価に不可欠である。今後, 検査診断の結果に基づいたサーベイランスの導入が必要と考えられる。

参考文献

  1. 神谷 元, ムンプスワクチンの定期接種化を(アクセス日:2026年3月18日)
    https://www.jsvac.jp/topics/otafuku_32.pdf
  2. CDC, CDC Mumps rRT-PCR Assay vs 2 for the Detection of Mumps Virus RNA in Clinical Samples(アクセス日:2026年2月12日)
    https://www.cdc.gov/mumps/downloads/simple-protocol-MuV-rRT-PCR.pdf
  3. 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所, ムンプスウイルス病原体検査マニュアル(2015年1月版)
  4. 石川県, 石川県感染症情報センター, 感染症発生動向調査
    https://www.pref.ishikawa.lg.jp/hokan/kansenjoho/top/top.html
  5. 永井正規ら, 「定点サーベイランスの評価に関するグループ」研究報告書 感染症発生動向調査に基づく流行の警報・注意報および全国年間罹患数の推計, 平成12(2000)年度厚生科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)による「効果的な感染症発生動向調査のための国および県の発生動向調査の方法論の開発に関する研究」, 2001
  6. 渡辺正博ら, IASR 37: 197-198, 2016
  7. CDC, Manual for the Surveillance of Vaccine-Preventable Diseases, Chapter 9: Mumps(アクセス日:2026年2月12日)
    https://www.cdc.gov/surv-manual/php/table-of-contents/chapter-9-mumps.html

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