地方衛生研究所の危機管理と関係機関連携

地方衛生研究所の危機管理と関係機関連携
(IASR Vol. 47 p109-110: 2026年6月号)
はじめに
終戦直後, 各種感染症がまん延していた1947(昭和22)年に, 国立感染症研究所(感染研)の前身である国立予防衛生研究所が設立され, 翌1948年には, 厚生省(当時)通知により自治体に地方衛生研究所(地衛研)の設置が求められた1)。2020年初に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは, 戦後最大級の感染症危機として危機対応上の転換を促し, 地衛研が法制化されるとともに, 国立健康危機管理研究機構(JIHS)が設立された。これらを含む新たな感染症危機管理体制のもと, 様々な取り組みが進行している。
地方衛生研究所の法制化と機能強化
感染症等の健康危機管理体制の強化を図るため, 2022~2025年に, 地域保健法, 感染症法, 国立健康危機管理研究機構法, 新型インフルエンザ等対策政府行動計画等が改正・制定された。改正地域保健法において, 自治体が地衛研機能の確保のために必要な措置を講ずる責務が明記され(地衛研の法制化)2), 改正感染症法において, 自治体における都道府県連携協議会や予防計画について規定された3)。これらにともない, 地衛研として, 体制整備, 検査能力の向上, 健康危機対処計画の策定, 人材育成・実践型訓練, 連携協議会への積極的関与, 関係者へのリスクコミュニケーション, JIHS・他の地衛研・大学等との共同研究の積極的推進, 等の対応が求められている。
法的位置付けの明確化や, それにともなう機能強化の結果, 地衛研で病原体検査に従事する職員数はCOVID-19パンデミック以前と比較して増加しており(図), ほとんどの地衛研において, 健康危機対処計画が策定され, 実践型訓練も積極的に実施されている。地衛研で実施される病原体検査の情報は, 自治体の本庁や保健所等と共有されるとともに, 中央感染症情報センター(JIHS内に設置)に報告されるため4), 地衛研の機能強化は, 国の病原体サーベイランスの強化に直結している。また, 地衛研での行政検査の過程で, 流行時に採取された検体や分離・同定された病原体株が長期間保管されることも, 感染対策上極めて重要である。
関係機関連携に基づく危機管理体制の構築
今回の法令等の改正・制定においては, COVID-19への対応の課題を踏まえ5), 国, 自治体, 保健所, 地衛研, JIHS, 医療機関等に求められる取り組みが示されるとともに, それらの間の連携体制やネットワーク構築に重点が置かれている。機構法および整備法において, JIHSが地衛研職員に対する研修や技術支援等を行うこと, 地衛研が検査結果や地域の感染状況等に関するJIHSへの情報提供に協力すること等が明記され, 新型インフルエンザ等対策政府行動計画においても両者の間の連携が繰り返し示されている。ラボ機能を有する両機関の連携として, 感染症危機発生時に, その原因となる病原体の検査体制を迅速に確立することは特に重要である。COVID-19発生時において, 全国的な検査体制の整備は国際的にも最速の部類であったが, その要因として, 厚生労働科学研究班, 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究班, 衛生微生物技術協議会, 新興再興感染症研修, 地域保健総合推進事業等で培われた, JIHSと地衛研, 地衛研間の人的ネットワークが重要と思われる6)。さらに, COVID-19対応での経験を生かし, それ以降の感染症対応において迅速な検査体制の構築に努めている(表)。
一方, 自治体内での保健所との連携も重要であり, 感染症対策において, 実地疫学とラボ検査の協調は高い相乗効果を生むとされている7)。COVID-19対応において全ゲノム解析が地衛研で実施されたが, 全ゲノム解析が全国レベルでリアルタイムに公衆衛生対策に活用されたのは, わが国の病原体検査の歴史において初めてのことである。COVID-19以降においても, ゲノム解析やフラグメント解析等の分子疫学解析を担う地衛研と, 実地疫学調査を担う保健所との連携のさらなる発展が期待される8)。
おわりに
地衛研は, 地域および広域の健康危機管理における科学的・技術的中核機関と位置付けられ, 感染症危機においては, 原因解明とまん延防止等に従事する。2014~2016年に西アフリカでエボラ出血熱の大規模流行があった際に, 地衛研の多くがP3安全実験室を保有することから, 感染研に加えて地衛研での検査体制の整備が想定されていた9)。また, NBCテロ〔核(nuclear)・生物(biological)・化学(chemical)によるテロ〕の際にも, 警察や保健所から地衛研に原因物質の検査・分析を依頼される場合がある10)。このように, 地衛研の設備や専門人材は健康危機対応において不可欠であり, 法律上の位置付けも明確にされたことから, 地衛研の役割や関係機関との連携は今後ますます重要になると考えられる。
参考文献
- 四宮博人, 公衆衛生 86: 683-690, 2022
- 地域保健法, 令和7(2025)年4月1日施行
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000101?occasion_date=20251212 - 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律, 令和8(2026)年4月1日施行
https://laws.e-gov.go.jp/law/410AC0000000114?occasion_date=20260401 - 厚生労働省, 感染症発生動向調査事業実施要綱, 令和7(2025)年4月7日施行
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001449593.pdf - 新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議, 新型コロナウイルス感染症へのこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に向けた中長期的な課題について, 令和4(2022)年6月15日
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/coronavirus_yushiki/pdf/corona_kadai.pdf - 調 恒明, 四宮博人, 令和4(2022)年度 地域保健総合推進事業 新型コロナウイルス感染症対応記録: 268-275, 2023
- Keckler MS, et al., The CDC Field Epidemiology Manual: 187-210, 2019
- 四宮博人, 公衆衛生 90: 549-558, 2026
- 国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議資料, 国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本計画(案)~絶え間ない感染症の脅威に挑戦する日本のアクション~, 平成28(2016)年2月9日
https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/kokusai_kansen/dai3/siryou0202.pdf - NBCテロ対策会議幹事会, NBCテロその他大量殺傷型テロ対処現地関係機関連携モデル, 令和3(2021)年3月5日改訂2版
https://www.mhlw.go.jp/content/20210419-01.pdf
愛媛県立衛生環境研究所
四宮博人
