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髄膜炎菌ワクチンについて

髄膜炎菌ワクチンについて

(IASR Vol. 47 p173-175: 2026年9月号)

侵襲性髄膜炎菌感染症(invasive meningococcal disease: IMD)は, 国内では発生動向調査への届出数は少ないが, 発病初期には発熱, 頭痛, 倦怠感など他の感染症と区別しにくい症状で発症しうる一方, 進行が速く, 髄膜炎, 菌血症, 敗血症性ショックを来たし, 死亡や後遺症に至ることがある。このため, 発症リスクの高い年齢層, 集団生活者, 基礎疾患を有する者, 流行地域への渡航者, 等を対象に髄膜炎菌ワクチンが用いられている(表)。

IMDの主要起因血清群はA, B, C, W, X, Yである。血清群は莢膜多糖体の構造により規定され, A, C, W, Y, X群については, この莢膜多糖体をキャリア蛋白に結合させることで免疫原性を高めた結合型ワクチンが開発されてきた。結合型ワクチンは, 従来の単純多糖体ワクチンに比べて乳幼児を含めた免疫応答, 免疫記憶, 追加接種効果, 保菌抑制を期待できるため, 現在は髄膜炎菌ワクチンの主流となっている。世界保健機関(WHO)も, 単純多糖体ワクチンは乳児で免疫原性が弱く, 追加接種反応や集団免疫効果に乏しいため, 結合型ワクチンに置き換わりつつあると整理している1)。国際的には, MenACWY結合型ワクチンに加え, サハラ以南アフリカの「髄膜炎ベルト」では, X群を含むMenACWYX結合型ワクチンも導入されている1,2)。

一方, B群髄膜炎菌は他の血清群と異なる経緯をたどった。B群の莢膜多糖体はヒト抗原と交差反応し, 免疫原性に乏しいことから, A, C, W, Y群のように莢膜多糖体を標的とする結合型ワクチンとして実用化することが困難であった。そのためMenBワクチンでは, 莢膜多糖体ではなく, 菌体表面蛋白や外膜小胞を標的とする蛋白ベースのワクチンが開発された。代表的なMenBワクチンには, factor H binding protein(fHbp), Neisserial adhesin A(NadA), Neisserial heparin binding antigen(NHBA)および外膜小胞成分を含む4CMenB, ならびに2種類のfHbpを抗原とするMenB-FHbpがある。したがって, MenBワクチンによる防御は単純な「B群莢膜」に対するものではなく, 流行株が発現する表面抗原との適合性にも左右される。また, MenBワクチンは製剤ごとに抗原構成が異なるため, 接種シリーズ内での製剤互換性は原則として認められていない2,3)。WHOは, B群莢膜多糖体がヒト抗原と交差反応し免疫原性に乏しいこと, そのため外膜小胞や蛋白ベースのMenBワクチンが開発され, 近年は4価結合型ワクチンとの混合製剤も利用可能になったこと, を記載している。

近年登場したMenABCWY 5価ワクチンは, B群莢膜多糖体を新たに結合型化したワクチンではない。既存のMenACWY結合型ワクチン成分とMenB-4C成分を含む混合ワクチンである。すなわち, 5価化が可能となった背景には, MenBに対する蛋白ベースワクチンの実用化と使用経験の蓄積, MenACWY成分との同時投与・混合における免疫原性および安全性の評価, さらに疾患発生数が少ないため血清殺菌抗体価を代替指標として評価する免疫ブリッジングの枠組みがある。米国では, MenACWY-TT/MenB-FHbp(Penbraya)が2023年に, MenACWY-CRM/MenB-4C(Penmenvy)が2025年に承認され, 10~25歳でMenACWYとMenBの双方が同時に適応となる場合の選択肢とされている3)。米国疾病予防管理センター(CDC)は, MenABCWYをA, B, C, W, Yの5つの血清群を対象とするワクチンとして整理している。ただし, MenABCWYはすべての者に一律に使用するワクチンではなく, MenACWYワクチンとMenBワクチンの双方が必要で, 同じ接種機会に接種する場合に, 両者を別々に接種する代替として用いることができるワクチンである2)。

ワクチン効果の評価に関しては, IMDの発生頻度が低いため, 発症予防をエンドポイントとした臨床試験の実施が難しい。そのため, 補体依存性血清殺菌抗体価(SBA)が代替指標として用いられている。一般にhSBA 1:4または1:8以上, rSBA 1:8以上などが免疫学的防御の目安とされる4)。米国では思春期MenACWY導入後, C, W, Y群IMDは思春期で90%以上減少した。MenACWY-Dの有効性は接種後8年間で69%と推定されるが, 接種後1年以内で79%, 1年以上3年未満で69%, 3年以上8年未満で61%と低下するため, 11~12歳の初回接種に加え, 16歳での追加接種が推奨されている2,4)。MenBワクチンは, 承認時には主に選択株に対するhSBA応答で評価されたが, 導入後の実世界データも蓄積している。英国乳児4CMenBプログラムでは, 導入後10カ月以内の有効性が83%, 3年間で推定277例のMenB発症予防が報告され, 南オーストラリアでは導入後5年で小児3回接種で98.5%, 思春期2回接種で92.3%の有効性が推定された5,6)。

安全性については, MenACWYでは注射部位疼痛, 発赤, 頭痛, 筋肉痛, 倦怠感などが主で, 多くは軽度から中等度で数日以内に軽快する。MenBワクチンはMenACWYより反応原性が高く, 思春期・若年成人では注射部位疼痛がMenB-FHbpで72-93%, MenB-4Cで82-98%に認められるが, 市販後安全性監視では新たな安全性シグナルは確認されていない4)。MenABCWY 5価ワクチンの安全性は, 重篤な有害事象は稀で, 対照群と同程度である一方, 非重篤な副反応はMenB成分を含むワクチンと同程度, MenACWY単独より多い傾向がある3)。

日本では, 厚生労働省の開発要請を経てMenACWY-D(メナクトラ)が2014年に承認され, 2015年から使用された。2023年2月にMenACWY-TT(メンクアッドフィ)が販売開始され, 後継品上市にともないメナクトラは供給停止, 経過措置は2024年3月末とされた。メンクアッドフィはA/C/W/Y多糖体各10μgを破傷風トキソイドに結合したワクチンで, 2歳以上に0.5 mLを筋注する。B群は予防しない。保険給付はエクリズマブ, ラブリズマブ等の補体阻害薬投与患者に限定され, 一般には任意接種として, 渡航・留学, 寮生活, 基礎疾患等のリスクに応じて検討される7,8)。

国内IMDは2013~2019年に年20-40例で推移し, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期に減少後, 2025年は過去最多の86例となった。血清群判明例ではY群65%, B群23%であり, 国内ではY群を含むMenACWYの意義がある一方, B群を含む残余リスクの説明, 接種後の早期受診, 接触者化学予防を組み合わせることが重要である7)

参考文献

  1. WHO, Meningococcal meningitis
    https://www.who.int/teams/immunization-vaccines-and-biologicals/diseases/meningitis
  2. CDC, Meningococcal Vaccine Recommendations, Mar 30 2026
    https://www.cdc.gov/meningococcal/hcp/vaccine-recommendations/index.html
  3. Amin AB, et al., MMWR 75: 7-14, 2026
  4. Mbaeyi SA, et al., MMWR Recomm Rep 69: 1-41, 2020
  5. UKHSA, Meningococcal B vaccination programme for infants: information for healthcare practitioners, Updated 11 August 2025
    https://www.gov.uk/government/publications/meningococcal-b-vaccine-information-for-healthcare-professionals/meningococcal-b-vaccination-programme-for-infants-information-for-healthcare-practitioners
  6. Wang B, et al., Clin Infect Dis 81: e202-e210, 2025
  7. 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 日本の侵襲性髄膜炎菌感染症の動向について, 2013年4月1日~2025年12月31日(2026年1月21日現在)
  8. PMDA, メンクアッドフィ筋注電子添文, 製造販売元/サノフィ
    https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/6311402A1028_1?user=1
  
  三重大学大学院医学系研究科
   公衆衛生・産業医学・実地疫学分野
    神谷 元

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