風疹・麻疹検査における内在性コントロール(ヒトRNase P RNA)の検出について

風疹・麻疹検査における内在性コントロール(ヒトRNase P RNA)の検出について
(IASR Vol. 47 p63-64: 2026年4月号)
はじめに
風疹は風疹ウイルスによって引き起こされる急性感染症であり, 発熱と発疹を特徴とする。臨床的には軽症の疾患であるが, 妊娠初期における風疹ウイルス初感染は先天性風疹症候群を引き起こす可能性があり, これは医療上・公衆衛生上深刻な問題をもたらす1)。また, 麻疹は重症化すると肺炎や脳炎を発症するほか, 感染前に獲得していた免疫記憶を大幅に減少させ, 他の病原体による感染リスクを高めることが指摘されている2)。両疾患は, ワクチン予防可能疾患として公衆衛生学上極めて重要な感染症であり, 世界保健機関(WHO)は麻疹および風疹排除を目標としている3)。わが国では感染症法に基づき, それぞれ策定された特定感染症予防指針4,5)のもと, 関係機関が連携してワクチン接種の推進および感染拡大防止に取り組んでおり, WHO西太平洋地域麻疹風疹排除認定委員会により2015年3月に麻疹, 2025年9月に風疹が排除状態にあることが認定された。今後も排除状態を維持するため, endemicウイルスが再興していないこと等を証明する必要がある。それには迅速な検査診断と遺伝子型解析が不可欠であり, ますます地方衛生研究所における正確な遺伝子検査の意義は高くなっている。今回, 検査精度の向上のため, ヒトRNase P RNAの同時検出系について検討したので報告する。
風疹ウイルス, 麻疹ウイルスおよびヒトRNase P RNAの同一反応系による検出法
WHOは風疹および麻疹の遺伝子検査における正確性と信頼性を確保する目的で, 内在性コントロールの使用を推奨している6)。患者から採取された検体には通常, RNase P RNA等のヒト由来核酸が含まれており, これら内在性コントロールのヒト由来核酸が検出されることは, 検体の採取, 保管, 輸送, RNA抽出および検査工程のすべてが適切に実施された指標となるためである。
そこで, 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「麻疹・風疹排除に資する持続可能なサーベイランスに関する研究」(研究開発代表者:国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所・森 嘉生)の分担研究開発課題「地方自治体における麻疹・風疹サーベイランス体制に関する研究」〔研究開発分担者:山口県環境保健センター・調 恒明(以下, AMED研究班)〕において, 風疹ウイルス, 麻疹ウイルスおよびヒトRNase P RNAの検出を同一反応系で実施する方法を検討し, 感度および特異度ともに良好な結果を得たことから, 令和7(2025)年2月に病原体検出マニュアル<麻疹・風疹同時検査法>第2版(以下, マニュアル)に掲載した7)。
山口県における風疹・麻疹検査におけるヒトRNase P RNAの検査実績
当県では, 令和7(2025)年4月から風疹・麻疹検査を実施する際に, 内在性コントロールとしてヒトRNase P RNAの検出を開始した。令和7(2025)年4月~令和8(2026)年1月までに実施した風疹および麻疹の検査症例数は合計19症例(咽頭ぬぐい液19検体, 血漿19検体, バフィーコート(以下, BC)19検体, 尿17検体)であった。19症例のうち, 4症例(咽頭ぬぐい液2検体, 血漿3検体)でヒトRNase P RNAが不検出であり, 風疹および麻疹ウイルスについても不検出であった。再度RNAを抽出し検査を実施したところ, 咽頭ぬぐい液2検体は検出されたが, 血漿は3検体すべて不検出であった(風疹および麻疹ウイルスは4症例すべて不検出)。
この結果から, ヒトRNase P RNAは有核細胞由来であるため, 血漿中の有核細胞が少なかったことが不検出となった一因と考えられる。RNase P RNAを用いて評価する場合, 血液検査検体としては, 細胞成分を含まない血漿, 血清は適していないと考えられる。また, 咽頭ぬぐい液は検体採取時の手技が重要であり, 採取方法について医療機関への確認および共有が必要と考えられた。
さいごに
風疹・麻疹の遺伝子検査において, 内在性コントロールとしてヒトRNase P RNAを検出することは, 検体採取, 検体の保管, 輸送, 検体からのRNA抽出および検査工程すべてを一括で評価できる内部精度管理として有用であると考える。本法を導入することで各施設における検査精度が担保され, 今後, わが国の風疹および麻疹の排除状態を維持していくための要件の1つである質の高いサーベイランス体制構築の一助となることを期待する。
本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業JP24fk0108628により実施された。
参考文献
- Winter AK, Moss WJ, Lancet 399: 1336-1346, 2022
- Mina MJ, et al., Science 366: 599-606, 2019
- WHO, Measles and rubella strategic framework: 2021-2030
https://www.who.int/publications/i/item/measles-and-rubella-strategic-framework-2021-2030 - 厚生労働省, 風しんに関する特定感染症予防指針, 平成26(2014)年3月28日〔平成29(2017)年12月21日一部改正・平成30(2018)年1月1日適用〕
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000186690.pdf - 厚生労働省, 麻しんに関する特定感染症予防指針, 平成19(2007)年12月28日〔平成28(2016)年2月3日一部改正・平成28年4月1日適用〕〔平成31(2019)年4月19日一部改正・適用〕
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000503065.pdf - WHO, Manual for the Laboratory-based Surveillance of Measles, Rubella, and Congenital Rubella Syndrome
https://www.who.int/teams/immunization-vaccines-and-biologicals/immunization-analysis-and-insights/surveillance/surveillance-for-vpds/laboratory-networks/measles-and-rubella-laboratory-network/manual-for-the-laboratory-based-surveillance-of-measles-rubella-and-congenital-rubella-syndrome - 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル<麻疹・風疹同時検査法>第2版, 令和7年(2025年)2月
山口県環境保健センター
安本早織 織田弥生 岡本玲子 浅沼康之 木下友里恵
松本知美 調 恒明
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
バイオインフォマティクス・オミクス研究部
森 嘉生
