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今般の麻疹の届出数増加を踏まえた麻疹対策について

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今般の麻疹の届出数増加を踏まえた麻疹対策について

(IASR Vol. 47 p130-132: 2026年7月号)

はじめに

麻疹(はしか)は, 麻疹ウイルスによって引き起こされる急性の全身感染症であり, 免疫を持たない人が感染すると, ほぼ100%発症する極めて感染力の強い疾患である。重症化することもあり, 先進国においても1,000人に1人が死に至るとされており, 公衆衛生上, 継続的な対策が必要な感染症である。

日本は, 2015年に世界保健機関(WHO)西太平洋地域麻疹排除認定委員会より麻疹の排除状態にあると認定され, 2026年5月現在まで排除状態が維持されているが, 海外ではカナダ, スペイン, 英国などで麻疹の流行により排除認定が取り消される例が報告されている1,2)。日本においても2026年に入ってから麻疹の届出数が増加傾向にあり, 第19週(2026年5月10日時点)の累計届出数は479例と, 過去10年間で最も多かった2019年の同時期(501例)に迫る水準となっている。インドネシアなどを推定感染地域とする輸入例の発生に加え, 国内における集団感染や二次感染が広がっており, さらに感染地域不明の報告も増加している3)

麻疹は空気感染, 飛沫感染, 接触感染によって広がり, その感染力は極めて強く, 免疫を持たない人々が集団内に残ると, 短期間で感染拡大を引き起こす可能性がある。このため, 予防接種の徹底とともに, 未接種者等の感受性者への対応, 接触者に対する迅速な疫学調査, 正確な情報発信, 医療機関での早期診断と感染対策等が不可欠である。

ワクチン接種率と課題

治療法の確立されていない麻疹に対して, 最も有効な対策は予防接種により感受性者が麻疹への免疫を獲得することである。「麻しんに関する特定感染症予防指針」〔平成19(2007)年12月28日厚生労働省(厚労省)告示第442号〕において, 麻しん含有ワクチンの第1期・第2期のそれぞれの接種率を95%以上とすることが目標として定められているが4), 令和6(2024)年度の麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種率は, 第1期が全国平均92.7%, 第2期が91.0%であり, 目標に達していない5)。特に第2期は小学校入学前に接種機会を確保することが重要であり, 自治体においては, 管轄の地域の接種率を把握したうえで, 未接種児と保護者への個別通知, 母子健康手帳交付時や乳幼児健診時の案内に加え, 広報紙やwebサイト・SNSを活用した周知の強化, さらに教育関係部局と連携し, 小学校入学手続などの機会を活用した接種勧奨等も検討することが求められる。

ワクチン供給については, MRワクチンの限定出荷が行われていたが, 現在は段階的に回復し, 令和8(2026)年度の納入量も例年と同等以上となる見込みであり, 供給不足を理由に接種勧奨を控える状況にはない。自治体においては供給回復の見通しを踏まえ, 定期接種対象者への案内を進め, 接種機会の逸失を防ぐことが重要である。

また, 定期予防接種以外においても, 公衆衛生対策上必要と認められる場合には, 柔軟に接種を行えるような体制の整備も重要である。例えば, 麻疹に対する免疫を保有しない, あるいは不十分である接触者が, 麻疹患者と最初に接触してから72時間以内であれば, 麻しん含有ワクチン接種により発症予防が期待される場合がある。また, MRワクチンの接種回数が不十分な方や接種歴が不明な方, 麻疹流行地への海外渡航予定者等についても, 必要に応じて接種を受けられるよう案内することが求められる。自治体は, こうした方が必要時に速やかに接種できるよう, 医療機関との調整や相談体制の整備を進める必要がある。

正しい情報の周知・啓発

麻疹についての正しい知識の普及も重要である。感染後, 約10日程度の潜伏期間を経て発熱や咳, 鼻水などのかぜ様症状が出現し, その後, 39℃以上の高熱と発疹が出現する。肺炎や中耳炎を合併しやすく, 1,000人に1人程度の割合で脳炎を発症するとされるなど, 決して軽視できる疾患ではない。さらに, 感染から数年~十数年後に10万人に1人程度の確率で, 予後不良の亜急性硬化性全脳炎(SSPE)を発症することがあり, 現在のところ有効な治療法はない。

麻疹が疑われる場合は, 周囲への感染拡大を防ぐため, 事前に医療機関へ連絡し, 指示を受けたうえで受診することが重要である。受診時には公共交通機関の利用を可能な限り避けるなど, 慎重な行動が求められる。また, 海外から帰国した人には, 帰国後2週間程度は発熱, 発疹などの症状に注意するよう周知する必要がある。

厚労省は, 国立健康危機管理研究機構(JIHS)と連携し, 2026年4月に改正された「保健所における麻しん対策・対応ガイドライン第三版」について, 自治体向け説明会を開催するとともに, webサイトで内容の周知を行っている。また同時に, 国民向けメッセージも発信し, 麻疹の症状や感染経路, 予防接種の重要性, 発症が疑われる場合の適切な受診行動などについて理解の促進を図っている。

おわりに

WHOはMeasles and Rubella Strategic Framework 2021-2030の中で, “a world free of Measles and Rubella”をビジョンとして掲げ, 各国と地域での麻疹および風疹排除の達成・継続を目標にしている6)。また, わが国の「麻しんに関する特定感染症予防指針」においても「引き続き麻しんの排除の状態を維持することを目標とする」と記載されている4)

これらを踏まえ, 今後も自治体等の国内の関係機関およびWHOをはじめとする国際機関等との連携を一層強化し, 情報交換や世界的な発生動向の把握に努めるとともに, 麻疹に関する正しい情報発信とワクチン接種等の普及啓発を継続することが, 麻疹の再拡大防止に向けて重要である。

参考文献

  1. Public Health Agency of Canada, Statement from the Public Health Agency of Canada on Canada’s Measles Elimination Status
    https://www.canada.ca/en/public-health/news/2025/11/statement-from-the-public-health-agency-of-canada-on-canadas-measles-elimination-status.html
  2. WHO, 14th meeting of the European Regional Verification Commission for Measles and Rubella Elimination(RVC)
    https://www.who.int/europe/news-room/events/item/2025/09/15/default-calendar/14th-meeting-of-the-european-regional-verification-commission-for-measles-and-rubella-elimination-(rvc)
  3. 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 麻疹 発生動向調査 感染症発生動向調査(IDWR)2026年第19週(2026年5月13日現在)
  4. 厚生労働省, 麻しんに関する特定感染症予防指針, 平成19年(2007)厚生労働省告示第442号
  5. 厚生労働省, 麻しん風しん予防接種の実施状況
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/hashika.html
  6. WHO iris, Guidelines on verification of measles and rubella elimination in the Western Pacific Region, 2nd ed.
    https://iris.who.int/items/b11fb295-8d0e-4ee5-85a7-100cd39a1257

  
  厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部
   感染症対策課       
   予防接種課

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