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2018~2023年までに国内で分離された侵襲性髄膜炎菌感染症の起炎菌の血清学的および分子疫学的解析

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2018~2023年までに国内で分離された侵襲性髄膜炎菌感染症の起炎菌の血清学的および分子疫学的解析

(IASR Vol. 47 p163-164: 2026年9月号)

髄膜炎菌ワクチンの防御効果は血清群特異的であるため, 国内の臨床分離株の血清群の情報は重要である。また, 髄膜炎菌は細菌性髄膜炎の起炎菌の中でもヒト-ヒト感染による大規模な流行を引き起こす可能性があるため, 世界規模で菌株の比較解析が必要となってきており, 侵襲性髄膜炎菌感染症(invasive meningococcal disease: IMD)起炎菌株の分子疫学的型別も重要と考えられる。しかし, 一般の細菌検査室や地方衛生研究所においては, 血清群型別や遺伝子型別の実施はその施設の環境によっては実施困難な状況であるため, 国立感染症研究所においては, 国内分離株の血清群型別およびmultilocus sequence typing(MLST)法を用いた遺伝子型(sequence type: ST)別を実施し, その結果を定期的に報告してきた。

本稿では2018~2023年までに国内で分離された髄膜炎菌株の血清群型別および遺伝子型別の内訳を図, 表に示す。

血清群に関しては, 21年前(IASR 26: 36-37, 2005)および13年前(IASR 34: 363-364, 2013)の報告においてはB群がドミナントであったが, すでに8年前(IASR 39: 3-4, 2018)には血清群Yが日本のドミナント血清群に遷移しており, 2018~2023年においても血清群Yが全体の約55%を占めた(図)。血清群Bは約36%を占めており, 血清群C, Wが各3株ずつ検出された。また, 一般的には莢膜多糖体産生株のみがIMD起炎菌として分離されてくるが, 血清群型別不能株(莢膜多糖体非産生株, non groupable: NG)が3株検出された。

遺伝子型別法であるMLSTは, 7つの必須遺伝子の塩基配列を基に分類・同定する手法である。それらの塩基配列が同一であれば同一ST, 1つでも異なれば別STとして分類し, 7つのうち最低4つの遺伝子座が一致するものを“clonal complex(cc)”と称してグループとして扱う。近年は, 全ゲノム塩基配列解読(WGS)による一塩基の違い(SNP)で菌株を比較することがスタンダードとなってきている。WGSによる分類(系統樹)はccごとに大別されたクラスターを形成することが明らかとなっており1), MLSTの解析解像度はWGSの約1/100程度と劣るが, WGS解析による分類はMLST解析分類を反映しているため, 髄膜炎菌を大別するうえでMLSTによるST分類は今なお髄膜炎菌の分子疫学分類においてゴールデンスタンダードとなっている。

ST分類をみると, 2005~2017年では血清群Y株/ST-23がドミナントであったが, 2014年から多く認められるようになった(IASR 39: 3-4, 2018)。2023年においてはST-23と4 SNPでcc23に分類されるST-1655が国内のドミナント株になってきている(表)。一方で, 血清群B株は国内で従来より検出されていたcc41/44に加え, cc213, cc26, cc4821に分類される海外流入株の可能性のある株も散見されたが, 日本固有株であるST-20572)およびcc2057が20株と, 国内でドミナント株として検出された。NG株はST-2057と同様に, 日本固有株であるST-110261)とその1 SNP株ST-15484が1株ずつ検出された一方で, 海外流入株の可能性のあるST-2032(cc178)も2020~2022年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に検出された。また, ST-13803, ST-13468, ST-14407, ST-17048, ST-17239, ST-17517といった, 上述した既同定STの1 SNP株を含む新規ST株も分離されてきており, 日本国内の髄膜炎菌が潜在的に伝播・派生している可能性が示唆された。

2018~2023年の5年間は, 2019年のラグビーW杯, 2021年の東京オリンピック・パラリンピック等のマスギャザリングイベントが国内で開催されたが, COVID-19パンデミック(2020~2022年)の影響によりIMD症例届出が年間数例にまで激減したため, 解析株の約7割はCOVID-19パンデミック前の2018~2019年の約2年間に分離された株となっており, 日本のIMD感染史上最も激動的な5年間であったと考えられる。COVID-19パンデミック後は, 諸外国と同様に日本もIMD症例は増加傾向にある3)が, 2023年の時点では海外流入と推測される株によるIMD症例の顕著な増加は認められず, 血清群Y/ST-1655を起炎菌とするIMD症例がCOVID-19パンデミックを挟んだ5年間で継続的に報告されていると考えられた。本稿執筆現在(2026年7月)において, IMDは2024年からCOVID-19パンデミック前の最多報告数を超えているが, 1年前の国際イベントである大阪関西万博を経ても海外流入株と推定される髄膜炎菌株を起炎菌とするIMD症例の目立った検出はないため, 現状はCOVID-19パンデミック後の国内独自の髄膜炎菌株の伝播・拡大によるIMD症例増加と推測される。しかし, 髄膜炎菌ワクチンの定期接種がない日本においては, 不測の事態の可能性は完全に否定できず, 冷静に対処する準備として, 国内外のIMD発生動向調査を実施するとともに, その起炎菌株の血清群, MLST, WGS等の情報も把握しておくことは極めて重要だと考えられ, 今後もIMD起炎菌株の回収と解析を継続する必要性が考えられた。今後も, 引き続き地方自治体や病院関係の先生方のご協力を賜れば幸いである。

菌株収集にご協力いただきました地方衛生研究所, 病院や臨床検査室の先生方に深謝いたします。

参考文献

  1. Takahashi H, et al., Vaccine 41: 416-426, 2023
  2. Takahashi H, et al., J Med Microbiol 71: 001504, 2022
  3. Kobayashi M, et al., Euro Surveill 29: 2400136, 2024
 
  国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
   潜在感染研究部・細菌第一部
    高橋英之
   細菌第一部
    明田幸宏
   応用疫学研究センター 
    高橋あずさ 砂川富正

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