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アフリカのマラリア原虫を媒介するハマダラカ

アフリカのマラリア原虫を媒介するハマダラカ

(IASR Vol. 47 p146-147: 2026年8月号)

アフリカ大陸では, マラリア原虫を媒介する蚊は30-40種類知られている。その中でも, ガンビエハマダラカ種群(the Anopheles gambiae complex)に属する3種, ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae s.s. 以下, ガンビエ), アラビエンシスハマダラカ(Anopheles arabiensis 以下, アラビエンシス), コルッツィハマダラカ(Anopheles coluzzii 以下, コルッツィ)とフネスタスハマダラカグループ(the Anopheles funestus group)のフネスタスハマダラカ(Anopheles funestus s.s. 以下, フネスタス)は, 公衆衛生上, 特に重要である。

ガンビエ, アラビエンシスとフネスタスは, サハラ以南アフリカに広く分布しているが, 前者2種は雨季にできる一過性の小さな水たまりに, 後者は湖や川沿いの湿性植物をともなったより大きな水域に繁殖する。小さな水たまりは水温も高くなり, 捕食者も少なく, 幼虫の生息には好都合であるが, 干上がるリスクがあるため短期間で成長しなければならない。条件が良ければ, ガンビエとアラビエンシスは10日前後で成虫になる。一方, より大きな水域は干上がるリスクは少ないため, フネスタスはゆっくり成長するが, 捕食者によるリスクが高い。ガンビエとフネスタスは, 屋内吸血性で, ヒト嗜好性が強いが, アラビエンシスは比較的野外吸血性で, 家畜に対する嗜好性も強い。これら3種は, 主に農村地域に生息しており, マラリアが田舎の病気といわれるゆえんである。

コルッツィは西アフリカに広く生息し, 都市環境や灌漑地域にも適応しており, ヒト嗜好性も強い。コルッツィは, 乾季に存続する水域も利用することから, フネスタス同様, 1年を通してマラリア伝播に関与している。コルッツィはガンビエと近縁であり, 交雑も報告されていたが, 2013年に独立した種と認められている1)。西アフリカでは, 他にも生態および遺伝的に異なる集団が複数知られており, 分類学的にも整理が必要である。

東および南部アフリカの汽水域に生息するAnopheles merusと西アフリカの汽水域性Anopheles melasと川沿いや森林地域に適応しているAnopheles niliAnopheles mouchetiも地域的には重要な種である。他に, 都市環境に適応したアジア原産のAnopheles stephensiのアフリカでの分布拡大も脅威となっている2)

アフリカにおける主な媒介蚊対策は, 蚊帳によるものである。天井の梁に紐で結ぶことでベッドに被せるように覆う。ハマダラカは, 夜, 活発に吸血するため, この方法は理にかなっており, 特に, ヒト嗜好性と屋内吸血性が強く, 深夜に活動が活発になるガンビエとフネスタスに対しては効果的である。

一方, 蚊帳は, 地域の住民の多くが適切に使用しないと大きな効果は見込めず, 半年ごとに防虫剤を染み込ませる作業を怠る住民がいるのが問題であった。そこで, 事前に蚊帳に防虫剤を含浸させ, 長期にわたって効果を持続させる蚊帳(長期残効性殺虫剤処理蚊帳:LLINs)が開発された。2000~2015年にかけてのマラリア減少の68%は, LLINsが貢献しているという研究報告がある3)。その研究では, 屋内残留性殺虫剤散布(IRS)とアルテミシニン薬併用療法(ACT)の貢献割合はそれぞれ, 22%と10%としている。

LLINsは, 各国がグローバルファンドに申請し, 採択されれば住民には無料で配られる。当初, 妊婦と幼児をもった母親を優先的に配布されていたが, 2007年に世界保健機関(WHO)は, 対象地域の全住民が蚊帳を利用できることを目指す(1枚につき2人が利用することを前提)ユニバーサルカバレッジの基本方針を打ち出した。しかし, 2024年のWHOによる報告では, アフリカでの蚊帳の使用率は50-75%で, 実現には程遠い4)

貧しい家庭では, 成長とともに親のベッドから離れた子供は居間などの床で寝るようになり, それらの子供の蚊帳の使用率はベッドで寝ている子供よりも低く, 感染リスクは上昇する。床で寝る子供は, 蚊帳を適切に吊るすことができないこともある。さらに, 床だと寝相が悪い子供の体の一部が蚊帳の外に出やすくなるとともに, 体全体が転がり出る可能性がある。居間は, 昼間の活動空間であるため, 夜蚊帳を吊って朝外す, という作業を毎日続ける必要がある。一方, 寝室のベッドでは, 蚊帳の紐を毎日外さなくても良い。これらの違いが, 蚊帳の使用率を下げている可能性がある。

そもそも, 2人につき1枚の蚊帳で本当にマラリア原虫の感染を防げるのか。それ以上の人数で使用したら感染リスクは高くならないのか。この疑問に答える西ケニアでの研究では, 蚊帳を使っていない子供からの血液のPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査による感染率は67.0%であったが, 1人で蚊帳を使用している場合は42.4%, 2人で共用している場合でも46.8%, 3人で寝ている子供の感染率は50.2%, 4人以上で寝ている子供は53.9%で, 蚊帳1枚当たりの人数が増えるとリスクも高くなることが明らかになった5)

大規模なLLINsの配布に呼応するように, 媒介蚊にも変化が現れてきた。LLINsは, 屋内で吸血する媒介蚊を選択的に排除するため, 特に東アフリカでは, 屋内吸血性が強いガンビエが激減し, より屋外吸血性が強いアラビエンシスの割合が相対的に高まっている6)。また, 夜間に吸血できなかった蚊が, ヒトが蚊帳から出てくる早朝を待って吸血を行うなどの変化が起きているという報告もある6)

もう1つの重要な懸念は, 防虫剤に対する抵抗性である。ガンビエは, ピレスロイド系防虫剤の作用点である電位依存性ナトリウムチャネルにともなうピレスロイド系抵抗性遺伝子を多くの地域で獲得しており, 蚊帳が普及した2006年以降, その保有頻度は増加している。また, アラビエンシスとフネスタスにおいては, シトクロムP450という酸化還元酵素による殺虫成分の解毒活性の増大による抵抗性(代謝抵抗性)が顕著になってきている。そのため, シトクロム P450の阻害剤であるピペロニルブトキシド(piperonylbutoxide: PBO)をピレスロイド系の防虫剤とともに添加したLLINsが開発されている。

蚊帳はマラリア対策に効果的であるが, 限界もあることは明らかである。WHOによれば, 2000年以来, マラリア患者数は減少し続けたが, 2015年以降その速度が鈍化し, 近年は一部の地域で上昇に転じている。WHOが推奨しているマラリアワクチンの効果にも限りがあることから, 媒介蚊対策は今後も重要な要素であることは間違いなく, より画期的手法の開発が望まれている。

参考文献

  1. Coetzee M, et al., Zootaxa 3619: 246-274, 2013
  2. Taylor, et al., Trends Parasitol 40: 741-743, 2024
  3. Bhatt S, et al., Nature 526: 207-211, 2015
  4. WHO, World malaria report 2024
    https://www.who.int/publications/i/item/9789240104440
  5. Tamari N, et al., Parasitol 146: 363-371, 2019
  6. Moiroux N, et al., PLoS ONE 9: e104967, 2014

  長崎大学熱帯医学研究所
   皆川 昇

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