電撃性紫斑をともなった劇症型髄膜炎菌感染症の1例

電撃性紫斑をともなった劇症型髄膜炎菌感染症の1例
(IASR Vol. 47 p167-168: 2026年9月号)
はじめに
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)はグラム陰性双球菌である。髄液, 血液, その他無菌部位より検出された際には, 重篤な経過をとることが知られており, 侵襲性髄膜炎菌感染症(invasive meningococcal disease: IMD)として5類感染症全数把握疾患に指定されている。
今回我々は, 特徴的な皮膚所見を呈したIMDを経験したため, 報告する。
症例
年齢・性:40代・女性
主訴:発熱, 四肢の痺れ感, 嘔気
現病歴:来院前日より発熱, 四肢の痺れ感ならびに吐き気が出現した。翌日未明に体動困難となったためにA病院に救急搬送された。
既往歴:28歳, 子宮頸がんのため円錐切除術施行。子宮内膜症を治療中
家族歴:特記事項なし
職業:建築資材販売
渡航歴:なし
家族構成:父親と2人暮らし
来院時の所見(A病院)
体温35.9℃, 血圧92/72mmhg, 脈拍98回/分, 呼吸数34回/分, SpO2測定不能, 苦悶様顔貌, 末梢冷汗あり。両下肢のしびれを訴えるも, 把持痛や腫脹なし。意識レベルE4V5M6であり, 意思疎通は可能であった。
来院時の検査結果(表)
来院時の血液検査にて肝, 腎機能障害を認め, 炎症反応も高値であった。血小板減少と凝固異常を呈しており, 播種性血管内凝固症候群(DIC)の所見であった。血液ガス分析では代謝性アシドーシスを呈していた(表)。
A病院では血液検査(表)と血液培養検査のみが実施されたが, 同院では対応不可能な病態と判断されたため, 高次医療対応可能なB病院に搬送された。
経過
B病院では, 多臓器不全をともなう敗血症性ショックと診断された。転院直後に人工呼吸器管理となり, 救命センターへ入院となった。上記病態に加えて急性腎障害(AKI)を合併しており, 持続緩徐式血液濾過療法(CRRT)実施下に抗菌薬(メロペネムとバンコマイシン)が腎機能極量で投与された。後日, A病院の血液培養検査2セットからNeisseria meningitidis(血清群Y群)が検出されたとの報告を受けたため, IMDと診断された。抗菌薬は一旦セフトリアキソン単剤へとde-escalationされたが, 肝機能障害が増悪したために再度メロペネムへ変更された。これらによって計14日間の治療を完遂した。また, 入院21日目に人工呼吸器から離脱したが, 抜管直前から両足趾が黒色変化を呈して壊死したため, IMDにともなう電撃性紫斑(purpura fulminans: PF)と診断した。24日目に右全足趾と左第二~四足趾が切断された。図には, 右足趾の紫斑と切断後の状態を示す。
腹部CT検査では脾臓に形態的異常を認めなかったものの, 末梢血塗抹標本ではHowell-Jolly小体が確認されたため, 機能的無脾と考えられた。腎機能は罹患前のレベルに回復せず, 維持透析となっている。
なお, 原因微生物がN. meningitidisと判明した時点で, 曝露した医療従事者には化学予防を実施した。
考察
髄膜炎菌の血清群Y群は本邦では最も頻度が高い。その一方で, 欧米ではB群, C群, W群が優位である。本邦におけるIMDの届出数は, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行開始後に激減したのち増加に転じ, 2025年には過去最多の86例が届出されている1)。
本例から検出されたN. meningitidisは遺伝子型(ST)23(ST-23 complex)であり, 2010年代前半までは散発的に検出されていたものの, 現在では稀にしか検出されなくなっている。血清群による病原性の差異は明らかになっておらず, 本例が重篤に至った原因は宿主の免疫状態, すなわち機能的無脾の影響が大きかったと考えられる2,3*)。
PFとは, 紫斑性局面・出血性水疱・末梢の壊疽といった皮膚所見がDICを反映した「皮膚所見上のマーカー」として出現する。皮膚の微小血管内血栓と出血性梗塞を特徴とする急速進行性の病態であり, DICをともなう。PFの原因微生物としては, 髄膜炎菌と肺炎球菌の頻度が最も高い。PFを呈した髄膜炎菌血症の致死率は50%以上であり, PFは予後不良を意味する4)。
結語
今回, 我々はPFをともなった劇症型髄膜炎菌感染症の1例を経験した。一命は取り留めたものの, 壊死した足趾の切断は免れず, 腎機能は廃絶した。PFを確認した際には予後不良の侵襲性髄膜炎菌感染症を想定し, 躊躇なく壊死部の切断を含めた集学的治療を行うべきである。
謝辞:血清群ならびに遺伝子型についてご教示いただきました, 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所 潜在感染研究部・細菌第一部併任 高橋英之先生に御礼申し上げます。
参考文献
- 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 日本の侵襲性髄膜炎菌感染症の動向について, 2013年4月1日~2025年12月31日(2026年1月21日現在)
- Takahashi H, et al., J Med Microbiol 53: 657-662, 2004
- Takahashi H, et al., Vaccine 41: 416-426, 2023
- Powars D, et al., Clin Infect Dis 17:254-261, 1993
*国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所 潜在感染研究部・細菌第一部併任 高橋英之博士の未発表データも含む
公立刈田綜合病院呼吸器内科
大島謙吾
