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人獣共通感染症としてのサルマラリア

人獣共通感染症としてのサルマラリア

(IASR Vol. 47 p153-154: 2026年8月号)

人獣共通感染症は, 動物とヒトの間で自然に伝播する感染症の総称であり, 新興感染症の主要な起源として近年その重要性が増している。これらの感染症は, ヒトのみならず自然界の動物を含む感染環が維持されることから, 従来のヒトを中心とした公衆衛生対策のみでは制御が困難な場合がある。この問題は, マラリアにおいても例外ではなく, 野生のサルを自然宿主とする「サルマラリア原虫」の一部はヒト感染が確認されており, 人獣共通感染症としての重要性が認識されつつある。本稿では, 人獣共通感染性マラリアに関する最新の知見を述べる。

現在, 世界で最も問題となっている人獣共通感染性マラリア原虫は, 東南アジアの野生ザルを自然宿主とするPlasmodium knowlesi(二日熱マラリア原虫)である。P. knowlesiのヒト自然感染は, 1965年に初めて報告されたが, 長らく稀な事例と考えられていた1)。しかし, 2004年にマレーシアでの集団感染が報告されて以降, 東南アジアの各国で患者報告が相次ぎ, 2024年には合計2,164例の感染例が確認されている2,3)。日本においても, マレーシアからの帰国者の輸入感染例が2012年に1例報告されている4)。当原虫種によるマラリアの症状は, 発熱, 貧血, 頭痛など, 他のマラリアと類似するが, 重症化や死亡例も報告されている2)。診断上の課題として, 当原虫種の赤血球内ステージの形態は他マラリア原虫種と類似するため, 血液塗抹標本による診断では誤同定される可能性があり, 確定診断にはPCRなどの分子生物学的手法が重要となる2)。治療はヒトマラリアに準じ, アルテミシニン併用療法が有効とされている2)

近年ではP. knowlesiに加え, P. cynomolgi, P. inui, P. coatneyi, P. fieldi, P. simiovaleといった各種サルマラリア原虫のヒト感染事例が東南アジア諸国で多数報告されており, 中でもP. cynomolgiは集団感染事例も認められている5,6)P. cynomolgi, P. fieldi, P. simiovaleについては, サルの肝臓内で休眠体を形成することが知られている。ヒト体内でも同様の現象が生じるかは不明であるが, 再発リスクの評価や治療方針の観点から重要な課題である7)。一方, 中南米では新世界ザルを自然宿主とするP. simiumおよびP. brasilianumのヒト感染が確認されており, P. simiumに関しては集団感染事例が認められている2,8)。これらを含めた, 主なサルマラリア原虫の人獣共通感染性に関する現状を整理したものをに示す。に示すように, 多くのサルマラリア原虫でヒト感染が確認されている一方, 一部の種ではヒト感染性は未解明である。ヒト感染性が不明な種においても, 自然宿主や分布域に関する情報は整備されていることから, 今後の疫学調査や診断技術の発達により, 新たな人獣共通感染性マラリアとして認識される可能性は否定できない。また, ヒト感染性が確認されている種についても, サルから蚊を介したヒトへの感染経路は明らかになっている一方, ヒトから蚊への伝播が自然条件下で成立するかについては不明であり, 感染環におけるヒトの役割は重要な研究課題である。筆者らは, 複数のサルマラリア原虫種のin vitro培養に成功しており, これらの系を用いて, ヒト感染性の獲得機構や, 蚊への伝播機構などの解析を進めている。今後, これらの解析を通じて, 人獣共通感染性マラリアの成立機構および伝播様式の理解を進展させ, その制御に資する知見の蓄積を目指している。

参考文献

  1. Chin W, et al., Science 149: 865, 1965
  2. WHO, Technical consultation on control of zoonotic malaria, Meeting report, 5-7 November 2024
    https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/381500/9789240110854-eng.pdf
  3. WHO, World malaria report 2025
    https://www.who.int/publications/i/item/9789240117822
  4. Tanizaki R, et al., Malar J 12: 128, 2013
  5. Fornace KM, et al., Lancet Infect Dis 23: e520-e532, 2023
  6. Law YH, nature NEWS, 16 April 2018
    https://www.nature.com/articles/d41586-018-04121-4
  7. Zeeman A-M, et al., Antimicrob Agents Chemother 69: e0181224, 2025
  8. Brasil P, et al., Lancet Glob Health 5: e1038-e1046, 2017
  9. Baird JK, Travel Med Infect Dis 7: 269-277, 2009

  国立健康危機管理研究機構       
   国立感染症研究所寄生動物部/東京農工大学大学院農学府共同獣医学専攻
    関澤秀斗 案浦 健         
  東京大学医科学研究所奄美医科学研究施設
   川合 覚

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