侵襲性髄膜炎菌感染症発生時対応ガイドライン〔第二版〕について

侵襲性髄膜炎菌感染症発生時対応ガイドライン〔第二版〕について
(IASR Vol. 47 p175-176: 2026年9月号)
侵襲性髄膜炎菌感染症(invasive meningococcal disease: IMD)は, 髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)による侵襲性感染症であり, 髄液, 血液等の本来無菌的な部位から病原体が検出される疾患である。国内の発生頻度は諸外国と比較して低いものの, 発症後24~48時間以内に急速に進行し, 重篤な転帰をとり得る。髄膜炎菌は, 保菌者や患者から主として飛沫感染により伝播し, 同居生活, 寮等での共同生活, 大人数が集まる場所での活動, 咳, キス, 飲み物の回し飲み, 食器の共用等の濃厚な接触が感染伝播のリスクを高める。このため, 患者が1例でも発生した場合には, 迅速な患者情報の収集, 濃厚接触者等の把握, 抗菌薬予防投薬および必要に応じたワクチン接種を含む感染拡大防止策を速やかに実施することが重要である。
国立感染症研究所では, 第一版(2022年3月31日)を基に, 2025年3月28日に「侵襲性髄膜炎菌感染症発生時対応ガイドライン〔第二版〕」1)を公表した。第二版は, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行後にIMDの報告も増加に転じ, 今後の人の移動の増加やマスギャザリングイベントの増加も見込まれる状況を踏まえ, IMD発生時の迅速な公衆衛生対応の重要性を改めて示したものである。また, 第一版発行後に得られた国内外の知見を反映し, 自治体(都道府県庁, 保健所, 衛生研究所等)を中心とする保健医療関係者が連携して対応する際の実務的な記載を更新した。
特に重要な記載は, 抗菌薬予防投薬の対象と実施時期に関する整理である。第二版では, 接触者を「濃厚接触者」, 「ハイリスク者」, 「その他の接触者」に区分し, 濃厚接触者およびハイリスク者には, 初発患者探知後速やかに, 可能な限り24時間以内に抗菌薬を一斉投与することを推奨している。濃厚接触者は, 患者の症状出現7日前から有効な治療開始後24時間までの間に, 衣食住をともにするような濃厚な接触をした者, 患者が幼少児の場合に同じユニットにいた者, 適切な感染防護具なしに咽頭分泌物へ直接曝露した医療従事者, mouth-to-mouth蘇生を行った者, 航空機内で8時間以上隣席であった者, 等である。ハイリスク者については, 補体欠損症, 補体機能低下者, 無脾症(脾機能不全を含む)または脾摘者, 免疫不全者, 等が示され, 濃厚接触者に該当しない程度の接触歴であっても, 濃厚接触者と同等の対応を行うことが望ましいとした。
抗菌薬予防投薬の時期については, 患者との最終接触から14日以上経過後の開始は推奨されない。一方で, 海外ガイドラインには予防投与推奨期間を最終接触後28日間までとするものがあることも注記されている。また, 抗菌薬感受性検査は可能な限り実施するものの, その結果を待つ間も予防投薬を進めるべきことが示され, 迅速性を優先する原則を明確化した。
推奨抗菌薬としては, リファンピシン, セフトリアキソン, シプロフロキサシン, アジスロマイシンが示された。リファンピシンは, 生後1か月未満では5mg/kgを12時間ごとに2日間, 1か月以上では10mg/kg(最大600mg)を12時間ごとに2日間経口投与する。1か月未満では専門医の相談が示され, 妊婦には推奨されないこと, 経口避妊薬, 一部の抗てんかん薬, 抗凝固薬の有効性を妨げる可能性があること, ソフトコンタクトレンズを着色する可能性があること, が記載された。セフトリアキソンは, 15歳未満125mg, 15歳以上250mgを1回筋肉注射とし, 国内承認・販売製剤の投与経路に関する実務上の注意事項が追記された。シプロフロキサシンは, 15歳以上に500mgを1回経口投与とし, 15歳未満の小児, 妊婦, 授乳婦への投与は一般に推奨されないとした。アジスロマイシンは, 10mg/kg(最大500mg)を1回経口投与とし, 日常的な使用は推奨されないが, リファンピシンと同等の効果があるとの報告がある旨が記載された。
抗菌薬選択において特に留意すべき点としては, キノロン耐性髄膜炎菌である。国内では, 2017年に血清群C, 遺伝子型ST-4821のキノロン耐性髄膜炎菌による侵襲性感染症例が報告された2)。第二版では, 国内の髄膜炎菌における耐性菌の検出割合が増加している情報や, 海外由来のシプロフロキサシン耐性株の検出を踏まえ, 予防投薬に用いる抗菌薬の選択は, 患者の感染源等の情報を加味して慎重に行う必要があるとされた。第一選択として繁用されるシプロフロキサシンに対する薬剤耐性への警戒から, リファンピシンを用いる機会が増えていることも記載している。
第二版では, 抗菌薬予防投薬による短期的な二次感染予防と, ワクチンによる中長期的な予防を組み合わせる考え方が示されている。適正な抗菌薬の予防投薬により鼻咽頭に保菌していた髄膜炎菌は除菌が期待される一方, その効果は抗菌薬の有効濃度が保たれる期間に限られる。一方, 髄膜炎菌ワクチンの効果が現れるまでには, 接種後2週間~1カ月程度を要する。このため, 血清群がワクチンで予防可能な場合には, 抗菌薬を用いた短期的な予防と, 髄膜炎菌ワクチンを用いた中長期的な予防を組み合わせることが最も有効とされる。ただし, B群については2025年3月現在, 国内でB群に対する有効なワクチンは認可されていない。
以上のように, 第二版ではIMD発生時の「即対応」の原則を維持しつつ, 接触者の区分, 健康観察, 抗菌薬予防投薬の対象・時期・薬剤の選択, 薬剤耐性菌への配慮, ワクチンとの役割分担, が整理された。自治体においては, 患者発生時に濃厚接触者およびハイリスク者を迅速に同定し, 初発患者探知後, 可能な限り24時間以内に予防投薬を一斉に実施できる体制を整備するとともに, 菌株確保, 血清群同定, 薬剤感受性情報の収集を通じて, 個別事例および集団発生への適切な対応につなげることが求められる。
参考文献
- 国立感染症研究所実地疫学研究センター, 感染症疫学センター, 細菌第一部, 侵襲性髄膜炎菌感染症発生時対応ガイドライン〔第二版〕, 令和7(2025)年3月28日
- 川崎 悠ら, IASR 38: 83-84, 2017
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
応用疫学研究センター
砂川富正
