韓国渡航歴に関連した腸管出血性大腸菌感染症について, 2018~2025年

韓国渡航歴に関連した腸管出血性大腸菌感染症について, 2018~2025年
(IASR Vol. 47 p88-89: 2026年5月号)
韓国渡航後の腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli : EHEC)感染症について, 2023年以降に症例の増加がみられていることが2025年に報告された1)。本稿は, 韓国渡航例におけるEHEC感染症の属性や喫食の特徴を把握し, 韓国以外の海外渡航症例との比較を通じて韓国への渡航者に対する感染予防策の検討を行った。
症例定義は, 感染症発生動向調査において2018年1月1日~2025年12月31日にEHEC感染症と届出された症例のうち, (1)感染地域欄に「大韓民国」あるいは「韓国」, 「ソウル」の記載, または(2)経口感染欄や備考欄等に韓国渡航歴に関する情報の記載がある者を「韓国渡航例」とした。同一期間において, 感染地域欄に渡航先の国・地域が明記されている者, または経口感染欄や備考欄等に渡航先の国・地域に関する情報の記載がある者を「韓国以外の海外渡航例」とした。症例定義のうち, 症例が報告された国・地域で最も多かった韓国を含めた上位5カ国・地域の渡航者の属性分布について, 2026年2月10日時点で抽出したデータを用いて比較・検討した。
感染地域欄に国外と報告されたEHEC感染症症例の国または地域は, 54カ国・地域(866例)であった。症例数が最も多い国・地域は韓国(519例)であった。これは全症例の1.8%で, 国外感染例の60.0%を占めた。次いでベトナム(77例), フィリピン(32例), インドネシア(31例), タイ(31例)であった。
韓国渡航例の症例数は544例で, その年間症例数の推移は, 2018年32例, 2019年57例, 2020年0例, 2021年0例, 2022年4例, 2023年98例, 2024年176例, 2025年177例であり, 2023年以降, 韓国渡航例の症例数の増加がみられた。
韓国渡航例を含む上位5カ国の基本属性を比較した結果を表に示す。韓国渡航例は他の4カ国渡航例と比べて女性が多かった。韓国渡航例以外の4カ国渡航例には重症例〔溶血性尿毒症症候群(HUS)および脳症〕がなかった。また, 韓国渡航例は71%に牛生肉等の記載があったが, 韓国渡航例以外の4カ国渡航例の牛生肉等喫食に関連した記載割合は0-3%で, 韓国渡航例の方が高い割合であった。
韓国渡航例の牛生肉等喫食の割合の推移は2018年23例(72%), 2019年34例(60%), 2022年1例(25%), 2023年62例(63%), 2024年130例(74%), 2025年134例(76%)で, 2023年以降増加していた。2023~2025年における韓国以外の4カ国渡航例(ベトナム52例, フィリピン12例, インドネシア15例, タイ22例)では, 牛生肉等喫食の記載があった割合は各国とも0-8%(各国各年の症例数:0-1例)であった。
2023年5月以降, 日本人の出国者数の増加が報告されている2)。日本人の韓国渡航者数は2021年以降増加傾向にあり, 2025年は2021年以降最多であった。このような渡航者数の増加が, 韓国渡航例の症例数増加の一因となっている可能性がある。
感染症発生動向調査の届出票の経口感染欄に記載される食材は, 経口感染の原因と確定されているわけではないため, 曝露要因が正確に把握できている訳ではない。ただし, 牛生肉等の喫食はEHEC感染のリスクがあるとともに, 重症例につながることが報告されている3,4)。韓国渡航例は牛生肉等の喫食割合が韓国以外の海外渡航例と比較して高い可能性があるため, EHECへの感染リスクを避けるためには, 渡航先での牛生肉等の喫食を避ける行動に繋がる啓発が必要である。厚生労働省5)は「海外でも生肉の喫食に注意」のポスターを発行して空港等での注意喚起を行っており, このような啓発の継続が重要と考えられる。
参考文献
- 村井達哉ら, IASR 46: 104-106, 2025
- 株式会社JTB総合研究所, アウトバウンド日本人海外旅行動向
https://www.tourism.jp/tourism-database/stats/outbound/ - Nehoya KN, et al., PLoS ONE 15: e0243828, 2020
- Yahata Y, et al., Epidemiol Infect 143: 2721-2732, 2015
- 厚生労働省検疫所FORTH, 海外での食べ物にご注意ください!
https://www.forth.go.jp/news/20241101_00001.html
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
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