全国市町村における高齢者肺炎球菌ワクチン定期予防接種の実態調査

全国市町村における高齢者肺炎球菌ワクチン定期予防接種の実態調査
(IASR Vol. 47 p96-97: 2026年5月号)
背景
わが国の予防接種法において, 高齢者の肺炎球菌感染症に対する予防接種は定期接種(B類疾病)に位置付けられている。2014年10月1日より, 23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23, ニューモバックス®NP)による65歳以上を対象とした定期接種が開始された。B類疾病では, 市町村の接種勧奨や対象者に接種の努力義務はなく, 接種には一定の自己負担が生じる。そのため, 実施主体である市町村により接種対象者への個別通知の有無や自己負担額は異なるが, その実態は明らかでない。PPSV23による定期接種開始後10年以上が経過したが, 国内の65歳相当の定期接種率はおおむね40%未満である1)。そこで, 市町村による高齢者肺炎球菌ワクチンの定期接種事業実施状況を把握し, 定期接種率との関連を明らかにすることとした。
方法
調査対象は全国の市町村(n=1,741)とした。調査項目は(1)2020~2023年度における65歳相当の定期接種率, (2)個別通知の有無, (3)自己負担額, (4)任意接種への公費助成(定期接種機会を逃した高齢者を対象とした接種機会の再提供)の有無, の4項目とした。(1)はe-statで公開される65歳相当の接種者数(厚生労働省, 地域保健・健康増進事業報告)と人口(総務省, 住民基本台帳に基づく人口, 人口動態および世帯数調査)から算出した。なお, 各年の市町村別65歳人口を取得できなかったため, [“60歳~69歳人口”/10]を65歳人口として代用した。(2)-(4)はホームページ等公開情報から収集し, 確認できなかった市町村は, 郵送により調査を行った。また, 定期接種率が高い市町村(65歳人口200人以上, 接種率60%以上)に対しては接種率向上のための取り組みを電話で聴取した。
本調査は富山県衛生研究所倫理審査委員会の承認を得て実施した(受付番号:R6-8)。
結果
調査項目の(1)-(4)すべての情報が把握できた1,538市町村(88.3%)を解析対象とした。都道府県別の平均定期接種率は, 38.9±4.9%であった。市町村別では37.7±11.1%であり, 定期接種率が20%以下の市町村が96市町村(6.2%)あった(図1)。個別通知を実施する市町村は1,346市町村(87.5%)あり, 自己負担額の中央値(四分位範囲)は3,000(2,200-4,000)円であった。また, 任意接種への公費助成を実施する市町村は291市町村(18.9%)あった。個別通知を実施している市町村の平均定期接種率(39.3±9.7%)は, 実施していない市町村(26.6±13.6%)と比較して, 12.7%高かった(P<0.001, 図2-A)。また, 自己負担額と定期接種率に弱い負の相関(スピアマンの順位相関係数:Rs=-0.320, P<0.001)が認められた(図2-B)。任意接種への公費助成をする市町村の平均定期接種率(33.8±14.2%)は, 実施しない市町村(38.6±10.0%)と比較して4.8 %低かった。また, 重回帰解析を行い, 個別通知の有無や自己負担額など, 各項目間の影響を考慮しても同様の傾向であった(データ未掲載)。定期接種率が高い9市町村に接種率向上の取り組みを聴取した結果, 9市町村すべてで個別通知を実施しており, そのうち6市町村では未接種者に再通知を実施していた。
考察
2020~2023年度に実施した本調査において, 1,538市町村(全国の88.3%)の高齢者肺炎球菌ワクチン定期接種率は不均一であり, 個別通知を実施する市町村では定期接種率が有意に高いことを明らかにした。2015年度の定期接種率を評価した先行研究においては, 1,010市町村(全国の58.0%)のうち84.8%が個別通知を実施し, 定期接種率が高かった所見は本調査結果と矛盾しない2)。高齢者の肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの接種行動を評価した横断研究では, 未接種の理由として, “肺炎球菌ワクチンを知らない”が未接種者の3割を占めていた3)。本調査における接種率が高い市町村の多くが再通知を実施している結果からも, “肺炎球菌ワクチン接種を知らせる”ことが接種率向上に重要と考えられた。また, 多くの市町村が接種対象者に個別通知を行っているにもかかわらず, 定期接種率が低迷している現状については, 対象者の費用負担が接種行動の制限になっている可能性が考えられた。2026年4月から, 高齢者の肺炎球菌感染症に対する定期接種ワクチンが20価肺炎球菌結合型ワクチンに切り替わった。従来の23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンと比較して, 含有血清型に対する高い発症予防効果が期待されるが4,5), 自己負担額の上昇が予想されることから接種率の低下が懸念される。ワクチンの有効性, 安全性を踏まえ, かかりつけ医による医学的観点での接種勧奨がこれまで以上に重要となる。
謝辞:本調査にご協力いただいた市町村の予防接種事業の関係各位に深謝いたします。
参考文献
- 厚生労働省, 定期の予防接種実施者数
https://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/other/5.html - Murakami Y, et al., BMJ Open 9: e030197, 2019
- Sato K, et al., J Epidemiol 32: 401-407, 2022
- 厚生労働省, 第64回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会, 資料1-2
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001654124.pdf - 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所, 成人用肺炎球菌ワクチンファクトシート
富山県衛生研究所
前西絵美 田村恒介 高田真衣(現・富山県立中央病院検査科)
中崎美峰子 高橋 敏 神吉絹子 笹島 仁 大石和徳
