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企業における風疹対策の取り組み

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企業における風疹対策の取り組み

(IASR Vol. 47 p70-71: 2026年4月号)

弊社は「従業員が心身ともにいきいきと働ける健康づくりを積極的に推進する」という富士フイルムグループの健康経営推進方針のもと, 地域社会の安心にもつながる風しん排除の取り組みを推進している。一人ひとりの健康を守ることが, 次の世代の健やかな未来へとつながるよう, 本活動に真摯に取り組んできた。厚生労働省の「風しんに関する追加的対策」を受け, 事業場内での集団発生抑制と「先天性風しん症候群」の予防を目的に, 2019年度より「風しん対策活動」に着手した。対象は, 2019年から2021年の間に在籍した1962(昭和37)年4月2日から1979(昭和54)年4月1日生まれの男性従業員409名である。この世代は, 公的な予防接種を受ける機会が一度もなかった層にあたる。

活動開始時のアンケート調査では, 対象者409名のうち, 既受検者や罹患歴・接種歴がある者, 特別な理由を有する者計50名を除いた359名を実働の検討対象とした。その結果, 社内検査を希望した従業員は334名(希望率93.0%)に達した。この結果を基盤に, 3カ年にわたり定期健康診断と合わせた抗体検査体制を構築した。職域健診の場を活用することは, 業務の合間に受検できるためハードルを下げる上で最も効果的であった。特に2020年度以降は, コロナ禍の影響で従業員が自ら医療機関を受診することが困難を極めた社会情勢を鑑みても, 職域健診の実施は極めて有効であった。

本活動の推進において, 組織的なバックアップは欠かせない要素であった。安全衛生委員会等を通じて本施策が企業の社会的責任やBCPに直結することを周知し, 経営層が強いリーダーシップで活動を全面的に後押ししたことが, 高い実績を上げる要因となった。実務面ではクーポン券の管理に工夫を凝らした。公費助成に必須なクーポン券の持参忘れを防ぐため, 産業衛生スタッフが事前に券を回収し, 健診当日に保健師が手渡す運用を徹底した。この体制により当日忘れをゼロにし, 当日実施率100%を達成した。回収・管理作業はスタッフにとって大きな業務負担となったが, このプロセスを通じて対象者一人ひとりとの関わりが増えたことは, 検査実施やその後の接種推奨に向けた信頼関係の構築に奏功した。また, 健康推進活動の周知につながり活動の裾野を広げることにつながった。

3年間の実施結果, 受検者は計332名, 実施率99.4%を記録した。検査の結果, 全体の抗体陽性率は75.3%であり, 若い世代ほど陽性率が低い傾向であった。一方で, 陰性者82名に対するワクチン接種率は2021年度末時点で28.0%に留まった。背景には, コロナ禍による受診控えやワクチンの重複接種への不安が影響したと考えられる。

その後, 新型コロナウイルス感染症5類移行後の2024年度に改めて追跡調査と追加対策を実施した。この年は国が追加的対策の期間を延長した最終年度にあたる。陰性で在籍中の66名を調査したところ, 約半数が依然として未完了であった。中には情報の風化により手続き方法がわからず停滞しているケースも見受けられたため, 産業医と保健師による集中的な推奨活動を展開した。希望者への再検査では, 過去の履歴を失念していたと思われる6名が陽性に転じていることが判明した。この事例は, 個人の記憶の限界と, 母子健康手帳等による健康記録の保持がいかに重要であるかを再認識させるものとなった。職域健診おける継続的な記録保持と本人へのフィードバックは, 健康情報の風化を防ぐために不可欠である。

最終的に接種推奨対象となった28名に対し, 産業医と保健師が個別説明と医療機関情報の提供を徹底した結果, 新たに18名が接種を完了した。これにより, 最終的な接種率は83%(陰性者66名中50名)まで向上した。2025年, 日本は「風しん排除国」として認定される大きな節目を迎えた。しかし, 認定は通過点であり, 職場における集団免疫を維持し, 次世代を守る責任が消えるわけではない。

本活動の成果は, 長年培ってきた弊社の健康管理体制と, 事業所が一体となった取り組みの賜物である。今後は本活動で得られた知見を活かし, 従業員が自身の接種歴や健康状態を正確に把握し, 個人の記録として大切に保管できるよう, 多角的な支援体制を構築していくことが喫緊の課題である。風しんへの意識を風化させず, 安心して長く働ける職場環境を実現するため, 私たちは今後も全社一丸となって健康管理の徹底に努めていく所存である。

謝辞 本活動につき専門家として貴重なご助言を賜りました砂川富正先生, 小野貴志先生(国立感染症研究所), ならびに神谷元教授(三重大学大学院)に深く感謝いたします。また, 全面的に後押ししてくださった葛西克郎常務執行役員, ならびに磯村英司鈴鹿事業所長, そして, 現場で尽力いただいた産業保健スタッフの皆さんに厚く御礼申し上げます。

最後に, 「従業員の健康こそがすべての基盤である」という理念のもとに, 本活動の遂行に理解と協力を示してくれた富士フイルムマニュファクチャリング株式会社に, 深く感謝の意を表します。この活動を通じて得られた知見は, 私たちの将来に向けた大切な財産となりました。本当にありがとうございました。

 富士フイルムマニュファクチャリング株式会社
 鈴鹿事業所 吉田美昌
 (本稿は「風疹排除認定記念誌, 2025」より許可を得て転載)

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