JIHS感染症EBS週報の概要と活用

JIHS感染症EBS週報の概要と活用
(IASR Vol. 47 p104-105: 2026年6月号)
はじめに
近年, 国際的な人の往来増加や気候変動等を背景に, 感染症の発生および拡大リスクは一層高まっている。加えて, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応の経験から, 国内外の感染症情報を迅速に収集・分析し, 関係機関間で共有することの重要性が改めて認識された。本稿では, 国立健康危機管理研究機構(JIHS)が作成し, 厚生労働省感染症対策情報共有会議で活用されている「JIHS感染症EBS週報」の概要および活用状況を紹介する。
厚生労働省感染症対策情報共有会議とは
厚生労働省感染症対策情報共有会議(以下, 感染症対策情報共有会議)とは, 「厚生労働省感染症対策情報共有会議の設置に関する規程〔令和7(2025)年4月1日一部改正〕」に基づき設置された会議である。感染症対策情報の収集・分析・共有の仕組みを整備し, 平時から迅速かつ組織的に関係部局や関係機関へ情報を共有し, 政策立案や対策に活用することを目的としている。本会議の委員として, 厚生労働省(厚労省)内の感染症にかかわる担当課長等が出席するほか, オブザーバーとして内閣感染症危機管理統括庁(統括庁)からも数名が出席する。また, JIHSが発足して以降, 本会議の準委員をJIHS理事(危機管理・総合調整担当)およびJIHS危機管理・運営局感染症危機管理部長の2名が担当し, 会議に出席している。
JIHS感染症EBS週報とは
イベントベースドサーベイランス(EBS)1)とは, 様々な情報源を活用し, 異常な事象を早い段階で探知することを目的とした, 現場と専門機関の共同した仕組みを示す。具体的には, 国や自治体等の公式情報に加え, メディア情報やインターネット等の非公式情報も収集し, 通常と異なる感染症事象を早期に探知する手法である。JIHS国立感染症研究所(感染研)・感染症危機管理研究センターでは, EBS活動を通じて収集・分析された感染症情報を「JIHS感染症EBS週報」として取りまとめ, 感染症対策情報共有会議における情報共有資料として提供している(図)。JIHSが発足した2025年4月から2026年4月までの1年間に, 計56報のJIHS感染症EBS週報を作成した。
JIHS感染症EBS週報の作成方法
JIHS感染症EBS週報編集会議は, 感染症対策情報共有会議が木曜日に開催されることから, 前日の水曜日に実施される。週報原案の作成は, JIHS感染研・感染症危機管理研究センター・危機管理総括部第一室が担当し, 前週木曜日~水曜日までの1週間分のEBS情報について, 通常と異なる感染症の発生や, 社会的・政治的に関心の高い感染症事案等を抽出・選定する。また, 所内の疫学部門(感染症サーベイランス研究部および応用疫学研究センター)および国立国際医療研究センター(NCGM)から提供されたサーベイランス情報や臨床情報を収集・統合し, 週報の付属資料を作成する。編集会議には, 危機管理・運営局感染症危機管理部緊急事態対応課の職員および感染症危機管理研究センター危機管理総括部第一室, 第二室の職員が参加する。危機管理総括部第二室の職員はリスクコミュニケーションの観点から, 読み手への情報の伝わりやすさを念頭に, 冗長な表現や専門性の高い用語の有無等を確認している。
編集会議を経て厚労省に提出した週報は, 感染症対策情報共有会議後に変更点等を修正した後, 確定される。正式版のJIHS感染症EBS週報は, JIHS理事長および理事に共有されるほか, 感染研内にも共有される。
海外感染症対策関係機関とのJIHS感染症EBS週報の交換
2025年6月からドイツ・ロベルトコッホ研究所(RKI)と, 2025年9月からは米国・Centers for Disease Control and Prevention(US CDC)と, EBS週報の交換および定期的なミーティングを実施している。さらに, 2025年12月からは欧州・European Centre for Disease Prevention and Control(ECDC)とも試験的に同様の試みを開始した。
JIHS感染症EBS週報交換にあたり, 機械翻訳により英訳した週報を, 日本語版とともにメールで先方へ送付している。週報の交換を実施することで, 相手国ではどのような事案を注視し, 評価・対応しているかを理解できるほか, オンラインによる定期ミーティングでの意見交換や, 海外メディア等で報道された相手国の感染症情報の真偽・詳細情報の確認等を円滑に実施できる関係性を構築した。
今後の展望
国内におけるJIHS感染症EBS週報の共有については, 2025年大阪・関西万博開催時に大阪・関西万博感染症情報解析センターへ提供を行った。今後は各自治体の感染症情報センター, 地方衛生研究所および保健所等への共有を検討している。
参考文献
- 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部, クラスターの早期探知・早期介入のための取り組みについて(通知), 令和2(2020)年11月27日付け
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
感染症危機管理研究センター
危機管理総括部
第一室(緊急時対応科学室)
杉浦 江 太田雅之 村上裕子 大塚美耶子 杉山寛行 関 なおみ 齋藤智也
