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地域目標を設定した静岡県東部地域におけるバンコマイシン耐性腸球菌対策の取り組み

地域目標を設定した静岡県東部地域におけるバンコマイシン耐性腸球菌対策の取り組み

(IASR Vol. 47 p158-160: 2026年8月号)

腸球菌はヒトの消化管の常在菌の一部であり, 院内では免疫不全患者などで菌血症・敗血症, 心内膜炎, 尿路感染症などの感染症を起こすグラム陽性球菌である。バンコマイシンに耐性を示す腸球菌(Vancomycin-resistant Enterococci: VRE)は治療の選択肢が限られること, 国内で検出頻度が低く拡大防止が重要なことから, 国の薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2023-2027(以下, AMR対策アクションプラン)1)では, 新たに年間VRE感染症罹患者数80人以下という成果指標が据えられた。VREは患者移動を介して地域内で拡散しうるため, 単一医療機関のみでの対策には限界があり, AMR対策アクションプランでは地域連携に基づく感染対策が重要とされている。

静岡県では2018年からVRE感染症患者の届出が増え始め, 2020年には, 静岡県東部保健所(以下, 東部保健所)管内のVRE感染症届出数が19例と全国ワーストクラスであった。そのため東部保健所は, その後数年間にわたり, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応の中, 感染管理認定看護師(infection control nurse: ICN)や病院長を対象にした連絡会議での対策検討, VRE対応マニュアルの作成と改定, 管内病院および高齢者福祉施設を対象とした研修会, アウトブレイクを起こしている医療機関への実地疫学調査や立ち入り検査での重点的チェック, を行ってきた。特に, 連絡会議に関しては, 東部保健所のある駿東田方2次医療圏と, 隣接し患者移動が多い3つの2次医療圏(賀茂, 熱海伊東, 富士)の病院管理者を対象にした圏域会議および広域ブロック会議を継続的に実施し, 地域全体でのVRE対策に関する認識共有と目標設定を行った。

2024年の広域ブロック会議では, 2027年までにVRE感染症届出患者ゼロを東部地域のVRE対策の目標として静岡県健康福祉部から提唱され, 参加者の同意が得られた。本稿では, これらの対策下での東部保健所管内におけるVRE検出状況を確認しつつ, 地域におけるVRE対策の課題を整理した。

東部保健所管内の2018年~2025年12月までの感染症発生動向調査のVRE感染症届出数, 2024年7月~2025年12月まで東部保健所から管内36医療機関に呼びかけて毎月収集したVRE分離患者数(感染症患者と保菌患者)を確認した。

感染症発生動向調査でのVRE感染症患者届出数は2024年半ばから徐々に減少し, 2025年12月時点で, 発生者数ゼロが6カ月以上継続していた(図1)。期間内に毎月19-25病院(53-69%)から情報提供があり, 四半期ごとでは4,874-7,408件のスクリーニング検査が実施されていた(図2)。VRE分離患者数は四半期ごとに54-86件であり, 陽性割合は1.0-2.2%であった。多数のスクリーニング検査が継続的に実施され, 啓発活動も推進される中, VRE感染症届出患者数は減少傾向を示していた。

静岡県では, 東部保健所が保健所管区を越えた地域医療機関の病院管理者やICNを対象に連携会議を介してVREに対する地域目標を定め, 包括的に対策を進めていた中で, VRE感染症報告数の減少を認めた。調査期間における保菌検査の陽性割合はほぼ横ばいであったが, この結果は各医療機関でのスクリーニング検査対象の違い, 特にアウトブレイクしている医療機関ではリスクがより高い集団へ検査対象を絞ってきたことが影響していた可能性がある。なお, 厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)検査部門では, 静岡県におけるVRE分離率(VRE分離患者数/検体提出患者数)は2022年に0.67%であったが, 2023年に0.57%, 2024年に0.52%と減少しており2), 地域でのVRE検出頻度の減少を示唆していた。

保健所が主催した連絡会議は, 医療機関の管理者やICNの間での共通認識の育成に役立ち, 地域感染症ネットワークの構築に寄与したと考えられた。特に, 2025年に開催した医療機関管理者を対象にした広域ブロック会議では7割以上の参加があり, 医療機関管理者の間でVREに対する認識や危機意識の共有に一定の役割を果たした。この地域感染症ネットワークの強化が, VRE感染症届出数減少に寄与した可能性が考えられた。

AMR対策アクションプランでは, 地域単位の成果指標や目標は設定されておらず, また地域における総合的な感染症対策ネットワークの具体的な活動モデルは十分に明らかになっていない。静岡県東部保健所の地域目標の設定や, 病院管理者や隣接保健所を巻き込んだ会議を通じた認識の共有は好事例と捉え, 今後も各地域でのAMR対策アクションプランを具体的なレベルに落とし込んだ活動が期待される。保健所は, 医療機関間の情報共有, 危機意識の共有, 地域目標の設定を通じて, 地域感染対策の調整機能を担いうると考えられた。

参考文献

  1. 国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等関係閣僚会議, 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2023-2027, 2023年4月7日
  2. 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)検査部門, 2024年公開情報静岡県
    https://janis.mhlw.go.jp/report/open_report/2024/3/1/prefectures/ken_Open_Report_202400_P22_静岡.pdf

  静岡県東部保健所       
   鉄 治           
  静岡県感染症管理センター   
   後藤幹生          
  静岡県立がんセンター感染症内科
   倉井華子          
  国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所       
   薬剤耐性研究センター併任応用疫学研究センター     
    山岸拓也 黒須一見 
     

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