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国立健康危機管理研究機構の危機管理体制, 特に業務継続計画について

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国立健康危機管理研究機構の危機管理体制, 特に業務継続計画について

(IASR Vol. 47 p103-104: 2026年6月号)

はじめに

業務継続計画(business continuity plan: BCP)とは, 災害の発生等により組織の業務実施に必要な人的・物的・情報等の資源の供給減少や, 対策業務等の増加といった制約が生じた状況において, 非常時に優先すべき業務を継続し, 強化すべき業務に適切に資源を配分することを目的とした計画である。国立健康危機管理研究機構(JIHS)は, 「健康危機発生時等業務にいかなる制約が生じる状況にあっても, 組織の機能を維持し, 健康危機の拡大の防止と医療体制の維持に貢献し, 国民の生命・健康を守る」ためにBCPを策定している。JIHSの設置にともなうBCPの整備状況について, 特にパンデミックに備えた新型インフルエンザ等BCPの策定状況と, パンデミック初動期に備える「サージキャパシティ名簿」の作成について報告する。

JIHS業務継続計画(総論)

JIHS BCPは, 自然災害の発生や新型インフルエンザ等の発生など, さまざまな健康危機事象により, JIHSの業務に制約が生じた状況における業務継続に関し必要な事項を定めるもので, JIHS全体に共通する「総論」と, 想定リスクおよび部門ごとに定める「各論」から構成される。総論では, (1)組織の人的・物的資源を保護し, 組織の損害を最小限に抑える。特に, 職員の健康と安全を確保する, (2)緊急時における意思決定の迅速化と情報伝達の円滑化を図る, (3)感染症に関する科学的知見を提供する中核的機関としての役割を果たす, (4)災害拠点病院および感染症指定医療機関としての役割を果たす, (5)関係機関と連携し, 社会的責任を果たす, を基本方針に掲げている。発動時にはインシデント・マネジメント・システム(IMS)の考え方に基づく有事対応体制に移行し, 健康危険情報評価会議および健康危機管理対策会議の審議を経て, 理事長がBCPの発動を指示する仕組みとなっている。

JIHS業務継続計画(各論)

「各論」は, 新型インフルエンザ等の発生時および首都直下型地震等の発生時について事業部門ごとに定めることとしている。新型インフルエンザ等に対しては, JIHSは新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく指定公共機関であることから, 新型インフルエンザ等対策政府行動計画に対応してJIHS新型インフルエンザ等対策に関する業務計画(以下, 業務計画)を策定している。各論の新型インフルエンザ等の発生時を想定したBCPはこの業務計画を遂行するためのBCPであり, 相互に整合性を確保する設計となっている。

JIHS統括部門新型インフルエンザ等業務継続計画

JIHSには, 機構全体を組織全体で横断的に連携するための統括部門が設けられ, 5つの局が置かれている。特に危機管理・運営局は健康危機管理に関する総合調整を行う。新型インフルエンザ等発生時には, 政府行動計画等で取り組むこととされている業務のうち, 新たに発生する業務または業務量が増加するもの(強化・拡充業務)について, 統括部門を核として優先的に実施する。状況に応じた対応として準備期, 初動期, 対応期の3段階を設定し, 初動期には情報収集・分析体制へ迅速に移行する。JIHS新型インフルエンザ等対策本部は, 本部長(理事長)のもとに, 総務・企画・事態対処の各部門からなるIMS型の組織で運用する。事態対処部門にはサーベイランス, リスク評価, リスクコミュニケーション, 検査, 検定, ワクチン・治療薬開発, 医療等の各班を置き, 事業部門から兼務派遣された職員が職務を遂行する。業務の優先順位については, 新型インフルエンザ等対策業務(検査, 疫学調査, 情報収集・解析, 研究開発)を強化・拡充業務として最優先に位置付け, 情報システム管理業務や検定業務を一般継続業務, 新型インフルエンザ等と直接関係しない研修・講義や中長期的な研究等を縮小・中断業務とした。また, これらの業務を担当することが想定される部署を列挙している。

JIHS事業部門の業務継続計画

事業部門のそれぞれの部署では, 自然災害(首都直下地震)編と新型インフルエンザ等編の2つの各論を策定している。例えば, 国立感染症研究所(感染研)の新型インフルエンザ等編については, 強化・拡充業務はJIHS統括部門が中心となって運営する対策本部の指揮下で対応するため, 感染研としては, 事業部門による本部への応援派遣の調整, 一般継続業務, 縮小・中断業務の判断・実施を中心に整理している。これにともない, 従来の感染研の新型インフルエンザ対策行動計画, 新型コロナウイルス感染症対策行動計画, 大規模感染症発生時行動計画はBCPに一本化した。

サージキャパシティ名簿の作成

パンデミック初動期に強化・拡充業務を担う人員の事前確保は, 危機対応の成否を左右する。JIHSでは, 探知後おおむね3週間程度の初動期を想定し, 危機管理・運営局のIMS体制を支える「サージキャパシティ名簿」を2025年6月に整備した。第一段階(探知から数日~1週間程度の超初動期)と第二段階(探知からおおむね3週間程度)に分け, 「インテリジェンス」, 「病原体検査」, 「外部支援」, 「企画」の4部門について, 必要なスキル・経験・役割・人数を整理したうえで, 機構内関係部署との調整を経て名簿化した。整備の結果, 総ポジション数204, 登録人数162名となったが, 複数ポジションへの重複登録も含まれる。実際の運用は危機の内容や規模, フェーズに応じ柔軟に構成する前提である。今回の名簿の作成は, 呼吸器系ウイルスによるパンデミック対応を想定した「一例」であり, 緊急時の組織作り演習の1つともいえる。また, 作成した名簿は, 2026年5月に発生したクルーズ船におけるハンタウイルス感染症アウトブレイク対応においても, 緊急時対応組織編成のテンプレートとして活用された。今後は, 今回は対象外となった部門や対応フェーズ進行時の名簿作成, 人員配置方法の精査, セミナー等を通じた組織内理解の促進を図る予定である。

おわりに

JIHSのBCPは, 総論のほか, 自然災害(首都直下地震)と新型インフルエンザ等を想定した各論が整備され, JIHSが直面しうる二大リスクを想定したBCPが体系的に整備された。特にJIHS新型インフルエンザ等対策に関する業務計画を遂行するための組織体制も整理された。加えて, サージキャパシティ名簿により初動期の人員シフトの具体性も担保された。次のパンデミックの到来時期は予測困難であり, 政府行動計画や地方衛生研究所・保健所等との連携を見据えつつ, 計画策定にとどまらず, 定期的な訓練・演習と継続的な見直しを通じて, 実効性を不断に高めていくことが求められる。

 
 国立健康危機管理研究機構      
  理事               
   武井貞治 三宅邦明       
  危機管理・運営局企画調整部    
   横田栄一 野田博之 船木孝則 吉見逸郎 下之段謙二 藤田 茜
   小林勇一 山本美羽       
  危機管理・運営局感染症危機管理部 
   齋藤智也 関 なおみ 杉本昌生

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