麻疹排除維持に関連する取り組み―eJRFおよびNITAGの観点から―

麻疹排除維持に関連する取り組み―eJRFおよびNITAGの観点から―
(IASR Vol. 47 p128-129: 2026年7月号)
麻疹排除の維持には, 発生動向と予防接種状況を可視化する国際的なデータ基盤と, エビデンスに基づく政策立案を支える意思決定機構の両者が不可欠である。本稿では, まず日本における麻疹の現状と課題を整理したうえで, 麻疹排除維持に関連する取り組みとして, 世界保健機関(WHO)/国連児童基金(UNICEF)による電子版共同報告フォーム(electronic Joint Reporting Form: eJRF)および国の予防接種技術諮問委員会(National Immunization Technical Advisory Group: NITAG)に焦点を当て, それぞれの意義について概説する。
日本は2015年に麻疹排除の認定を受けたが, その後も海外からの輸入症例を契機とした二次感染例が散発的に報告されている。2023年以降, 麻疹の年間届出数は増加傾向にあり, 2026年においては医療機関や学校等における集団発生が報告されている1)。
日本における第1期麻しん含有ワクチン接種率は, 従来は95%以上で推移していたが, 近年は全国的に95%を下回る傾向がみられている。2024年度の第1期麻しん含有ワクチン接種率は全国で92.7%と報告されており, 目標とされる95%2)には達していない。また, 第2期麻しん含有ワクチン接種率は全国で91.0%とさらに低く, 都道府県別にみると90%未満の地域も認められる3)。
これらの状況は, 国内における感受性者の存在と, 輸入症例を契機とした感染拡大リスクを示唆しており, 条件が重なった場合には大規模な集団発生につながる懸念がある。したがって, 麻疹排除を維持するためには, 高いワクチン接種率の維持に加え, 発生動向の継続的な把握, 麻疹疑い例に対する迅速な届出・検査, 積極的疫学調査の実施, が重要である。さらに, これらの対策を支えるためには, エビデンスに基づく予防接種政策の検討を継続することが重要である。
近年, WHOは, 各国における科学的知見に基づく予防接種政策決定の強化を重視しており, 政策決定者に対してエビデンスに基づく助言を行う専門委員会, NITAGの設置・機能強化を推進している。また, NITAGによる推奨作成においては, Evidence to Recommendation(EtR)フレームワークに基づき, エビデンスを体系的に整理し, 意思決定に反映することが重視されている4)。
予防接種率や症例数等の疫学情報は, 国内における状況評価の基盤であるとともに, 国際的な情報共有においても重要である。WHOとUNICEFは, 予防接種関連データの収集を統合し, 各国の報告負担を軽減する目的で, 1998年からJoint Reporting Form(JRF)を用いて各国から情報を共同で収集してきた5)。JRFでは, 各国の予防接種制度, 接種率, ワクチン導入・流通状況, 感染症発生状況等の情報が収集される。JRFは, 2021年にクラウドベースのオンラインシステムであるeJRFへ移行した5)。麻疹に関しては, 麻しん含有ワクチン接種率, 報告症例数, アウトブレイク情報等が報告対象となり, 各国および地域レベルでの進捗評価に活用されている。また, これらの情報はWHO/UNICEFによる国別予防接種率推計(WUENIC)に利用されており, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以降の世界的なワクチン接種率の低迷と回復状況を把握するうえで重要な情報源となっている6)。
日本におけるeJRFの報告は, 厚生労働省が, 国立健康危機管理研究機構(JIHS)と連携し実施している。また, eJRFは, 各国の状況を共通の枠組みで収集し, 国・WHO地域区分(西太平洋地域など)・世界レベルで傾向や課題を把握するための重要な仕組みである。その基盤となるのは, 国内の自治体等が収集する予防接種実績や感染症サーベイランス情報であり, 自治体レベルの実務が国際的な状況把握にも反映されている。
一方, 国内の予防接種政策は, 疫学情報, 疾病負荷, ワクチンの有効性・安全性, 費用対効果等の科学的知見を踏まえて検討される。NITAGは, こうした予防接種政策に関する科学的助言を行う専門家委員会であり, 各国におけるエビデンスに基づく意思決定の中核を担うとされている。世界的なNITAGのネットワークであるGlobal NITAG Network(GNN)では, 各国のNITAGの活動状況や課題の共有が進められており, 日本は2024年に正式登録された7)。日本では, 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会が, 予防接種政策に関する専門的な検討を行う場として, NITAGに相当する機能を担っている。同分科会では, ワクチンの定期接種化, 接種対象者, 接種スケジュール等について検討が行われている。
近年, NITAGの機能を評価するツールとして, NITAG Maturity Assessment Tool(NMAT)が国際的に活用されており, 日本においても自己評価を通じてNITAGの強みや今後の検討課題の整理が進められている。NMATは, NITAG機能の把握や国際的な比較に有用である一方, その結果は各国の制度的背景や政策決定過程の特徴を踏まえて解釈する必要がある。
日本では, 麻しん含有ワクチン接種率が麻疹排除状態の維持に必要とされる95%を下回る傾向にあるとともに, 輸入症例を契機とした麻疹症例の報告が増加してきている。95%以上の接種率を確保するとともに, 迅速かつ質の高いサーベイランスと積極的疫学調査の実施が不可欠である。これらに加え, eJRFによる国際的な情報共有およびNITAGによるエビデンスに基づく政策検討を通じ, 実効性のある麻疹対策を継続的に推進することが求められる。
参考文献
- 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所, 麻しんの発生に関するリスクアセスメント(2026年第一版)(2026年3月19日時点)
https://id-info.jihs.go.jp/risk-assessment/measles/measles_ra_2026_1.pdf - WHO, Vaccine 37: 219-222, 2019
- 厚生労働省, 麻しん風しん予防接種の実施状況(アクセス日:2026年6月19日)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/hashika.html - WHO, Guidance on an adapted evidence to recommendation process for National Immunization Technical Advisory Groups
https://www.who.int/europe/publications/i/item/WHO-EURO-2022-5497-45262-64756 - WHO, WHO/UNICEF Joint Reporting Process
https://www.who.int/teams/immunization-vaccines-and-biologicals/immunization-analysis-and-insights/global-monitoring/who-unicef-joint-reporting-process - WHO, WER 100: 591-604, 2025
- GNN, monthly update: October 24'
https://www.nitag-resource.org/news/monthly-update-october-24
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
予防接種研究部
小野貴志 山本倫久 高松優光 森野紗衣子 高梨さやか
感染症疫学センター
鈴木 基
