高知県内におけるギラン・バレー症候群症例の集積事例について(続報)

高知県内におけるギラン・バレー症候群症例の集積事例について(続報)
(IASR Vol. 47 p133-135: 2026年7月号)
背景
2023年, 高知県においてギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome: GBS)症例の集積事例があり, その結果を報告した1)。その後の発生状況について, 高知県, 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所・実地疫学専門家養成コース(FETP), 同応用疫学研究センターおよび同細菌第一部が追加の実地疫学調査および菌株解析を実施したので, その結果を報告する。
方法
症例定義は, 2020年1月1日~2025年12月31日に, 高知県内の主要5医療機関において「Brightonの診断基準(レベル3以上)」2)に合致する患者とした。各医療機関での後ろ向きカルテ調査により情報収集し, 記述解析を行った。また, 医療従事者や自治体担当者等への聞き取り調査を実施した。さらに, GBS症例, 胃腸炎入院症例, 高知県内のCampylobacter jejuni(C. jejuni)食中毒事例から得られた患者由来株に加え, 2024年に採取した養鶏場飼育鶏の盲腸便および県内で処理された市場流通鶏肉から分離されたC. jejuni 菌株を用いて, 遺伝子解析〔multilocus sequence typing(MLST), Penner遺伝子型, lipooligosaccharide(LOS)遺伝子型〕およびコアゲノムsingle nucleotide polymorphism(SNP)を用いたハプロタイプネットワーク解析を実施した。
結果
2020~2025年に確認されたGBS症例は計54例であった1)。2020~2022年は4-7例/年であり, 2023~2025年はそれぞれ13例, 19例, 7例であった(図1)。2020~2022年, 2023~2024年, 2025年の基本属性では, 先行症状に胃腸炎を呈する者の割合は53%(8/15), 88%(28/32), 57%(4/7), C. jejuni便培養もしくは抗体陽性の割合は27%(4/15), 69%(22/32), 57%(4/7)であった(表)。また, 2023年と同様に, 2024年のGBS症例1例の便検体からC. jejuni ST-22:gHS19:LOS class A1〔以下, C. jejuni(ST-22)〕が検出された。
2024年に高知県内で発生したC. jejuni食中毒4事例のうち, 3事例からC. jejuni(ST-22)が検出された。また, 県内の一部の養鶏場飼育鶏の盲腸便, および市場流通鶏肉からも同様にC. jejuni(ST-22)が検出された。コアゲノムSNP解析の結果, 2023年5月以降に検出されたC. jejuni(ST-22)(GBS症例, 胃腸炎入院症例, 食中毒事例, 県内の一部の養鶏場飼育鶏の盲腸便, 市場流通鶏肉)は, SNPの違いが10数塩基以内と非常に近縁であり, 同一グループを形成していることが推定された。一方, 2018年に高知県内で処理された鶏肉や, 2024年に隣県で発生した食中毒事例から検出されたC. jejuni(ST-22)は, 2023年以降に高知県で検出されたC. jejuni(ST-22)とは70-80塩基異なっていた(図2)。
高知県では2024年6月以降, 県民に向けてSNS(X)やテレビ, ラジオ, 広報誌を用いたカンピロバクター食中毒への注意喚起を実施したほか, 保健所での消費者向け意見交換会を開催した。また, 食品関連事業者に対しても, 研修会での啓発やチラシの定期的な配布を行った。
考察
高知県におけるGBS症例は2024年も2023年に引き続いて2020~2022年のベースラインを上回っていたが, 2025年は減少した。また, 2023~2024年は, その前後と比べて先行する胃腸炎やC. jejuni検査陽性の割合が同等か高い傾向にあった。今回, 患者(GBS症例, 胃腸炎入院患者, 食中毒事例), 市場流通鶏肉, 県内の一部の養鶏場飼育鶏の盲腸便から, GBS発症リスクが高いとされるC. jejuni(ST-22)3)が検出され, これらは遺伝子的に近縁であった。以上より, 県内の鶏肉流通網に広く分布したC. jejuni(ST-22)がGBS症例の増加に関与している可能性が示唆された。感染経路としては, 過熱不十分な鶏肉の喫食や二次汚染が1つの可能性として考えられた。
本調査の制限として, 事例発生から調査までの時間経過による思い出しバイアス, 啓発強化による検出バイアスや情報バイアスが挙げられる。
謝辞:ご協力いただいた自治体, 届出医療機関, 養鶏場の関係者の皆様に深謝申し上げます。
参考文献
- 濱田一功ら, IASR 45: 172-173, 2024
- Fokke C, et al., Brain 137: 33-43, 2014
- Heikema AP, et al., Clin Microbiol Infect 21: 852.e1-e9, 2015
高知県健康政策部健康対策課
濱田一功 宮地美智子 松岡智加 川内敦文
高知県薬務衛生課
清岡有紀 小野邦桜 大森真貴子
高知県衛生環境研究所
影山温子 下元かおり 松本一繁 山村展子
高知市保健所
竹内典子 吉永順一 鍵山知宏 永安聖二 笠井俊輔
近森病院
葛目大輔 石田正之
高知大学病院
森田ゆかり 松下拓也
高知医療センター
西内律雄
幡多けんみん病院
川村昌史 野島祐司
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース(FETP)
村井達哉 中満智史 佐藤諒介
応用疫学研究センター
加藤博史 八幡裕一郎 島田智恵 砂川富正
細菌第一部
山本章治 泉谷秀昌 明田幸宏
