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感染症危機管理を支える臨床研究基盤の構築―感染症臨床研究ネットワーク(iCROWN)の役割と展望―

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感染症危機管理を支える臨床研究基盤の構築―感染症臨床研究ネットワーク(iCROWN)の役割と展望―

(IASR Vol. 47 p110-111: 2026年6月号)

背景と課題:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行初期の教訓

感染症臨床研究ネットワーク(Infectious disease Clinical Research netwOrk With National repository: iCROWN)1)は, 感染症有事において臨床情報や検体を迅速に収集し, 医薬品の研究開発につなげるための基盤として, リポジトリと医療機関ネットワークの運用を平時から一体的に推進する臨床研究基盤事業である。

COVID-19の流行初期には, 感染症指定医療機関を中心に患者診療が行われた一方で, 患者の入院施設と臨床研究を実施する医療機関が必ずしも一致せず, 迅速な臨床試験の実施に課題が生じた。また, 平時からの産官学連携が十分ではなかったことから, ワクチンや治療薬の実用化において海外よりも時間を要したことも指摘されている。こうした経験から, 感染症有事に即応可能な研究体制を平時から整備しておく必要性が明らかとなった。

iCROWNの創設とネットワーク体制

これらの課題に対して, 令和3(2021)年度に新興・再興感染症データバンク事業ナショナル・リポジトリ(REBIND)が構築され, 検体・臨床情報の収集・利活用が開始された。さらに, 令和7(2025)年度にはREBINDを内包し, 医療機関ネットワークと統合したiCROWNが整備され, 平時から医療機関・自治体等と連携し, 感染症危機発生時に多施設共同で迅速に臨床研究等を実施できる体制の構築を進める()。

令和7(2025)年度は, 特定および第一種感染症指定医療機関(34都道府県・39医療機関)を含む計75医療機関が新たに参画した。令和8(2026)年度開始時点においては, iCROWNに参画する医療機関は, 全国47都道府県にわたり配置され全国的なネットワークが形成されている。

iCROWNの機能と対象感染症

本事業の中核は, 検体・臨床情報を体系的に収集・集積し, 研究者や企業等に提供するリポジトリ機能である。平時から医療機関訪問やロールプレイ等を実施することで, 実効性の高い収集体制の確立を図っている。また, 新興・再興感染症の発生に備え, 対象疾患の拡大に備えたロジスティクス整備を進めている。加えて, 研究手順や審査体制の整備をあらかじめ進めることで, 臨床試験や治験の迅速な開始を可能としている。さらに, 自治体や医療機関における業務負担の軽減と, 診療情報の研究および公衆衛生施策への一体的な活用を図るため, 電子カルテ情報の自動抽出等の仕組みの整備を進めている。

また, 検体や診療情報の提供体制を整備し, 医薬品の研究開発を支援している。これにより, 臨床情報に加え試料や病原体も含めた利活用が可能となり, 幅広い主体による研究開発の促進が期待される。

加えて, 自治体と医療機関の連携強化, 収集データの集計・活用による政策への還元, First Few Hundred Studies(FF100)等の疫学調査体制の整備, 人材育成などにも取り組んでいる。これらは, 地域における感染症対応力の向上にも資するものである。

現在の対象感染症は, COVID-19を含む重症急性呼吸器感染症(Severe Acute Respiratory Infections: SARI), エムポックス, 原因不明小児急性肝炎, 重点感染症, である。また, 厚生労働省からの提供を受け, 入国時感染症ゲノムサーベイランス事業で採取した情報・残余検体, ならびに行政検査の検体等の利活用も進めている。

令和8(2026)年3月末時点で, 症例登録数は累計1,736件(COVID-19:1,398件, SARI:286件, エムポックス:49件, 原因不明小児急性肝炎:3件)である。研究機関・企業からの利活用申請については, これまでに計46件を承認している。

今後の展望

感染症危機への備えは, 継続的に取り組むべき課題である。今後も自治体・医療機関を含む関係機関との連携を強化し, わが国の感染症危機管理体制の向上に貢献していく。

参考文献

  1. 国立健康危機管理研究機構iCROWN運営支援室, 感染症臨床研究ネットワーク(iCROWN)事業
    https://icrown.jihs.go.jp/
  
  国立健康危機管理研究機構      
   感染症臨床研究ネットワーク運営支援室
    後藤杏奈 近藤 徹 横田栄一 今井健二郎 大曲貴夫 武井貞治

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