髄膜炎菌感染症の検査法―病原診断迅速化に関する現状

髄膜炎菌感染症の検査法―病原診断迅速化に関する現状
(IASR Vol. 47 p166-167: 2026年9月号)
侵襲性髄膜炎菌感染症(invasive meningococcal disease: IMD)は急速に重篤化し得る感染症であり, 正確な病原体同定に基づく早期診断と迅速な公衆衛生対応が重要である。
近年, 国内の臨床微生物検査室においてMALDI-TOF MSが広く導入され, 従来法と比較して迅速かつ簡便な同定が可能となった。一方で, Neisseria meningitidisを含むナイセリア属菌では, MALDI-TOF MSによる近縁菌間の識別に課題があることが報告されている1-3)。特に, N. meningitidisと, N. cinerea, N. polysacchareaなどの非病原性ナイセリア属菌の一部は蛋白プロファイルが類似しており, 誤同定の原因となり得ることが知られる2,4)。参照データベースの強化により同定精度が改善するとされているが, このような誤同定は患者診療のみならず, 接触者対応や予防内服の要否など公衆衛生対応にも影響する1)。したがって, MALDI-TOF MSを用いた同定検査においてN. meningitidisが疑われた場合は, 特に咽頭, 尿路, 生殖器など無菌部位以外の検体や, 臨床像と乖離する場合には, グラム染色, コロニー性状, 糖分解能など従来法を併用し, 必要に応じて16S rRNA遺伝子やrecA遺伝子解析等による同定結果の検証が望ましい2,4,5)。
一方, IMDの確定診断では, 血液, 髄液, 関節液など無菌部位からのN. meningitidis分離が重要であり, 生菌の確保によって, さらに薬剤感受性試験, 血清群別, 分子疫学解析の実施が可能となる。しかし, 抗菌薬投与後には培養感度が低下するため, real-time PCRなどの遺伝子検査が診断補助として有用である。これまでの報告では, 莢膜輸送遺伝子ctrAやCu-Zn superoxide dismutase遺伝子sodCなどが標的遺伝子として用いられている6)。ただし, ctrAは莢膜関連遺伝子であるため, 莢膜欠損株など遺伝子多型により偽陰性となる可能性がある。既報でも, ctrA陰性, sodC陽性で, 16S rRNA解析によりN. meningitidisと同定された事例が報告されており, 複数ターゲットの併用が望ましい6,7)。
また, 核酸を対象とした迅速病原診断法として, FilmArray® Meningitis/Encephalitis(ME)パネル等も活用されている。本法は髄液を対象に, N. meningitidisを含む細菌, ウイルス, 真菌を約1時間で同時検出する多項目PCRであり, 重症例や抗菌薬投与後の症例における病原診断のほか, 抗微生物薬の適正使用においても有用性が期待される8,9)。これまで, 多施設評価およびメタアナリシスでは, 細菌性髄膜炎起因菌に対して高い特異度が示されている一方, 病原体別の評価症例数には偏りがあり, 偽陽性・偽陰性も報告されている8,9)。そのため, FilmArray®等の多項目PCRによる結果は単独で診断を確定するのではなく, 臨床症状, 髄液細胞数, 蛋白, 糖, グラム染色, 培養結果などとあわせて解釈する必要がある。
以上より, IMD診断における病原体同定では, 培養を中心とした従来法のほか, MALDI-TOF MS, real-time PCR, FilmArray® MEパネル等を, 各検査法の利点と限界を踏まえて組み合わせることが重要である。特に, MALDI-TOF MSは迅速同定に有用である一方, ナイセリア属菌では誤同定の可能性を念頭に置き, 臨床的・疫学的に重要な症例では遺伝子検査等による確認が求められる。迅速性と正確性を両立した検査体制の整備が, IMDの早期診断, 適切な治療, 的確な公衆衛生対応に資すると考えられる。
参考文献
- Hong E, et al., Clin Microbiol Infect 25: 717-722, 2019
- Kawahara-Matsumizu M, et al., JJID 71: 85-87, 2018
- Smith AC, et al., J Clin Microbiol 62: e00704-24, 2024
- 田中沙織ら, The Japanese Journal of Antibiotics 74: 202-209, 2021
- Pandey U, et al., J Clin Microbiol 57: e00498-19, 2019
- Sirluck-Schroeder I, et al., J Clin Microbiol 60: e00152-22, 2022
- 今野貴之ら, IASR 33: 338, 2012
- Leber AL, et al., J Clin Microbiol 54: 2251-2261, 2016
- Trujillo-Gómez J, et al., eClinicalMedicine 44: 101275, 2022
東京科学大学大学院医歯学総合研究科
微生物・感染免疫解析学分野
齋藤良一
