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風しん排除認定達成までの道のり―女児対象接種から成人男性への追加的対策まで―

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風しん排除認定達成までの道のり―女児対象接種から成人男性への追加的対策まで―

(IASR Vol. 47 p62-63: 2026年4月号)

2025年9月, 世界保健機関(WHO)西太平洋地域麻疹風疹排除認定委員会により, 日本の風しん排除が認定された。これは, 2015年の麻しん排除認定に続いて, 我が国の感染症対策上10年ぶりとなる記念碑的な出来事である。本稿では, 記念誌に寄せて, 国の公衆衛生当局の立場から, 風しんの予防接種行政の変遷と排除達成に至るまでの道のり, そして今後の展望について述べる。

我が国における風しんワクチンの定期接種の始まりは, 1976年にさかのぼる。それまでの風しんの疫学的な状況として, 1960年代には世界的な風しん流行があり, 多数の先天性風しん症候群(CRS)児の出生が社会問題となっており, 日本でも1960年代半ばから局地的流行が続き, 妊婦への感染による胎児への影響が深刻視されたことが挙げられる。米国を中心とする欧米諸国で1969年に世界で初めて風しんの弱毒化ウイルスワクチンが開発・認可された後, 日本でも1976年の予防接種法の改正において, 風しんは予防接種を行うべき感染症として位置づけられ, 翌年1977年8月からは中学女子を対象とする定期接種が開始された。しかし, この定期接種は将来妊娠する可能性のある女性のみを対象としていたため, 風しんの流行そのものを抑制することはできず, 成人男性を感染源とする局地的流行は依然として散発していた。

平成の時代に入り, 1995年度から風しんの定期予防接種は, CRSの予防に加え, 風しんそのものの流行の防止を目的として, 接種対象者が男女幼児へと変更されるとともに, 時限措置として, 1995年4月~2003年9月にかけて, 中学生男女を対象に接種が行われた。さらに, 2006年度から麻しん風しん混合(MR)ワクチンの使用が開始され, 同年6月からは, それまでの1回接種から1歳児(第1期)と小学校入学前1年間の幼児(第2期)を対象とした2回接種に変更され現在の定期接種の体制が確立された。

しかし, 2012年から2013年にかけて, 日本では風しんの大規模な流行が発生し, 2年間で約17,000例が報告された。この流行の中心は20~40代の男性と20代の女性であり, 結果的に45例のCRS患者が発生する事態となった。これは, 過去に定期接種の機会がなかった, あるいは女子のみが対象であった世代に抗体を持たない集団が多く残っていたことが原因であった。これを受けて, 2014年3月に「風しんに関する特定感染症予防指針」が策定され, 2020年度までに風しんの排除を達成することが目標として掲げられた。加えて2019年度からは, 風しんの追加的対策として, 1962年4月2日から1979年4月1日までの間に生まれた男性を対象に, 風しんの第5期定期接種が導入された。風しん第5期定期接種は, 働く世代の男性が受けやすい体制整備を狙いとして, 事業所健診の際に抗体検査を実施することで効率的にワクチンを活用する等, 世界的にも例を見ない予防接種施策であった。当初は2022年3月までの3年間の予定だったが, 新型コロナウイルス感染症の影響により目標達成が困難となり, 2025年3月までに延長されている。この第5期定期接種により, ワクチン未接種世代の成人男性の免疫ギャップを埋め, 妊婦への感染・CRS発生リスクを下げるための追加的な集団免疫を強化でき, 今回の風しん排除につながったと言える。

風しん排除を目指す上で, 困難な課題の一つは定期接種率の向上と維持であった。特定感染症予防指針では, 第1期・第2期の定期接種率をそれぞれ95%以上とすることを目標としているが, 全ての市町村でこの目標を達成, 継続することは容易ではない。今年度排除は達成できたものの, 最新(2024年度)の全国のMRワクチンの接種率は第1期92.7%, 第2期91.0%と目標値を下回っており, 新型コロナパンデミックの期間から接種率低下の傾向は続いている。接種率低下の背景としては, 新型コロナウイルスの流行による受診控えや麻しんや風しんの流行がないから不要であるという保護者の考え等が挙げられる。また, 第5期定期接種においても2024年度までの累計で, 抗体検査を受けた人は対象人口の32.4%, 予防接種を受けた人は7.0%に留まった。この理由としては, 働く世代の男性にとって, 医療機関を受診する時間的制約や, 制度の複雑さ, 周知不足などが実施率向上の障壁として挙げられた。国としてはこれまでも, 自治体に対するMRワクチンの接種勧奨の通知やリーフレット等の配布, 第5期接種については抗体検査・予防接種の推奨についての自治体に対する補助事業を実施してきたところであるが, 引き続き医療関係者, 教育関係者, 自治体等に風しん対策と定期予防接種の重要性を丁寧に説明しつつ, 接種率低下の原因とその対策を検討していくことが重要である。

風しんは, 最も古くは鎌倉時代からその流行に関する記述が残っているなど, いにしえより伝わる感染症であり, 現在でも一般国民に広く知られている。他方で, 新型コロナウイルスパンデミックを契機とした, ワクチンに対する様々な情報の流布や生活様式の変化等による世界的なMRワクチンの接種率の低下と, それに伴う麻しん・風しんの地域的な流行は, 現に目の前にある公衆衛生上の危機である。今回の風しん排除認定は対策の終了ではなく, ましてや風しんを「人類が克服した昔の病」として過去に葬り去ることでもない。今後も風しん排除を持続し, CRSを発生させないようにするためには, 人口全体の抗体価を高く維持することが何よりも重要であり, 第1期・第2期の定期接種率を95%以上に保つことが不可欠である。また, 国際的にも, WHOはMeasles and Rubella Strategic Framework 2021-2030を策定しており, 各WHO地域における麻しん・風しん排除目標を実現しその状態を保つことを目標として掲げている。日本が所属する西太平洋地域(WPR)でも, まだ風しん排除を達成していない国・地域が残っているため, 他国に対して知見を共有していく意味で, 日本が着実に予防接種施策に取り組むことは重要である。

今後も, 医療関係者, 教育関係者, 保育関係者, 事業者等に風しん対策の御理解とMRワクチンの定期予防接種の御協力を賜りつつ, 予防接種施策の着実な推進に取り組んでまいりたい。

厚生労働省健康・生活衛生局
感染症対策部予防接種課  

(本稿は「風疹排除認定記念誌, 2025」より許可を得て転載。)

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