コンテンツにジャンプ
国立健康危機管理研究機構
感染症情報提供サイト
言語切り替え English

トップページ > サーベイランス > 病原微生物検出情報 (IASR) > 血液培養から検出されたバンコマイシン感性VanM型バンコマイシン耐性遺伝子保有Enterococcus faecium

血液培養から検出されたバンコマイシン感性VanM型バンコマイシン耐性遺伝子保有Enterococcus faecium

logo35.gif

血液培養から検出されたバンコマイシン感性VanM型バンコマイシン耐性遺伝子保有Enterococcus faecium

(IASR Vol. 47 p116-117: 2026年6月号)

はじめに

近年, わが国においてバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の増加が懸念されている。一般的にVREはVanA型およびVanB型が主流であるが, 今回, VanM型のVREによる菌血症事例を経験した。VanM型はわが国では報告が稀な遺伝子型であり1), FilmArray®システム(ビオメリュー・ジャパン社)とGeneXpert®(ベックマン・コールター)での結果が乖離することや, 薬剤感受性検査ではバンコマイシン(VCM), 特にテイコプラニン(TEIC)の最小発育阻止濃度(MIC)が低く, 市販されているVRE選択培地を使用しても検出不能であったこと等, 検査上注意を要する事例であったため報告する。

症例

60代男性。40代時の鼠経ヘルニア手術歴以外, 特記すべき既往歴なし。海外居住歴なし。健康診断にて血球異常所見を認め, 急性骨髄性白血病と診断された。臍帯血移植目的で入院し, 寛解導入療法後X年9月に臍帯血移植を実施した。移植時に発熱性好中球減少症のため, 16日間のVCM投与歴がある。移植後, 腸管粘膜障害症状にて水様便頻回となり, 急性腎不全を合併し, 持続透析適応のためICU入室した。ICU入室後より発熱があり, 敗血症の疑いにて血液培養を実施したところ陽性となったため, 培養液からFilmArray®システムによるBioFire®血液培養パネル2にて遺伝子検査を実施したところ, Staphylococcus epidermidis, Candida parapsilosis, Enterococcus faeciumおよびvanA/Bが陽性となりVREを疑う結果となった。しかし, 分離されたE. faeciumの薬剤感受性検査結果はグリコペプチド系抗菌薬に感性(VCM MIC1μg/mL, TEIC MIC≦2μg/mL)となったため, GeneXpert®によるXpert®vanA/vanB検査を行ったところvanAvanBともに陰性となり, FilmArray®と異なる結果が得られたことから, 分離株について国立感染症研究所・薬剤耐性研究センターに解析依頼した。患者はVRE疑いが判明した時点より個室隔離, 接触予防策を実施した。

なお, 当院では他院入院歴のある患者や重症患者を中心に便培養によるVREのスクリーニング検査を年間約4,000件程度実施しているが, VREは持ち込みを除くと2024年に1件検出されたのみである。また, 迅速かつ適切な抗菌薬治療のために血液培養陽性例は全例FilmArray®システムによる遺伝子検査を実施している。BioFire®血液培養パネル2では添付文書上, vanM遺伝子とvanA/Bアッセイとの交差反応を示す旨の記載がある2)

分離株の分析

1.菌種同定とPCRによる薬剤耐性遺伝子の検出および薬剤感受性試験

国立感染症研究所 病原体検出マニュアル 薬剤耐性菌〔令和2(2020)年6月改訂版Ver2.2〕に準じて, 菌種の確認のためddl遺伝子を対象としてPCRを実施したところ, E. faeciumddl遺伝子を検出した。バンコマイシン耐性遺伝子はDutka-Malen法でのPCRでは, vanA, vanB, vanC1, vanC2/C3遺伝子はすべて陰性であったことから, Nomura Tらの方法3)に準じて, 再度PCRを実施し, vanM遺伝子を検出した。

VCMおよびTEICに対する薬剤感受性試験はEtestを用いて実施し, MICは, VCM 1.5μg/mL, TEIC 0.75μg/mLであった。

2.全ゲノム解析(whole-genome sequencing: WGS)

WGSはiSeq(Illumina)を用いて実施し, バンコマイシン耐性遺伝子の検索およびmultilocus sequence typing(MLST)を行った。検出したバンコマイシン耐性遺伝子群(vanR, vanS, vanY, vanH, vanM, vanX4)をVanM型バンコマイシン耐性E. faeciumの参照株Efm-HS0661の配列(Accession No.FJ349556)5)と比較したところ, vanXを除くvanRからvanMまでの4,907bpの配列は100%一致した。一方, vanX遺伝子は5’末端から273bpまでの部分配列のみが検出され, 配列途中からinsertion sequence(IS)と考えられる配列の挿入が確認された。vanXは, バンコマイシン耐性発現において重要な役割を果たすD-Ala-D-Ala分解酵素をコードする遺伝子であり, この遺伝子が正常に機能しない場合, vanM遺伝子群を保有していても, 表現型としてはバンコマイシンに対して感性を示すこととの関連が報告されている5,6)。MLST解析では, 医療関連感染との関連が指摘されているclonal complex(CC)17に属するST789に分類された。

結語

VanM型VREは2010年代に中国上海を中心に拡大した報告がある6)。その薬剤感受性は様々であるが, グリコペプチド系抗菌薬が感性を示した株であってもバンコマイシンへの曝露によって耐性化することが知られており7), 治療中の耐性化が懸念される。本菌株はBioFire®血液培養パネル2で検査したことにより偶発的に検出できたが, グリコペプチド系抗菌薬の薬剤感受性結果やVRE選択培地では検出できない株であった。わが国においてはVanM型VREの報告はわずかであるが, 潜在的に拡散している可能性が懸念された。

参考文献

  1. Hashimoto Y, et al., Front Microbiol 10: 2568, 2019
  2. ビオメリュー・ジャパン株式会社, BioFire 血液培養パネル2 添付文書
  3. Nomura T, et al., J Microbiol Methods 145: 69-72, 2018
  4. 富田治芳, IASR 42: 157-158, 2021
  5. Xu X, et al., Antimicrob Agents Chemother 54: 4643-4647, 2010
  6. Chen C, et al., Antimicrob Agents Chemother 59: 7795-7798, 2015
  7. Sun L, et al., Antimicrob Agents Chemother 68: e0115923, 2024

  
  東京慈恵会医科大学附属病院感染対策部           
   美島路恵 田村 卓 中澤 靖 
  国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所        
   薬剤耐性研究センター     
    上地幸平 稲嶺由羽 松井真理 鈴木里和
 

PDF・Word・Excelなどのファイルを閲覧するには、ソフトウェアが必要な場合があります。
詳細は「ファイルの閲覧方法」を確認してください。