麻疹の抗体保有状況―2025年度感染症流行予測調査(暫定結果)

麻疹の抗体保有状況―2025年度感染症流行予測調査(暫定結果)
(IASR Vol. 47 p127-128: 2026年7月号)
はじめに
感染症流行予測調査における麻疹の感受性調査(抗体保有状況調査)は, 国民の抗体保有状況を把握することで, 効果的な予防接種施策の立案ならびに麻疹排除状態の維持に役立てることを目的として実施されている。乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における予防接種状況ならびに抗体保有状況について, 1978年度に開始後, ほぼ毎年実施されてきた。本事業は, 厚生労働省(厚労省), 都道府県, 都道府県の各地方衛生研究所(地衛研)および国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所(感染研)との密接な連携のもと, 予防接種法に定められた疾病の調査を全国規模で実施し, 調査結果を国立健康危機管理研究機構・感染症情報提供サイトで公開している(https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/nesvpd/index.html)。2025年度は, わが国における2015年3月の麻疹排除認定から10年後の調査となる。
国内の麻疹に対する予防接種は, 1966年に任意接種として始まり, 1978年10月に予防接種法に基づく定期接種となった。当時の定期接種対象年齢は, 生後12か月以上72か月未満であったが, 1995年度から定期接種対象年齢が生後12か月以上90か月未満に変更となり, 2006年度からは第1期(生後12か月以上24か月未満), 第2期(5歳以上7歳未満で小学校就学前1年間の者)の2回接種となった。また, 2008~2012年度の5年間は, 10代への免疫強化を目的として第3期(中学1年生), 第4期(高校3年生相当年齢の者)の定期接種が実施された。この間, 1989年4月~1993年4月の4年間は, 麻疹の定期接種として麻しんワクチンあるいは麻しんおたふくかぜ風しん混合(MMR)ワクチンの選択が可能であった。2006年度からは麻しん風しん混合(MR)ワクチンが導入されている。
調査対象
2025年度の麻疹感受性調査は20都道府県で実施され, 酵素免疫測定(EIA)法により麻疹IgG抗体価が各地衛研において測定された。採血時期は, 原則として7~9月とし, 0~1歳, 2~3歳, 4~9歳, 10~14歳, 15~19歳, 20~24歳, 25~29歳, 30~39歳, 40歳以上の9年齢区分, 22名ずつ, 計198名を対象として実施した。
抗体保有状況
2025年度は5,080名, 0歳0か月~99歳までの抗体価が報告された1)。2.0以上のEIA抗体保有率をみると, 全体で96.1%(4,884/5,080名)であった。ほとんどの年齢で95%以上の抗体保有率であったが, 0~5か月(59.5%), 6~11か月(33.1%), 1歳(83.8%), 10歳(92.1%), 15歳(91.5%), 16歳(85.4%), 17歳(93.2%), 19歳(90.7%)が95%未満であった。加えて, 麻疹抗体陽性と判断される4.0以上のEIA抗体保有率は, 全体で84.6%(4,297/5,080名)であった。年齢別にみると, 45~49歳群までは, 5歳を除きすべての年齢・年齢群で95%を下回り, 50~59歳群以上では95%以上の抗体保有率であった。EIA法では, 2.0以上から4.0未満までの間に判定保留領域が設定されており, 抗体陽性の判定には注意が必要である。近年のEIA 2.0および4.0以上の抗体陽性率は近似した傾向を示している2)。一方, EIA価16.0以上の高い抗体価の保有割合は, 6~48歳で50%を下回り, この年齢層において高いEIA抗体価を保有する人の割合が低いことを示している1)。EIA法により測定された抗体価は必ずしも麻疹に対する発症予防効果の強さを反映しないと考えられるが, 10代後半を中心にEIA抗体価16.0以上の抗体保有者の割合が特に低いことが確認されている。
まとめ
2025年度感染症流行予測調査より, 麻疹の抗体保有状況をまとめた。本研究は, 20都道府県の結果であり, 外挿性には限界がある。移行抗体は, おおむね生後6か月以降に漸減し始め, 1歳時にはほぼ消失するとされている。そのため, 1歳に到達した直後の小児へのワクチン接種を推奨している。2020年以降の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行では, 定期接種(1歳の第1期と小学校入学前1年間の第2期の2回接種)の一時的な接種控えが発生し3), 厚労省4)ならびに日本小児科学会3)は, 予防接種を遅らせないように積極的な勧奨を行った。近年では, 徐々にワクチン接種率の低下がみられており5), 確実な接種が望まれる。麻疹の集団発生を抑え込むためには, 高い予防接種率とすべての年齢層での95%以上の抗体保有率の維持が重要である。しかしながら, ワクチンの2回接種世代を中心に高い抗体価を持つ者の割合が減少しており, ワクチン接種者から患者の発生が続いていることからも, 抗体保有率だけでなく平均抗体価の変動や患者発生状況を注視する必要がある。
参考文献
- 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 麻疹抗体保有状況2025, 更新日:2026年5月21日
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/nesvpd/graph/2025/measles/seroprevalence/index.html - 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 麻疹抗体保有状況の年度比較2025, 更新日:2026年5月21日
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/nesvpd/graph/2025/measles/year/index.html - 公益社団法人日本小児科学会, 新型コロナウイルス感染症流行時における小児への予防接種について(アクセス日:2026年5月21日)
http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=345 - 厚生労働省, 遅らせないで!子どもの予防接種と乳幼児健診(アクセス日:2026年5月21日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11592.html - 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 令和6(2024)年度麻しん風しん定期予防接種の実施状況の調査結果について, 地図情報 麻しん風しんワクチン接種状況(5年度比較第1期, 第2期)
https://id-info.jihs.go.jp/immunization/statistics/coverage/routine-immunization-mr/2024/map5.pdf
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