福岡県内の保育園における腸管出血性大腸菌O145による集団感染事例

福岡県内の保育園における腸管出血性大腸菌O145による集団感染事例
(IASR Vol. 47 p79-81: 2026年5月号)
成人男性の腸管出血性大腸菌感染症(O145, VT2)(以下, O145)の発生に続いて, 当該患者の子どもが通う保育園(以下, A保育園)でO145の集団感染が発生した事例について報告する。
発生状況
本事例におけるO145感染者の発生状況を図に示す。
2025年X日に福岡県内の成人男性【a】が腹痛を呈し(図-i), 入院先の医療機関でO145が検出された。その後, この患者の子ども3名(A保育園の1歳児クラス1名【b】, その他のクラス1名【d】, 小学生1名【c】)からも, 同様にO145の届出がされた。保健所は【b-d】が通うA保育園や小学校での感染拡大を防ぐため, 各施設を通じて保護者に対し, 感染対策を伝えるとともに, 体調不良の際には, 速やかに医療機関を受診するよう注意喚起した。
X+18日に【b】と同じ1歳児クラスの園児【e】が発症しO145の届出がされた。また, 同クラスには, 腹痛や水様性下痢の消化器症状を呈して医療機関を受診している園児が他にも確認されたことから, 保健所は園内での集団感染を疑い, 1歳児クラスの職員および園児を対象に検便を実施した。職員からはO145が検出されなかったが, 園児1名【j】が陽性となった。加えて, 医療機関から3名の園児(1歳児クラス2名【f, h】, その他のクラス1名【g】)の届出がされた。これまでの疫学調査の結果から, 保健所は集団感染と判断し, A保育園に対して感染対策指導を実施した。その後, 1歳児クラスの陽性園児全員の陰性が確認され, さらに陽性園児の最終登園日(【f】がX+30日まで登園していた)から14日間, 園内で新たな有症者の発生がなかったことから, 保健所はX+44日に集団感染の終息を判断した。
しかし, X+58日, 新たに【g】の家族である園児2名【n, o】についてO145の届出がされた。1歳児クラスの園児【o】は発症後も登園していたため, 保健所は再度そのクラスの園児を対象に検便を実施したが, 対象者はすべて陰性であった。保健所は先の集団感染が継続していた可能性を考慮して, X+73日に集団感染の終息を再度判断した。
感染者の概要
本事例では, 成人および小児を合わせて計16名【a-p】から腸管出血性大腸菌感染症の届出がされた。溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した1名【h】を除いて15名からO145が分離された。届出がされた16名のうち11名【b, d-k, n, o】は園児であり, 残りの5名【a, c, l, m, p】は各園児の家族であった(図-ii)。園児11名の内訳は, 1歳児クラスが6名, 残る5名は各園児の兄弟【d, g, i, k, n】であり, 在籍クラスは計4クラスに分かれていた。
届出のあった16名のうち有症者は11名(1歳児クラスの園児5名, その他クラスの園児3名, 園児の家族3名)で, 症状の内訳は, 水様性下痢8名(73%), 腹痛6名(55%), 血便4名(36%), HUS1名(9%), 嘔吐1名(9%)であった。また, 無症状者は5名(1歳児クラスの園児1名, その他クラスの園児2名, 園児の家族2名)であった。
保健所による対応および感染対策指導
施設調査を通じて, A保育園では, おむつ交換時における職員の手袋着用や, おむつ交換用ベッドの消毒など, そのつど行われており, 基本的な感染症対策は実施されていることが確認された。一方, 1歳児クラスでは, 保育室内にトイレの区画が設けられており, 園児が素足でトイレ内に出入りしている状況であった。また, 汚染した足からの感染の可能性を考え, 園児が自らの足先を口に入れる行為があるか保育園職員へ聞き取りを行ったところ, 当該行為が確認された。
これらの状況から, 足に付着したO145がトイレ区画外に持ち出され, 感染拡大に関与する可能性が考えられたため, トイレ床の清掃頻度を増やすことに加え, 必要に応じて園児の足の洗浄や消毒を行い, 園児の足を清潔に保つよう指導した。
細菌学的検査結果
本事例で分離された15名分の菌株は, すべてO145 VT2陽性であった。国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所により実施された反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)の結果は, 以下の通りであった。MLVA typeの内訳は, 25m6003(11名), 25m6002(3名), 25m6005(1名)で, 25m6003と比較して, 25m6002は1カ所, 25m6005は2カ所の遺伝子座で違いがみられた。また, 3つのMLVA typeは, MLVA complex 25c601に含まれた(図-ii)。
考察
本事例では, 保育園内においてどのように感染拡大したかは明らかとならなかったが, 素足でのトイレ使用や足を口に入れる行為など, 乳幼児特有の生活行動が感染拡大に関与した可能性が考えられた。そのため, 保育施設ではこのような行動を踏まえた衛生管理の徹底が重要である。
X+23日に発症し, その後, 陰性確認された【g】の家族(園児【n, o】と【p】)から, 遺伝学的な関連が示唆される同一MLVA complexのO145がA保育園での集団感染終息(X+44日)の後に検出された(図-i)。このことから, 【g】の家族における感染事例は保育園での集団感染の継続であった可能性が示唆された。しかし, X+44日の終息判断後に【g】の家族で先行発症した【n】は, 1歳児クラスではない園児であり, また, 陽性園児【f】の最終登園日から18日後(X+48日)に発症していた。腸管出血性大腸菌感染症の潜伏期間は通常14日以内のため1), 【g】の家族の感染事例が保育園の集団感染の継続によるものかは明らかとならなかった。このため今後は, 追加の疫学情報を補填することや, より高精度の分子疫学的手法を用いることなどにより, さらなる検証を行う必要がある。
謝辞:調査にご協力を賜りました保育園職員, 園児および保護者の皆さまに心より感謝申し上げます。また, 調査にご協力いただきました福岡市保健環境研究所および福岡市保健所のご担当者様, 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所・細菌第一部の先生方に深く御礼申し上げます。
参考文献
- 岡部信彦ら編, 日本公衆衛生協会, 感染症予防必携 第3版, 395-397, 2015
福岡県保健環境研究所
小山夢玄 重村洋明 本村由佳 カール由起 片宗千春 上田紗織 芦塚由紀
糸島保健福祉事務所
田浦綺未 中山志幸 高田ひろみ 柴田和典
