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京都府丹後保健所管内で短期間に発生したリステリア菌血症11例の報告

京都府丹後保健所管内で短期間に発生したリステリア菌血症11例の報告

(IASR Vol. 47 p191-192: 2026年10月号)

はじめに

Listeria monocytogenes(以下, Lm)は, 環境中に広く分布するグラム陽性桿菌であり, ヒトへは主に汚染された食品を介して経口感染する。Lmによる感染症(リステリア症)は, 比較的稀であり, 通常は胃腸炎様の症状を起こす程度であるが1), 高齢者や妊婦, 免疫不全者などにおいては, 頻度は低いものの, 菌血症や髄膜炎などの重篤な病態, すなわち侵襲性リステリア症を呈し, しばしば致死的にもなり得る2)。

2023年6~7月にかけて, 京都府北部の丹後保健所管内の同一医療機関において, 1カ月という短期間に11例のリステリア菌血症が確認された。その概要を報告するとともに, 現行のサーベイランス制度における課題について考察する。

事例概要

2023年6月27日~7月27日までの1カ月間に, 発熱を主訴として京都府立医科大学附属北部医療センター救急外来を受診した患者のうち11例で, 受診時に提出した血液培養からLmが検出された。11例は年齢中央値78歳(54-94歳), 男性4例, 女性7例であった。11例全例で発熱があり, 多くが下痢や嘔吐などの消化器症状をともなっていた。入院加療となった患者は3例のみであり, 他の患者のほとんどは救急外来の単回受診にとどまった。総じて, 重篤な経過を辿った例は認めなかった。患者背景の詳細を表に示した。

菌株の解析

今回の11例はいずれも, 救急外来にて発熱患者に対して採取していた血液培養からLmが検出されたものである(入院例のうち1例は, 便培養も実施)。検出されたLmの抗菌薬感受性は, 便培養での検出例を含めてすべて同一プロファイルであった。加えて, 全ゲノムシーケンス解析(WGS)で, 参照配列をマッピングし, 組み換え領域を除外してコアゲノムSNP(cgSNP)を比較した結果, 今回分離された11例すべての分離株間の最大cgSNP差は2SNPであり, 遺伝的相同性が強く示唆された(図)3)。

感染源の検索

11例はいずれも自宅からの受診あるいは搬送であり, 介護施設や居住型ケア施設からの受診例は認めなかった。受診時の問診により得られた情報は患者によってばらつきがあり, 患者自身の記憶が曖昧な場合も多く, 詳細な食事歴の把握は困難であった。結果として, 今回の集団感染の原因となった食品の特定には至らなかった。なお, 同時期に, 同地域内の食中毒発生や消化器感染症の増加, あるいは他医療機関でのリステリア菌血症の報告は認められなかった。

考察

発熱と消化器症状を呈した複数の患者の血液培養から遺伝的に近縁なLmが検出されたこと, 患者の居住地域が比較的限局していたことに加え, Lmの一般的な感染経路を考慮し, 今回のリステリア菌血症の集団発生は原因食品不明の食中毒である可能性が高いと考えられた。リステリア症における重症化リスクを有する例も含めて, 全例が総じて軽症であった点については, 本事例のLmが臨床的な表現型として比較的侵襲性の低い株であった可能性も考えられる。

本件では, 救急外来における発熱患者に対するfocus検索の一環として, 血液培養を採取していたことで検知することができた。一般に, 発熱と消化器症状のみの患者では, 感染性胃腸炎が想定される(基本的には抗菌薬投与不要)ことから, 血液培養の提出は行われない場合が多い。しかしながら本件のような事例を考慮すると, 高齢者や免疫不全患者, 妊婦などで発熱と消化器症状を呈する場合はリステリア症を鑑別にあげ, 可能な限り詳細な食事歴の聴取と血液培養の採取, 経過のフォローを行うことが望ましいと考えられる。

現行法制下において, 特にリステリア症による菌血症については, 感染症法における届出対象にはなっていない4)。リステリア感染症の推定患者数は年間200人〔平成23(2011)年〕と評価されたこともあるが, リステリア食中毒は本件探知時点で報告されたことはなかった5)。医療機関においてリステリア菌血症が診断され, 経口感染である可能性が高いと臨床的に判断されても, 潜伏期間の長さ等より食品由来として原因食品の同定に至ることは容易ではないが, 行政と連携した感染源の検索を十分に行っていく必要がある。それにより, リステリア症の集団発生のさらなる検知を進め, 重症患者発生予防に繋げることが重要である。本事例の経験を通して, 今後, 臨床的に食品由来の感染が疑われるリステリア症の迅速な探知と介入を可能にする制度設計が期待されると考える。

参考文献

  1. Ooi ST, Lorber B, Clin Infect Dis 40: 1327-1332, 2005
  2. Gerner-Smidt P, et al., Clin Microbiol Infect 11: 618-624, 2005
  3. Tsuboi H, et al., J Infect Chemother 32: 102887, 2026
  4. 厚生労働省, 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について, 47 細菌性髄膜炎(髄膜炎菌, 肺炎球菌, インフルエンザ菌を原因として同定された場合を除く。)
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-36.html
  5. 厚生労働省, リステリアによる食中毒
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055260.html

  京都府立医科大学        
   総合医療地域医療学教室    
    坪井 創 松原 慎 四方 哲 
   附属北部医療センター     
    玉井 香 横井大祐     
  京都府保健環境研究所      
   河原佳幸 田邉義浩 小仲兼次(現京都府中丹西保健所) 藤田直久(現京都岡本記念病院) 

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