2003~2020年までに国内で分離された髄膜炎菌株の薬剤感受性に関する解析

2003~2020年までに国内で分離された髄膜炎菌株の薬剤感受性に関する解析
(IASR Vol. 47 p164-166: 2026年9月号)
侵襲性髄膜炎菌感染症(invasive meningococcal disease: IMD)は, 世界では発生率が高い「髄膜炎ベルト」と呼ばれるサハラ以南アフリカ地域のみならず, 米国, 英国をはじめ先進国でも莢膜多糖体結合型ワクチンやB群ワクチンの導入が進んでいる。一方で, 日本国内ではA/C/W/Y 4価結合型ワクチンが国内で唯一認可されてはいるが, 国内の病院において必ず常備されている訳ではなく, また保険適用がないためにワクチン接種の個人負担料が大きい。そのため, IMDが国内で発生した場合, 濃厚接触者への二次感染予防法は抗菌薬による化学予防内服が最も現実的となってくる。しかし, これまでに日本の髄膜炎菌株に対する抗菌薬の感受性に関しては十分に解析されてこなかった。そこで, 我々は2003~2020年までに国内で分離されたIMDの起炎菌株182株, さらには喀痰, 咽頭スワブ, 尿道炎分泌物等の非侵襲性部位からの髄膜炎菌分離株108株も含めて薬剤感受性を解析した1)。
クロラムフェニコール, メロペネム, ミノサイクリンに関しては, すべての国内分離株に対して試験を実施しなかったが, 日本国内ではクロラムフェニコール, メロペネム, ミノサイクリン, セフトリアキソンとリファンピシンの5剤に対しては100%感性を示した(表)。この結果から, 日本国内でIMD治療に使われているクロラムフェニコール, メロペネム, ミノサイクリン, セフトリアキソンの4剤は, 細菌学的見地からも今後もIMD治療薬として有効であることが明らかになった。一方で, シプロフロキサシン(CIP)とペニシリンG(PCG)に非感性および耐性を示す株が多く認められた。
さらには, 本研究対象株の全ゲノム塩基配列解読(WGS)解析による系統樹2)とCIPおよびPCGに対する非感性および耐性の情報との相互関係を検証した。その結果, 日本固有株であるST-2057およびST-111026にCIPおよびPCGの非感性および耐性株が多いことが明らかとなった(図)。また, 髄膜炎菌株の薬剤感受性は遺伝子型と非常に高い相関性が認められることから, 髄膜炎菌においては薬剤耐性遺伝子の水平遺伝は非常に稀であることが明らかとなった。
国内分離株中にはCIPとPCGに非感性および耐性を示す株が多く認められたことから, CIPはIMD予防薬として1日1回の経口処方薬が国内では広く使われてきたが, その一義的な処方薬の選択に対しては一考を要すると考えられた。一方で, リファンピシンは欧米ではIMDの化学予防内服薬とされており3), 起炎菌の解析を待たずに化学予防内服薬の処方を要する場合にはリファンピシンの選択が望ましいと考えられた。PCGに関して, 日本国内ではIMDの治療および予防に対して第一選択薬となることはないが, 「髄膜炎菌は薬剤耐性がないからIMDに対する選択薬は比較的豊富」という臨床での経験的認知に関しては再考を促す結果となったと考えられた。また, CIPおよびPCGの非感性・耐性株は日本固有株であるcc2057株およびST-111026株に偏重しており(図), 起炎菌(分離菌)の遺伝子型(可能であれば薬剤感受性も)の解析を実施してから処方薬を選択する手順を取ることが可能であれば, 不適切な抗菌薬処方を避けることが可能であると考えられた。いずれにせよ, 国内分離株の薬剤感受性に関しては, 引き続きモニタリングしていく必要があると考えられた。
菌株収集にご協力いただきました地方衛生研究所, 病院や臨床検査室の先生方に深謝いたします。
参考文献
- Takahashi H, et al., Antimicrobiol Agents Chemother 67: e0074423, 2023
- Takahashi H, et al., Vaccine 41: 416-426, 2023
- CDC, Manual for the Surveillance of Vaccine-Preventable Diseases, Chapter 8: Meningococcal Disease
https://www.cdc.gov/vaccines/pubs/surv-manual/chpt08-mening.html
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
潜在感染研究部・細菌第一部
高橋英之
細菌第一部
明田幸宏
応用疫学研究センター
砂川富正
