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2025年に発生したEHEC MLVA complex 25c007による広域事例対応

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2025年に発生したEHEC MLVA complex 25c007による広域事例対応 

(IASR Vol. 47 p84-86: 2026年5月号)

はじめに

腸管出血性大腸菌(EHEC)による広域の食中毒事例では, 同一分子タイプのEHECが同定された症例群をクラスターとして位置づける。クラスターの中でも感染地域や喫食歴等, 特定の共通点をもつ集団をサブクラスターととらえ, 感染原因や経路を特定するための疫学調査を実施する。また, 症例から得られた菌株は反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)によりMLVA typeを決定し, 分子疫学的な近縁株をMLVA complexとして分類する。

探知

国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所・実地疫学専門家養成コース(FETP)では, 全国からのEHEC感染症届出例について異常な症例の集積や広域散発事例の検知と対応を目的として, 日々, 情報の監視と解析および評価を行っている1)。2025年第29週に, 過去4週間で関東地方の複数の自治体から, EHEC MLVA complex 25c007が10件検出されたことを探知し, 疫学情報の収集を開始した。

方法

食品保健総合情報処理システム(NESFD)で共有されたMLVA検査結果リストに登録された症例のうち, 2025年4月1日~12月31日までに, EHEC MLVA complex 25c007が検出された症例を対象とした。NESFDから喫食歴とMLVA typeを, 感染症発生動向調査から基本情報, 発症日, 報告自治体の調査情報を収集し, 記述した。また, 広域散発食中毒事案が疑われたため, 関連自治体が参加するweb会議による情報交換が実施され, 報告された情報を得た。さらに, 9都道県の症例から検出されたEHEC 39株の一塩基多型(SNP)解析を実施し, 菌株の相同性を検討した。

結果

発症日別流行曲線(図-A)は, 第26週に関東地方(東京都, 神奈川県)で先行して14例発症し第29週にかけて減少し, 第31~37週には関東地方で継続して届出されていることに加えて西日本(兵庫県, 福岡県)へも拡がり, 第40~42週に島根県で9例の集積を認めた。届出された61例のうち, 患者52例(85%), 重症例は溶血性尿毒症症候群(HUS)5例(8%)であった。年齢中央値は33歳(範囲:4-96歳)で男女差はなかった()。

同一MLVA complex届出の集積がみられたため, 第31週, 第44週にweb会議で対応が検討された。疫学情報から発症日が第25~27週の関東地方18例(関東クラスターという), 第40~42週の島根県9例(西日本クラスターという)がサブクラスターであると考えられた。関東クラスターの83%(15/18例)が焼肉店(9店)を利用しており, 喫食した食材の割合はハラミ73%(11/15例), カルビ53%(8/15例), タン40%(6/15例), サニーレタス27%(4/15例)であった。8例(53%)が利用した3店でハラミ肉の仕入れ元が同じであったが, 肉の部位や産地が異なっていた。サニーレタスの流通経路のさかのぼり調査情報は得られなかった。西日本クラスターでは67%(6/9例)が共通のスーパーを利用していたが, 購入品の詳細は確認できなかった。

MLVA complex 25c007に含まれるMLVA typeは10種類と多数存在していた(図-B)。関東クラスターではMLVA type 24m0583が67%(12/18件), 西日本クラスターでは, 第26週以降継続的に検出されていた24m0495が67%(6/9件)を占めた。同MLVA complexに属する株のうち検出された地域, 時期が異なる39株に対してSNP解析を行ったところ, 各株間の違いは20塩基以下で, 近縁性は高かった。また, これらの株は高病原性を示す遺伝系統(clade 8)に属した2,3)

考察

EHEC MLVA complex 25c007が検出された届出症例の8%がHUSを発症しており, SNP解析により高病原性を示すclade 8に属することが明らかとなった。

記述疫学では, 地理的および時間的に異なるサブクラスターである, 関東クラスターと西日本クラスターの間に疫学的関連を示唆する結果を認めず, 感染経路が異なる可能性があった。一方, 関東および西日本クラスター由来株の近縁性は高く, 同一の感染源が存在すると考えられた。

本事例は広域事例と判断され, web会議による情報交換を行った。しかし, 実施した時点で発症から約1カ月経過していたため, その後の疫学情報収集が難しく, 感染原因および経路の特定には至らなかった。広域事例の原因究明と公衆衛生対策のためには, サブクラスターの初期に発生した5-10症例に対して重点的な疫学調査を実施し, 感染の原因を特定することが重要である4)。米国では, 遺伝子検査の結果判明には感染から3~4週間かかるため, 関係機関が連携した対応が重要と認識され, その仕組みを構築している5)。わが国でも自治体や政府等の連携により, 発症から時間が経っても, 情報の集約および解析が実施できる体制の構築が必要であると考えられた。

謝辞:調査にご協力いただきました自治体本庁, 保健所, 地方衛生研究所関係者の皆様に深謝いたします。

参考文献

  1. 高良武俊ら, IASR 45: 83-84, 2024
  2. Iyoda S, et al., Open Forum Infect Dis 1: ofu061, 2014
  3. Manning SD, et al., Proc Natl Acad Sci USA 105: 4868-4873, 2008
  4. CIFOR, GUIDELINES FOR FOODBORNE DISEASE OUTBREAK RESPONSE: 102-103, 2020
    https://cifor.us/downloads/clearinghouse/CIFOR-Guidelines-Complete-third-Ed.-FINAL.pdf
  5. CDC, Foodborne Outbreak Investigation Timeline
    https://www.cdc.gov/foodborne-outbreaks/outbreak-basics/investigation-timeline.html

  国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所         
   実地疫学専門家養成コース(FETP)
    澤 友歌 森 秀哉 村井達哉 田才愛子 中満智史 立花佳弘 池田優美 藤井英里      
   応用疫学研究センター      
    門脇知花 西野綾乃 福住宗久 八幡裕一郎 島田智恵 砂川富正
   感染症サーベイランス研究部   
    高橋琢理 高原 理 神垣太郎 
   細菌第一部           
    李 謙一 泉谷秀昌 明田幸宏

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