風疹排除認定の国際的枠組みと日本における排除達成ならびに今後の課題

風疹排除認定の国際的枠組みと日本における排除達成ならびに今後の課題
(IASR Vol. 47 p61-62: 2026年4月号)
2025年9月, 日本は世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局(Regional Office for the Western Pacific: WPRO)で開催された西太平洋地域麻疹風疹排除認定委員会(Regional Verification Commission for Measles and Rubella Elimination in the Western Pacific Region)により風疹排除達成国として認定された1)。本稿では, 風疹排除認定の国際的枠組みと, 日本における排除達成の経緯, さらに排除維持に向けた課題について概説する。風疹は先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)を引き起こす可能性のあるワクチン予防可能疾患であり, WHOは各地域において風疹排除を国際的な公衆衛生上の重要な目標として掲げている2)。
風疹排除認定の国際的枠組み
風疹の排除(elimination)とは, 一定の地域において, 風疹ウイルスの持続的な伝播(endemic transmission)が遮断された状態を指す概念である。世界から病原体が完全に消失する「根絶(eradication)」とは区別される2)。
WHO西太平洋地域における風疹排除の定義は, 「適切なサーベイランスが実施されているある地域(国等)において, 12カ月間以上継続して伝播した風疹ウイルス(endemicウイルス)が存在しない状態, さらにendemicウイルスによるCRS児の発生がない状態」であるが, 排除状態の認定にはさらに, 「最後のendemicウイルスによる症例から少なくとも36カ月間, endemicウイルスの伝播がないこと」, 「検証基準を満たすサーベイランス体制が存在すること」, 「endemicウイルスによる伝播がないことを示すウイルス遺伝子の解析データ」, が必要とされる2)。
排除認定のプロセスは, 各国に設置された国内麻疹・風疹排除認定会議(National Verification Committee: NVC)が, 疫学状況, ワクチン接種率, サーベイランス体制, 検査体制などの情報を毎年WHOへ報告し, その内容を地域麻疹風疹排除認定委員会(Regional Verification Commission: RVC)が評価する仕組みである2)。排除認定は単一の指標ではなく, 疫学, 検査, 免疫状況(予防接種状況を含む)など, 複数の指標を総合的に評価して確認されるものである。
日本における風疹排除達成までの経緯
日本では2010年代に入り, 成人男性を中心とする抗体保有率の低い集団の存在が指摘され, 2012~2013年には成人男性を中心とした大規模な風疹流行が発生した3)。この流行ではCRSの発生が45例報告され, 日本における風疹対策の課題が改めて認識された3)。
さらに, 2018~2019年にも成人男性を中心とした風疹流行が発生し, 免疫を十分に有していない成人層の存在, いわゆる「免疫ギャップ(immunity gap)」の問題が改めて指摘された3)。
このような背景を受け, 日本では1962~1978年度生まれの男性を対象とした抗体検査および予防接種の機会を提供する「風しん第5期定期接種」が2019年から開始された3)。これは, 過去の予防接種制度の変遷により免疫獲得機会が限定されていた男性世代へのキャッチアップ対策として導入されたものである。
途中, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの時期を含むが, 前述の対策にもよると考えられる血清疫学の情報も踏まえて, 日本ではendemicな風疹ウイルスの持続的伝播が36カ月以上確認されない状態が継続し, 優れたサーベイランス体制およびウイルス遺伝子解析による証拠が確認された。これらの条件が満たされたことにより, 2025年の風疹排除が日本に対して正式に認定されたものである1)。
排除維持に向けた課題
風疹排除の達成は, 日本の予防接種政策およびサーベイランス体制の成果を示すものであるが, 排除認定は対策の終点ではなく, 排除状態を維持するための新たな段階の始まりでもある。特に風疹対策の最大の目的はCRSの発生を防ぐことであることから, そのためには集団免疫を維持すること, 発生時には妊娠可能年齢の女性を感染から守ること, を主目的とした集中した対応をとることが重要である2)。
国際的には麻疹・風疹の排除を達成した国や地域であっても, 輸入症例を契機として流行が発生し, 排除状態が一時的に失われた事例が特に麻疹において報告されている4)。
さらに, 日本においても麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種率の低下が指摘されており, 排除状態維持のためには高い接種率の維持が重要である3)。あらゆる感染症において, 症例数が減少すると社会的関心が低下しやすく, さらには近年のワクチン忌避の風潮にもともない, ワクチン接種率の低下や, 時間差を置いた免疫を十分に有しない感受性者集団(ポケット)の形成が懸念される。このような集団が輸入症例を契機として流行の起点となり得ることが, 近年の世界の麻疹流行でも報告されている4)。
おわりに
日本の風疹排除は, 長年にわたる予防接種政策(特に第5期定期接種導入にあたっての工夫), サーベイランス体制, 検査体制, 自治体による公衆衛生活動, さらにはCRS患者会の精力的な周知啓発など, 多くの関係者の取り組みによって達成された成果である。今後は排除達成の成果を維持するため, 高いワクチン接種率の維持, 免疫ギャップの把握, 輸入症例の早期探知と対応, などを継続していくことが重要である。
参考文献
- WHO Western Pacific Regional Office, Rubella elimination verified in Japan, and measles and rubella elimination verified in Pacific island countries and areas
https://www.who.int/westernpacific/news/item/26-09-2025-rubella-elimination-verified-in-japan--and-measles-and-rubella-elimination-verified-in-pacific-island-countries-and-areas - WHO Western Pacific Regional Office, Guidelines on Verification of Measles and Rubella Elimination in the Western Pacific Region, SECOND EDITION, 2019
https://iris.who.int/server/api/core/bitstreams/27949fbd-f5b6-4638-9124-d0ea7105fcf5/content - Sunagawa T, et al., Vaccines 12: 939, 2024
- Takashima Y, et al., Vaccines 12: 817, 2024
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
応用疫学研究センター
砂川富正
