腸管出血性大腸菌感染症O26 VT2の広域集積事例

腸管出血性大腸菌感染症O26 VT2の広域集積事例
(IASR Vol. 47 p83-84: 2026年5月号)
探知
2025年1月6~15日にかけて, 北海道および東北地方の3つ以上の自治体から腸管出血性大腸菌(EHEC)O26 VT2症例が6例届出された。国内で分離されるEHEC O26のうち, Vero毒素2型(VT2)産生株は約6%と稀である1)。また, O26 VT2症例は2024年11~12月(第45~52週)2)に合計2例の届出にとどまっていた。このような状況下で, 10日間に複数自治体から届出が相次いだことから, 国立感染症研究所応用疫学研究センターでは, 共通の感染源による広域事例の可能性を疑った。そこで, EHECミーティング3)で関係者間の情報共有を行い, 関係自治体から詳細な疫学情報を収集した。
方法
関連症例を幅広く把握し, 共通曝露の有無を検討するため, 症例定義を設定し積極的症例探索を行った。症例定義は, 感染症発生動向調査において2025年1月1~31日までを診断日として届出られた症例のうち, 確定例をO26 VT2が検出された症例, またはO26 VT2検出例と同一の反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)typeが検出された症例とし, 疑い例を確定例と疫学的関連がある, または確定例の届出があった自治体から届出されたO26 VT不明例もしくはO不明VT2(OUT VT2)症例とした。これらの症例について, 発症日, 性別, 年齢を感染症発生動向調査に届出された情報から収集し, さらに関係自治体を通じて喫食状況等の詳細な疫学情報を収集した。また, 施設調査結果と食品保健総合情報処理システム(NESFD)で共有されたMLVA検査結果リストの疫学情報を利用した。
結果
症例定義を満たした症例は, 確定例が10例, 疑い例が2例であった。症例の診断日および発症日別流行曲線を図に示す。症例の発症日は2025年1月1~12日であった。届出数は秋田県が5例(うち疑い例:2例)で最も多く, 次いで北海道3例, 宮城県2例, 山形県および岩手県各1例であった。症例の年齢中央値は31歳(範囲:11-64歳), 男性は50%, 有症状者は67%であり, 溶血性尿毒症症候群等の重症例は認めなかった。
確定例10例は, いずれも発症または採便前に外食チェーンA(店舗は異なる)を利用していた。一方で, 疑い例2例は外食チェーンAの利用が確認されなかった。確定例10例のうち, 菌株解析が可能であった8例のMLVA typeは, 25m2001が5例, 22m2107が3例であった。また, 25m2001は1月1~4日, 22m2107は1月8~12日に発症した症例から検出される傾向が認められた(図)。
菌株解析が可能であった8例の外食チェーンAでの喫食状況では, 8例すべてがメニューBを喫食しており, 8例のうち7例がメニューCを喫食していた。さらに, メニューBとCに使用された食材のロット番号が症例間で部分的に一致したが, 同食材の保管がなく, 検査には至らなかった。得られた情報は外食チェーンAの本社を所管する自治体に共有され, 本社から各店舗への注意喚起が行われた。
考察
すべての確定例で外食チェーンAの利用が認められたことから, 本事例は外食チェーンAで提供された食事に関連する可能性が示唆されたが, 原因を特定することはできなかった。また, 菌株解析が可能であった8例においてMLVA type 25m2001が5例, 22m2107が3例に共通して検出されたことは, 共通曝露の可能性を支持する所見であった。一方で, 複数のMLVA typeが検出されたこと, 図に示すようにMLVA typeごとに発症時期が異なる傾向が認められたことから, 汚染源が複数あった可能性も否定できない。なお, 本事例調査の限界として, 収集可能であった情報が限定的であったため, 2つのMLVA typeと特定の食材等との関連を評価するための情報は得られなかった。
本事例では, 各自治体において喫食遡り調査が迅速に実施され, 疫学情報が早期に集約された結果, 確定例に共通する外食チェーンAの利用を早期に把握できた。さらに, 菌株確保とMLVA解析が並行して進められたことで, 症例間の分子疫学的関連性を早期に評価することができた。
稀な血清群・毒素型のEHEC症例が同時期に複数届出された場合は, 共通の感染源による広域事例の可能性を念頭に対応することが重要である。一方で, 症例が複数自治体に散発する広域事例の場合, 自治体単位では全体像を把握しづらい。そのため, 本事例のような状況では, 全体の調整役を早期に決定し, 関係者会議等を開催して情報共有を図るとともに, 共通調査票等による収集項目の標準化を含め, 共通曝露の有無を迅速に検討することが重要である。
謝辞:調査にご協力いただきました自治体本庁, 保健所, 地方衛生研究所関係者の皆様に深謝いたします。
参考文献
- IASR 46: 91-93, 2025
- 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, IDWR 2024年第45週(第45号)~第52週(第52号)
- 高良武俊ら, IASR 45: 83-84, 2024
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース(FETP)
森 秀哉 村井達哉 田才愛子 中満智史 立花佳弘 池田優美 澤 友歌 藤井英里
応用疫学研究センター
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感染症サーベイランス研究部
高橋琢理 高原 理 神垣太郎
細菌第一部
泉谷秀昌 明田幸宏
