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英国ケント州における若年成人を中心とした侵襲性髄膜炎菌感染症アウトブレイク事例について

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英国ケント州における若年成人を中心とした侵襲性髄膜炎菌感染症アウトブレイク事例について

(IASR Vol. 47 p172-173: 2026年9月号)

2026年3月, 英国南東部ケント州カンタベリー周辺において, 若年成人を中心とした侵襲性髄膜炎菌感染症(invasive meningococcal disease: IMD)のアウトブレイクが発生した。英国健康安全保障庁(UK Health Security Agency: UKHSA)および関係機関による調査の結果, 本事例は血清群B髄膜炎菌(MenB)による大規模アウトブレイクであり, 大学生を含む若年成人集団において急速な感染拡大が認められた1,2)。

最初の症例は2026年3月13日に報告された。その後, 関連症例が相次いで確認されたことから, UKHSAは3月15日にアウトブレイクを宣言し, 調査を開始した。症例定義は, 2026年3月1日以降に発症し, 疫学的関連(ナイトクラブ, A大学または他の症例との濃厚接触歴)を有する症例のうち, 髄膜炎, 敗血症またはその他の侵襲性疾患を呈し, 無菌部位からの髄膜炎菌の分離, グラム陰性双球菌の確認, 髄膜炎菌DNAの検出または血液・髄液・尿からの髄膜炎菌抗原の検出, のいずれかを満たす症例を確定例とした。調査の結果, 21例の確定例が確認され, 発症日は3月9~16日に集積していた(図)。患者の年齢中央値は19歳(範囲:18~27歳)であり, 女性は11例(52%)であった。症例の多くはケント州カンタベリー市周辺に居住または通学していた。13例(62%)は大学生であり, そのうち10例はA大学の学生であった。A大学の学生10例のうち8例は大学構内の学生寮に居住していたが, それぞれ異なる部屋で生活していた。21例全例が入院し, 9例は集中治療を要し, 2例が死亡した1)。全例がワクチン接種歴不明であった3)。疫学調査では, 19例(90%)に発症前のカンタベリー市内のナイトクラブ訪問歴が認められ, 同施設が複数症例に共通する主要な疫学的リンクとして特定された1)。

微生物学的検査の結果, 21例全例でMenBが確認され, このうち18例ではPorAサブタイプP1.12-1, 16-183が検出された。培養陽性株6株を対象とした全ゲノム解析では, 分離株はいずれも遺伝子型ST-485(cc41/44)に属し, 極めて高い遺伝学的近縁性を認めたことから, 単一クローンによる感染拡大が示唆された1)。薬剤感受性試験が実施された1株では, 主要抗菌薬に対する耐性は認められなかった3)。

公衆衛生対応として, UKHSAは濃厚接触者への抗菌薬予防投与に加え, アウトブレイク宣言後速やかに, 疑い症例が居住していた大学寮入居者を対象に, 原則としてシプロフロキサシンによる集団予防投与を開始した。その後, 疑い症例がさらに探知されたことから, 対象はナイトクラブ利用者など疫学的関連が考えられる集団へ拡大され, 3月30日時点で13,000人以上が抗菌薬予防投与を受けた。また, 医療機関や教育機関への情報提供に加え, 予防投与対象者にMenBワクチン接種の機会が提供された。対象者には接種が強く推奨され, 3月30日時点で11,000人以上が初回接種を受けた4)。本アウトブレイクに関連する新規症例は, 3月18日以降報告されていない1)。

本事例は, IMDアウトブレイクに対して, 疫学調査に基づく情報発信や予防投与・ワクチン接種を組み合わせた迅速な公衆衛生介入の重要性を示した。

英国では, 2015年から乳児を対象としたMenBワクチン定期接種が導入され, 14歳の青年を対象にMenACWYワクチンの定期接種が実施されている5,6)。しかし, 本アウトブレイク事例の症例は, 乳児期MenBワクチン定期接種の対象世代ではなかった。また, 英国では2024~2025年はMenBがIMDの82.6%を占める主要な血清群であり3), 本事例を受けて英国政府は2026年6月, 大学進学予定者や学生寮入居予定者等を対象とした一時的なMenBワクチン接種プログラムを発表した7)。

現在, 日本におけるIMDの原因血清群はY群が主体であり, 本事例のような若年成人を中心としたMenBによる大規模なIMDアウトブレイクはこれまで報告されていない。しかし, 若年層ではB群の割合が比較的高いことから8), 集団発生が疑われるIMD症例を認めた際には, 血清群の把握や分子疫学的解析による評価が重要である。また, 日本ではMenACWYワクチンのみが承認され, MenBワクチンは国内未承認であることから, 英国のようにMenBワクチンをアウトブレイク対応に一般に活用することはできない。利用可能なワクチンが限られる場合も, 症例発生時の迅速な疫学調査と濃厚接触者への抗菌薬予防投与を確実に実施し, 血清群や発生状況に応じてワクチン接種を検討する必要がある。こうした初動対応が円滑に実施できるよう, 保健所が関係機関との連携体制を平時から整理しておくことが重要と考えられる。

参考文献

  1. I’Anson J, et al., Euro Surveill 31: 2600288, 2026
  2. UKHSA, Notified cases of invasive meningococcal disease, Updated 2 April 2026
    https://www.gov.uk/government/publications/invasive-meningococcal-disease-statistical-releases/notified-cases-of-invasive-meningococcal-disease
  3. UKHSA, Invasive Meningococcal Disease outbreak 2026: technical briefing 1, Updated 12 May 2026
    https://www.gov.uk/government/publications/invasive-meningococcal-disease-outbreak-2026-technical-briefings/invasive-meningococcal-disease-outbreak-2026-technical-briefing-1
  4. University of Kent, Health Response(2026年8月12日閲覧)
    https://www.kent.ac.uk/health-response
  5. Thorn N, et al., Lancet Infect Dis 26: 793-806, 2026
  6. Campbell H, et al., Lancet Child Adolesc Health 6: 96-105, 2022
  7. UKHSA, Thousands of young people to be offered 2-dose MenB vaccine, 12 June 2026
    https://www.gov.uk/government/news/thousands-of-young-people-to-be-offered-two-dose-menb-vaccine
  8. 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 日本の侵襲性髄膜炎菌感染症の動向について, 2013年4月1日~2025年12月31日(2026年1月21日現在)
 
  国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
   応用疫学研究センター
   実地疫学専門家養成コース(FETP)
    赤澤奈々
   応用疫学研究センター
    高橋あずさ 砂川富正
   潜在感染研究部・細菌第一部
    高橋英之
   細菌第一部 
    明田幸宏

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