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ノロウイルスGIX.1を原因とした感染性胃腸炎集団発生事例―千葉市

ノロウイルスGIX.1を原因とした感染性胃腸炎集団発生事例―千葉市

(IASR Vol. 47 p156-157: 2026年8月号)

ノロウイルス(NoV)はプラス一本鎖RNAウイルスで, ヒトのウイルス性胃腸炎の主な原因である。NoVにはGI~GXの10遺伝子群および暫定的遺伝子群であるGNA1, GNA2に分類され, このうちGI, GII, GIV, GVIIIおよびGIXにはヒト由来株が含まれる1)。しかし, ヒトの感染性胃腸炎において流行の主体はGIおよびGIIに属する遺伝子型であり, GIV, GVIIIおよびGIXの検出報告は極めて少なく, 実態は十分に解明されていない。GIXは, 従来GII.15として分類されていた遺伝子型が, 分子疫学的解析に基づく2019年の報告により独立した遺伝子群として再分類されたものである1)。GIXはヒト感染が確認されているものの, 流行株として検出される機会は少なく, その報告は限られている2)

今回, 千葉市内で発生した感染性胃腸炎の集団発生事例でNoV GIX.1を検出したので, その概要について報告する。

2026年1月に千葉市内の高齢者施設職員から, 施設内で感染性胃腸炎が集団発生しているとの届出が本市保健所にあった。市保健所の調査の結果, 発症者は入所者12名, ショートステイ利用者5名, 施設従事者9名の計26名であり, 1月3日に初発例を認め, 1月5日に発症者のピークを迎えた後, 1月13日まで発症が確認された(図1)。主な症状は嘔吐23名(88.5%), 下痢10名(38.5%), 発熱10名(38.5%)であった。

患者26名のうち5名について便検体を採取し, real-time PCR法を実施したところ, 5名すべてがNoV GII陽性と判定された。real-time PCR法により算出した便中ウイルス遺伝子量は1.1×105-1.8×1010 copies/g, 中央値3.4×107 copies/gであった。検出株は, 既報および病原体検出マニュアルに基づき, COG2F/G2-SKRプライマーによりCapsid N/S領域, MON431/G2-SKRプライマーによりRdRp-VP1 junction領域を増幅し3-5), ダイレクトシーケンス法により塩基配列を決定した。

Capsid N/S領域(VP1領域の一部, 281塩基)について近隣結合法による系統樹解析の結果, 本事例検出株5株はすべて同一の塩基配列を示し, GIX.1(旧GII.15)参照株と同一クラスターを形成した(図2)。なお, 代表1株をDDBJへ登録した(アクセッション番号LC922750)。さらにRdRp-VP1 junction領域(548塩基)についてNorovirus Typing Tool Version 2.0(https://www.rivm.nl/mpf/typingtool/norovirus/)により型別分類を行ったところ, すべての検体でRdRp領域はGII.P15に分類され, VP1領域はGIX.1であり, GII.P15-GIX.1の組み合わせであった。

発症者の臨床症状はNoV感染症に矛盾せず, 発症者の分布および時間的推移から, 本事例は同施設内でヒトからヒトへ感染が拡がったNoV GIX.1による集団感染事例であると考えられた。

本事例では, 従来GII.15として扱われていたGIX.1が高齢者施設内で持続的に伝播し, 集団感染を形成した。GIX.1は, 2019年の分類体系再編以前にはGIIとして報告されていた経緯があり, 過去の検出頻度の評価には注意を要する。しかし, 本事例ではGIX.1による26名の発症をともなう伝播が確認されており, 本遺伝子型においても特定の環境条件下で感染拡大の可能性があることを示唆している。これは, たとえ統計上の検出報告が限られている遺伝子型であっても, 環境や接触機会が整えば大規模なアウトブレイクを形成しうることを示唆しており, 詳細な型判定に基づく継続的な監視の重要性を裏付けるものである。

また, GII.4などの主流株には一定程度の免疫が成立している6)一方で, GIX.1のような非主流株に対しては感受性個体群が多く, 高齢者施設のような閉鎖空間では容易に伝播しうることが示唆された。

GIXの検出報告は限られており, その疫学的特徴は十分に整理されていない。その知見は蓄積途上にあり, 地域間での検出状況の比較も困難である。今後は, 遺伝子型解析結果の蓄積と共有を進めることが, GIXの実態把握および流行動向の解明につながるものと考えられた。

謝辞:本稿を執筆するにあたり, 疫学調査資料の提供をいただいた千葉市保健所感染症対策課の方々に深謝いたします。

参考文献

  1. Chhabra P, et al., J Gen Virol 100: 1393-1406, 2019
  2. Chen Y, et al., BMC Genomics Data 23: 50, 2022
  3. Kojima S, et al., J Virol Methods 100: 107-114, 2002
  4. Richards GP, et al., Appl Environ Microbiol 70: 7179-7184, 2004
  5. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル ノロウイルス(第1版)令和元(2019)年6月
  6. Xie D-J, et.al., Front Cell Infect Microbiol 16: 1734113, 2026

  千葉市環境保健研究所     
   瀬野智史 近藤 文 高梨嘉光 落合弘章          
  千葉市保健所         
   清水幸恵 横井 一     
  千葉市動物保護指導センター  
   田中俊光

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