山梨県における小児のマクロライド耐性百日咳菌感染者の発生動向

山梨県における小児のマクロライド耐性百日咳菌感染者の発生動向
(IASR Vol. 47 p132-133: 2026年7月号)
はじめに
百日咳は主にBordetella pertussisによる急性呼吸器感染症であり, 特に乳児では無呼吸や重症化をきたすことがある。治療にはマクロライド系抗菌薬が第一選択として用いられているが, 近年マクロライド耐性百日咳菌(macrolide-resistant B. pertussis: MRBP)の出現が報告されている。MRBPの拡大は, 標準治療の有効性低下による治療失敗や, 感染期間の延長を招く可能性が示されており1), 重症化リスクの高い乳児において臨床的影響が大きい。さらに, 感染性の遷延により家庭内や集団内での伝播が助長されることから, 公衆衛生上も重要な問題となっている。
アジアでは, MRBPは2011年に中国で初めて分離され, 2013年には急速な拡散が報告された2)。日本では, 2018年に東京都および大阪府で初めて分離された3,4)。近年, 国内においてもMRBPの報告は増加傾向にあり, 複数地域からの検出が報告されている。東京都からの報告では百日咳6例中5例がMRBPであり, そのうち1か月の乳児1例の死亡例が含まれていた5)。
山梨県においては, 2025年から百日咳症例の増加が認められているが, MRBPの割合は不明である。そこで本研究では, 山梨県における小児のMRBPの発生状況を明らかにすることを目的に積極的疫学調査を行った。
方法
2025年9月~2026年3月までの期間に, 感染症法に基づく届出の対象となった百日咳患者(143例)の0~14歳以下の小児(80例)のうち, 医療機関において核酸増幅法(PCR法またはLAMP法)またはイムノクロマト法により百日咳と診断され, 追加検体の採取および調査への参加について同意が得られた0~14歳以下の小児(入院中も含む)を対象とした。検体採取にあわせて協力医療機関に調査票を配布し, 症例の症状経過, 投薬状況および転帰などの臨床情報を収集した。
検体は, 山梨県衛生環境研究所においてMRBPの遺伝子検査を実施した。鼻咽頭ぬぐい液からDNAを抽出し, 23S rRNA遺伝子領域をPCRにより増幅後, サンガーシーケンス解析を行い, マクロライド耐性に寄与するA2047G変異の有無を確認した。なお, 1例については本調査期間以前に培養により分離された菌株を用いて解析を行った。
結果
期間中に14例の検体提出があり, そのうち7例がMRBP, 6例がマクロライド感受性株, 1例が判定不能であった(表)。患者の年齢は5か月以下および10歳以上に比較的多く分布し, 年齢中央値は9.5歳であった。MRBP症例も同様の年齢分布であった。居住地は甲府市および峡東地域からの症例が多く認められ, MRBP症例はこれらに加えて富士・東部地域からも確認された(図)。入院症例およびスルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST)合剤が投与された症例は3例であり, いずれも乳児例であった。すべての症例が軽快した。ワクチン接種歴については, ワクチン忌避1例を除き年齢相当の百日咳含有ワクチンの接種が確認された。MRBP症例のうち, 乳児2例以外は入院を要さず, マクロライド系抗菌薬投与後に臨床的改善が認められた。以下に治療に難渋した乳児症例を呈示する。
症例
基礎疾患のない生後1か月の女児。5種混合ワクチン接種前であり, 母親の妊娠中の百日咳含有ワクチン接種歴はなかった。発症前に父親の咳嗽がみられていた。女児は咳嗽出現後に無呼吸発作を認め入院となったが, 発作が頻発し呼吸不全となったため, 高次医療機関へ翌日転院となった。転院後, multiplex PCRにて百日咳と診断され, アジスロマイシン投与および経鼻高流量酸素療法を開始したが, 無呼吸発作が持続しICU管理となった。転院7日目に, 培養菌の薬剤感受性試験によりMRBPが確認された。ニューキノロン系(トスフロキサシン:TFLX)およびペニシリン系(タゾバクタム/ピペラシリン:TAZ/PIPC)抗菌薬投与を経て転院14日目にST合剤が導入され, その後全身状態は徐々に改善し, 転院20日目に退院となった。
考察
本研究ではMRBPの割合は約半数であり, 国内報告の70~80%6)と比較して低かった。国内の報告はこれまで大都市圏からの報告が多く, 高いMRBPの割合が示されているが, 近年は地方からの報告も増加しており, MRBPが大都市圏から地方へ拡散している可能性が指摘されている。本研究の結果も, 拡散過程におけるMRBPの流行状況を反映している可能性がある。
本研究症例の年齢分布は, 小学校高学年以上の症例が比較的多く認められ, この傾向は山梨県の届出症例の年齢分布ともおおむね一致していた。百日咳ワクチンの効果は接種後4~12年で減弱することが知られており, 本調査でもワクチン接種がされた症例がほとんどであったにもかかわらず, 小学校高学年以上の症例が比較的多く, この知見と整合する可能性がある。MRBPでは, マクロライド系抗菌薬投与後も咳嗽が遷延することが報告されており, 免疫が減弱した学童期以降の集団において感染が持続しやすい可能性も指摘されている1)。
治療に関して, 本調査のMRBP症例の多くではマクロライド系抗菌薬投与後に臨床的改善が認められたが, 自然軽快の影響も否定できない。一方, 呈示した乳児症例では, マクロライド系抗菌薬投与後も症状改善が乏しく, 最終的にST合剤が導入された。MRBPの確定診断には時間を要することから, 特に重症化リスクの高い乳児では臨床経過を踏まえ, 核黄疸などの副作用に留意しつつ, ST合剤の使用を検討することも治療選択肢の1つとなり得ると考えられる。さらに, MRBPの出現および増加を踏まえ, 自治体および地方衛生研究所においては, 薬剤耐性を含めた百日咳菌の継続的なサーベイランス体制の強化, 迅速な検査体制の整備, ならびに臨床現場への情報還元を推進していくことが重要である。
謝辞:本調査にご協力いただきました, 患者様, 医療機関の皆様に深謝いたします。
参考文献
- Mi YM, et al., Pediatr Infect Dis J 40: 87-90, 2021
- 蒲地一成ら, IASR 42: 115-116, 2021
- Yamaguchi T, et al., JJID 73: 361-362, 2020
- Koide K, et al., PLoS ONE 19: e0298147, 2024
- 中村祥崇ら, IASR 46: 108-110, 2025
- 厚生労働省, 厚生労働行政推進調査事業費補助金, 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業(25HA2001), 2025年度百日咳検査実績調査, 2025
甲府市保健所
小島令嗣 本多悦子
山梨県
感染症対策センター
大沼 恵 高野さは子
衛生環境研究所
中田陽子 柳本恵太 山上隆也
中北保健福祉事務所
峡東保健福祉事務所
峡南保健福祉事務所
富士・東部保健福祉事務所
