和歌山県におけるつつが虫病の分子疫学(2007~2025年)およびKarp型初検出について

和歌山県におけるつつが虫病の分子疫学(2007~2025年)およびKarp型初検出について
(IASR Vol. 47 p119-120: 2026年6月号)
はじめに
つつが虫病は感染症法で4類感染症に分類され, 患者の発生については, 診断した医師から保健所への届出が義務付けられている。和歌山県環境衛生研究センター(以下, 当センター)では, 検査診断のための臨床材料を用いた病原体遺伝子の検出と抗体検査を実施している。本稿では, 2007~2025年の当センターの感染症法に基づく積極的疫学調査結果に基づき, 2025年12月に初めて確認されたKarp型を含めた, 和歌山県におけるつつが虫病の発生状況等について報告する。
発生状況
2007~2025年の当センターの検査で陽性となったつつが虫病95例(うち93例が病原体遺伝子の検出による)を対象に解析を行った。
結果, 60~80代の症例が多く, 全体の約8割を占めた。なお, 発生時期と地域に一定の傾向が認められ, 発生時期は11~12月にピークがみられ(図1), 推定感染地域(不明10例, 重複1例を含む計96例)は, 県北部でも散見されたものの, 県南部に集中しており, 田辺市60例, 西牟婁郡20例と, 県全体の8割以上を占めた(図2)。また, 地域別の年次推移として, 田辺市, 西牟婁郡は2014年以降ほぼ毎年検出されている(図3)。主な症状・所見は, 発熱94例(98.9%), 発疹92例(96.8%), 刺し口77例(81.1%), 全身倦怠感63例(66.3%), リンパ節腫脹34例(35.8%), 頭痛22例(23.2%)などが認められた(重複を含む)。
遺伝子解析結果
つつが虫病リケッチア(Orientia tsutsugamushi)の56kDa蛋白遺伝子を標的としたnested PCR1,2)により陽性となった93例について, ダイレクトシーケンス法による遺伝子配列の解析を行った。解析結果からKawasaki型(84例), Kuroki型(8例), Karp型(1例)に分類された(図1)。2007年以降継続して実施してきた血清型別において, Karp型は2025年12月に初めて検出された。
Karp型つつが虫病患者について
患者は60代女性で, 2025年12月に発症(発熱, 発疹, リンパ節腫脹, 全身倦怠感等)し, 医療機関を受診した。入院は要さず, 2~3日で回復した。発症前に農作業歴があったこと, 推定感染地域が橋本市であったことから, つつが虫病および日本紅斑熱が疑われた。
発症3日目に採取した血液と痂皮からつつが虫病リケッチアのKarp型が検出された。なお, 橋本市内では過去に1例の感染例(Kuroki型)が報告されているが, 本症例のKarp型患者とは推定感染地域が異なっていた。
まとめ
当センターでは, 2007年以降Kawasaki型およびKuroki型を確認してきたが, 2025年にKarp型つつが虫病患者の発生を初めて確認した。なお, 推定感染地域はこれまで報告のなかった地域であった。
つつが虫病を媒介するツツガムシは, 孵化後の幼虫期に温血動物に吸着し, 組織液を摂取する。ツツガムシによって媒介する血清型は異なり, フトゲツツガムシはKarp型を, タテツツガムシはKawasaki型とKuroki型を媒介する。両者はともに秋~初冬にかけて孵化するが, フトゲツツガムシはタテツツガムシと異なり幼虫で越冬し, 初春に活動を再開することがある。そのため, Karp型によるつつが虫病は秋~初冬だけでなく春~初夏にも発生がみられる。現在, 和歌山県におけるつつが虫病の発生状況はほぼ秋~初冬であるが, 今後はKarp型などを媒介するフトゲツツガムシによる春の発生にも注意が必要である。
つつが虫病の症例情報を集積することは, 地域における感染リスクの把握に有用である。今後もデータの蓄積と発生動向の監視を通じて, 早期発見・早期治療の一助となるよう努めたい。
参考文献
- 国立感染症研究所・地方衛生研究所全国協議会編集/発行, リケッチア感染症診断マニュアル, 平成12(2000)年
- 国立感染症研究所, リケッチア感染症診断マニュアル, 令和元(2019)年6月版
和歌山県環境衛生研究センター
南方理那
橋本市民病院
渡邉航大
