海外における侵襲性髄膜炎菌感染症の近年の疫学と薬剤感受性

海外における侵襲性髄膜炎菌感染症の近年の疫学と薬剤感受性
(IASR Vol. 47 p170-171: 2026年9月号)
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)による侵襲性髄膜炎菌感染症(invasive meningococcal disease: IMD)は, 髄膜炎, 菌血症, 敗血症などを呈し, 急速に重症化し得る。主な原因血清群はA, B, C, W, X, Y群で, その分布は地域, 年齢, 時期により異なる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期には複数国で症例数が減少し1), その後再増加したが, 増加の時期, 規模, 年齢層, 血清群は国・地域により異なっていた2)。また, 薬剤感受性の変化は, 化学予防薬の選択に影響し得る。本稿では, 海外におけるIMDについて, 地域別に罹患率, 疫学的特徴, 血清群分布を整理し, 関連するワクチン導入状況にも触れる。あわせて薬剤感受性の地域差と近年の変化を概説する。
サハラ以南アフリカの「髄膜炎ベルト」では, 従来, 乾季を中心にA群によるIMDの大規模な流行が繰り返され, 流行期のIMD罹患率は年間人口10万対100以上に達することもあった3)。2010年以降のA群髄膜炎菌結合型ワクチン導入後にはA群が著減したが, C, W群による流行が継続している4)。
欧州諸国では, COVID-19流行前のIMD罹患率は年間人口10万対1未満で, 血清群分布は欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)全体ではB群が主要であったものの, 国や年齢層により異なっていた5)。英国では, 罹患率が2019/20年度の人口10万対0.98から2020/21年度に0.16と低下した後, 2022/23年度には0.64に上昇した。B群が多くを占め, 特に18~24歳で増加が顕著であった。フランスでも, 2022年に同じ若年成人層におけるB, W, Y群の増加がみられた。両国では当時, B群髄膜炎菌ワクチン定期接種は乳児に限られていた2)。
北米および南米では, 米国, カナダ, チリのCOVID-19流行前のIMD罹患率はいずれも年間人口10万対1未満であった2,6)。米国の罹患率は1990年代以降低下傾向にあったが, COVID-19流行期の症例減少後, 2021年以降に増加し, 流行前の水準を上回った。この増加にはY群が大きく寄与した2)。カナダでは, IMD罹患率が2019年の人口10万対0.37から2021年には0.13へ低下し, 2022年には0.21となった。2012~2022年ではB群が最多であったが, 血清群分布は地域差がみられた6)。チリでは2021年以降にB群を主体に再増加し, 2023年にはW群の増加もみられた2)。
中東では, 一部の国でIMD罹患率は人口10万対0.09-0.18と報告されている7)。ただし, サーベイランス体制や検査法は国により異なり, 過少報告や誤分類の可能性がある。主要血清群も国により異なり, トルコではB群, カタールやサウジアラビアではW群が多い。サウジアラビアでは, イスラム教の大巡礼(Hajj)および小巡礼(Umrah)に関連したW群による集団発生が報告されており, 巡礼者には4価髄膜炎菌ワクチンの接種が求められている7)。
アジア太平洋地域では, 多くの国でIMD罹患率は年間人口10万対0.02-0.2と報告されている。ただし, サーベイランス体制や診断・検査体制には国により差があり, 症例が十分に把握されていない可能性がある。主要血清群はB, W, Y群であるが, A, C, X群も報告されている8)。中国では, A, C群を対象とする多糖体ワクチンが定期接種に用いられ, 血清群分布は2014年まではC群が主体であったが, 2015年以降にB群の推定割合は52.4%に増加した9)。
薬剤感受性については, 監視体制が国・地域により異なるため, 耐性株の検出・報告状況を地域間で単純に比較することは難しい。化学予防薬のうち, リファンピシン耐性株の報告は限られ, セフトリアキソン耐性も極めて稀である。一方で, 中国では2010年代以降, シプロフロキサシン耐性cc4821が拡大している10)。日本でも, 2017年にシプロフロキサシン耐性C群ST-4821による国内初のIMD症例が届出された11)。米国では2019~2020年にペニシリン耐性関連遺伝子blaROB-1を保有し, かつシプロフロキサシンにも耐性を示す株が11株確認された12)。このような状況を踏まえ, 米国では, 過去12カ月に地域内でシプロフロキサシン耐性IMDが2例以上報告され, かつ全IMDの20%以上を占める場合, 化学予防にはリファンピシン, セフトリアキソンまたはアジスロマイシンを優先的に用いる指針が示されている13)。米国の疫学に基づく基準であるが, 耐性動向の把握が化学予防薬の選択に結び付くことを示している。
海外のIMDでは, 発生動向および血清群分布が地域・時期により異なり, ワクチン導入や耐性株の出現・拡大にともなう変化もみられる。特に, シプロフロキサシン耐性株の動向は接触者への化学予防薬の選択に影響し得るため, 海外渡航歴を有する症例やマスギャザリング関連事例では, 関連地域の薬剤感受性情報を踏まえて化学予防薬を検討する必要がある。このため, 国外の動向を注視しつつ, 国内における発生動向ならびに分離株の血清群, 薬剤感受性および分子疫学的特徴を継続的に監視することが重要である。
参考文献
- Shaw D, et al., Lancet Digit Health 5: e582-e593, 2023
- Shen S, et al., Infect Dis Ther 13: 2489-2507, 2024
- Stephens DS, et al., Lancet 369: 2196-2210, 2007
- Trotter CL, et al., Lancet Infect Dis 17: 867-872, 2017
- ECDC, Invasive meningococcal disease, Annual Epidemiological Report for 2024
https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/invasive-meningococcal-disease-annual-epidemiological-report-2024.pdf - Pham-Huy A, et al., Can Commun Dis Rep 49: 358-367, 2023
- Al-Abri SS, et al., J Infect 88: 71-76, 2024
- Aye AMM, et al., J Infect 81: 698-711, 2020
- Xu J, et al., Hum Vaccin Immunother 18: 2071077, 2022
- Rodriguez E, et al., Clin Microbiol Rev 38: e00215-24, 2025
- Saito R, et al., Microbiol Spectr 10: e00627-22, 2022
- Potts CC, et al., Clin Infect Dis 73: 1185-1193, 2021
- Berry I, et al., MMWR 73: 99-103, 2024
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース(FETP)
関 雅之
応用疫学研究センター
高橋あずさ 砂川富正
潜在感染研究部・細菌第一部
高橋英之
細菌第一部
明田幸宏
