2025年に分離された腸管出血性大腸菌のMLVA法による解析

2025年に分離された腸管出血性大腸菌のMLVA法による解析
(IASR Vol. 47 p86-88: 2026年5月号)
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所・細菌第一部では2014年から腸管出血性大腸菌(EHEC)O157, O26, O111, 2017年からさらにO103, O121, O145, O165, O91について, 反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)法による分子疫学サーベイランスを行っている。本稿では2026年3月19日時点における, 2025年分離株のMLVA法による解析結果をまとめた。
当部に送付された2025年のEHEC分離株は3,793〔2018年6月29日付の厚生労働省事務連絡「腸管出血性大腸菌による広域的な感染症・食中毒に関する調査について」(2023年6月28日に再周知)に基づいて送付されたMLVAデータを含む〕であった。これは同時期前年比23%増であり, このうち3,168株(84%)をMLVA法で解析し, 型名を付与した。各血清群における解析株数, 検出型数およびSimpson’s Diversity Index(SDI)*は, O157が2,219株, 861型, 0.990(昨年同時期のSDI:0.997), O26が381株, 164型, 0.984(0.983), O111が125株, 69型, 0.960(0.986), O103が301株, 97型, 0.945(0.965), O121が30株, 21型, 0.945(0.968), O145が54株, 21型, 0.896(0.978), O165が3株, 3型, 1.00(1.00), O91が52株, 40型, 0.987(0.993)であった。株数の同時期前年比は, O157:25%増, O26:2.8%減, O111:17%減, O103:99%増, O121:50%増, O145:108%増, O165:63%減, O91:11%増であった。
*多様性を表す指数のひとつ。0-1の範囲で1に近いほど多様性が高く, 0に近いほど多様性が低いことを示す。
表1に血清群O157, O26, O111のうち, 検出された菌株数が多かったMLVA typeおよびその各遺伝子座のリピート数を示す。
MLVAでは, リピート数が1遺伝子座において異なるsingle locus variant(SLV)など, 関連性が推測される型をcomplexとしてまとめる様式をとっている。2025年は95のcomplexが同定された(前後の年をまたぐcomplexを含む)。
同じMLVA typeの株からなるクラスターは427であった。complexを考慮した場合のクラスター数は380であった。最大のクラスターは25c055で, 203株から構成された。
MLVA法によって試験した菌株に関し, 送付地方衛生研究所(地衛研)等(機関)の数に基づいて広域株の検索を行った。5以上の機関で検出された, いわゆる広域complexは28種類(728株), complexに含まれないが5機関以上で検出された広域型は27種類(285株)であった。上位の広域株について, 分離地域(ブロック)の分布は表2に示すとおりであった。主な広域株の地理的分布およびMLVAに基づくminimum spanning treeを図に示す。これらに関連する集団事例等については他稿を参照されたい。
MLVA法により迅速な菌株解析が可能となったことで, 集団事例および家族内事例における菌株の同一性, 散発例も含めた事例間の関連性および広域性の有無などの情報がよりリアルタイムに還元できるようになってきている。また, 前述の事務連絡によって, 血清群O157, O26, O111について地衛研で実施したMLVAデータから直接MLVA typeを付与し, 当該typeの一覧をMLVAリストとして共有することで, より早い情報共有が可能となっている。今後も迅速な菌株解析ならびに情報共有に努めていくので, 引き続き関係機関のご理解とご協力をお願いしたい
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
細菌第一部
泉谷秀昌 李 謙一 伊豫田 淳 明田幸宏
