大阪・関西万博における感染症サーベイランスとリスク評価の実践

大阪・関西万博における感染症サーベイランスとリスク評価の実践
(IASR Vol. 47 p112-113: 2026年6月号)
はじめに
2025年4月13日~10月13日まで, 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開催された。このような国内外から一定期間に多くの人が集まる国際的マス・ギャザリングイベントでは, 感染症やその他の健康危機管理事象が発生しやすいとされている1)。そのため, 大阪・関西万博会場で感染症等が発生した場合には, 事例を早期に探知し, 関連情報の収集・解析を行い, 感染拡大を防ぐための迅速な対応が求められる。
大阪健康安全基盤研究所(大安研)は, 大阪・関西万博感染症情報解析センター(万博感染症情報解析センター)の運営を行い, 大阪府, 大阪市, 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所(感染研), 公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会(万博協会)と連携し, 感染症等の情報を収集, 解析する活動を行った。本稿では, その概要について報告する。
方法
1.万博感染症情報解析センターの概要
2023年6月から, 万博協会を含めた関係5機関で協議を行い, 2025年1月14日, 大阪府および大阪市により, 万博感染症情報解析センターが設置された。構成員は, 大阪府, 大阪市, 感染研, 大安研とし, 運用期間は, 2025年1月14日~11月30日とされた。大阪・関西万博の安全, 安心な開催に向け, 感染症情報を幅広く集約し, リスク評価および関係機関へのフィードバックを行った(図)。
2.感染症情報などの収集
既存のサーベイランスを活用するとともに, 補完的情報源を組み合わせた。
(1)既存のサーベイランス活用
(ア)感染症発生動向調査
主に2024年9月6日に厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課より発出された事務連絡2)で示された強化サーベイランス対象疾患に加え, 定点把握対象疾患, 疑似症定点からの情報も対象とした。
(イ)薬局サーベイランス
公益社団法人日本医師会, 公益社団法人日本薬剤師会, 日本大学薬学部および株式会社EMシステムズが共同運営している薬局サーベイランス3)における抗インフルエンザ薬等の処方数によるインフルエンザ推計患者数
(ウ)媒介蚊サーベイランス
大阪府, 大阪府内保健所設置市が実施している蚊媒介感染症に関する調査を活用し, 会場内や府内各所で捕獲された蚊を対象にした蚊媒介ウイルスの検査結果
(2)補完的サーベイランス
(ア)メディア情報サーベイランス
国内外の感染症に関する報道や公開情報
(イ)会場内サーベイランス
万博協会が収集した大阪・関西万博関係者の健康管理情報や万博会場内の医療救護施設等の診療情報
3.リスク評価およびフィードバック
収集した情報を基に, 平日の定例ミーティングにおいて総合的に評価した。この評価結果をまとめる週1回のミーティングを開催し, 週報として関係機関に共有した。また, 大阪・関西万博または大阪府内への影響が懸念される事象が探知された場合には, 臨時会議を開催し, 必要に応じて臨時報として迅速な情報提供を行った。
結果
メディア情報サーベイランスにおいて, 2025年6月, 万博会場内の水景施設からレジオネラ属菌が検出された, との情報を探知した。万博感染症情報解析センターでは, 大阪市や万博協会に対し, 事実確認および検査の実施状況やレジオネラ症の発生対策等の確認を行い, レジオネラ症の発生届, 急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランス, 大阪・関西万博関係者の健康管理情報からレジオネラ症が疑われる有症状者の発生がないか, 注意深く監視した。水景施設の停止後, 一定期間これらの確認を行ったが, 大阪・関西万博が感染源と断定されたレジオネラ症の発生はなかった。
7月には, 府外の保健所で確認された麻疹患者が, 感染可能期間に万博会場を訪れていたとの情報を探知した。本事例では, 臨時会議を開催し, 臨時週報を発出した。患者が万博会場を訪れたのち一定期間, 同様の手順で注意深く監視したが, 大阪・関西万博に関連した麻疹の発生はなかった。
その他, 強化サーベイランス対象疾患について, 大阪・関西万博または大阪府内への影響が懸念される事例が報告された場合に届出保健所に問い合わせを行ったが, 関連する症例は確認されなかった。
まとめ
マス・ギャザリングイベントでは, 異常事象の早期探知に加え, 健康危機事象が発生していないことを確認することも重要である。本取り組みでは, 複数のサーベイランスを用いた監視の結果, 万博会場が起点と判断される感染症の集積は確認されなかった。他機関との連携により, 複数のサーベイランス情報を共有・統合する体制が構築され, 異常事象の早期探知および非発生の確認が可能となった。マス・ギャザリングイベントにおいては, 多組織間で連携可能な体制の構築が重要と考えられた。
参考文献
- WHO, Public health for mass gatherings: key considerations, 2015
https://www.who.int/publications/i/item/public-health-for-mass-gatherings-key-considerations - 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課, 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)開催に伴う感染症サーベイランスの取組強化について(事務連絡), 令和6(2024)年9月6日
- 日本医師会・日本薬剤師会・日本大学薬学部薬学研究科・株式会社EMシステムズ, 薬局サーベイランス日報
http://prescription.orca.med.or.jp/syndromic/kanjyasuikei/index.php
大阪・関西万博感染症情報解析センター構成員
地方独立行政法人
大阪健康安全基盤研究所公衆衛生部
皐月由香 柿本健作 西田陽子 関 雅之 山中靖貴 北島平太
三山豪士 濱口重人 本村和嗣
大阪府健康医療部保健医療室医療・感染症対策課
鈴木法子 西野裕香 梶川智洋 裏 満知子 高塚 遼 瀧井雄基
平川貴大 高橋佑紀
大阪市保健所感染症対策課
廣川秀徹 岡田めぐみ 井村元気 津田侑子 齊藤武志 松田貴根
鎌倉亜樹子 春見 真 鈴木久美子 藤森良子 西村真衣
国立健康危機管理研究機構
国立感染症研究所応用疫学研究センター
福住宗久 寳來徳子 森 秀哉 関 雅之 池田優美
公益社団法人2025年日本国際博覧会協会危機管理局
秋元雅裕 梅室朝香 木元 大 新井俊貴 神守彰子 松岡隆介
