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外国生まれ結核患者から分離されたMycobacterium orygisの国内初報告事例―神戸市

外国生まれ結核患者から分離されたMycobacterium orygisの国内初報告事例―神戸市

(IASR Vol. 47 p194-195: 2026年10月号)

はじめに

わが国の感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)上の結核症例定義は「結核菌群(Mycobacterium bovis BCGを除く)による感染症」であり, 結核菌群(Mycobacterium tuberculosis complex: MTBC)にはM. tuberculosisのほか, M. bovis, M. africanum, M. orygisなど多様な菌種が含まれる。M. orygisは南アジアを中心にヒト, 家畜, 野生動物から報告されている人獣共通結核菌の1つであり, 近年世界的に報告数が増加している1)。わが国においては, ヒトおよび動物からの分離は報告されていない。今回, 神戸市で肺結核・結核性胸膜炎と診断された外国生まれ患者から分離培養された菌株がM. orygisであることを全ゲノム解析により同定した。わが国初の報告であり, MTBCの菌種同定におけるゲノム解析の有用性および公衆衛生上の意義について報告する。

症例

ネパール生まれの20代男性, 発症の約10カ月前に来日した。診断の約1週間前より激しい咳および呼吸困難感を自覚し近医を受診した。胸部X線およびCT検査にて, 浸潤影と胸水貯留を認め, 活動性結核を疑われ, 結核病棟のある医療機関へ紹介された。喀痰抗酸菌塗抹±, LAMP法でMTBC陽性となり, 2025年2月, 肺結核・結核性胸膜炎, rII2plと診断され入院となった。分離培養された菌は, イムノクロマト法でMTBC陽性, 薬剤感受性試験では, イソニアジド(INH), リファンピシン(RFP), エタンブトール(EB), ストレプトマイシン(SM), レボフロキサシン(LVFX)およびピラジナミド(PZA)に感受性を示し, カナマイシン(KM)に耐性を示した。診断日より, 2HREZ+4HRの標準治療を行い, 順調に経過し治療完了となり, 管理検診中である。なお, 接触者健診としてQFT検査を実施した結果, ルームシェアをしていた人を含め陽性者は認められなかった。

方法

本所に搬入された菌株についてJATA12領域+超可変4領域の合計16領域を対象とした縦列反復配列数多型(VNTR)解析を行い, 2002年以降の神戸市分離株4,306株(2026年3月時点)を登録している神戸市VNTRデータベースと照合した。

全ゲノム配列解析では, QIAseq FX DNA library kit(QIAGEN)を用いてライブラリーを調製し, MiSeq(Illumina)によりゲノムリードデータを取得した。fastpによるトリミング後, DFASTによるAverage Nucleotide Identity(ANI)解析および解析パイプラインTB-profilerによる菌種, 薬剤耐性関連変異, 遺伝系統の推定を行った。

TB-profilerによる菌種同定結果を確認するため, BWAを用いた結核菌参照株H37Rvゲノムへのマッピング解析を行い, M. orygis特異的なRegion of Difference(RD)の欠損および遺伝子の点変異を確認した。さらに, SNPcaster2,3)を用いてH37Rvを含む結核菌群6菌種8株との全ゲノム比較解析を行い, コアゲノム系統樹を作成した。

結果

TB-profiler解析の結果, 本株は結核菌群の遺伝系統La3に属するM. orygisと同定され, 薬剤耐性関連変異は検出されなかった。一方, DFASTによるANI解析では, M. tuberculosis variant microti, M. tuberculosis variant africanum, M. tuberculosis variant caprae, M. tuberculosis variant bovisに対して同一のANI値(99.91%)を示し, 菌種レベルでの識別はできなかった。また, M. orygis特異的な遺伝マーカーであるRD欠損およびgyrB, leuS, mmpL6, mmpS6の遺伝子変異4)を調べたところ, 本株では, mmpL6 T486C変異を除くすべてのマーカーの存在が確認された。コアゲノム系統樹解析の結果, 本株はM. orygis参照株と同一クレードを形成した(図)。

2002年から実施している神戸市地域内分子疫学調査により蓄積した4,306株の中に, 本株のVNTR遺伝子型と一致するものは認められなかった。

考察

本事例は, ゲノム解析によりM. orygisであると同定されたわが国初の報告である。本症例は, 来日後約10カ月の外国生まれ結核患者由来であり, 神戸市VNTRデータベースに一致する株が存在しなかったことから, 輸入症例である可能性が高いと思われる。

今回, TB-profilerによりM. orygisと同定され, M. orygis特異的な遺伝マーカーの検出およびコアゲノム系統樹解析によってその同定結果が支持された。一方, ANIに基づくDFAST解析ではM. tuberculosis complexレベルでの同定にとどまった。近年, 外国生まれ結核患者の増加にともない, 国内においてもM. orygisを含む動物型結核菌による症例が発生する可能性があり, 本症例のように肺結核として発症した場合には, ヒト-ヒト感染につながる可能性がある。M. orygisは実際にヒトから乳牛へ伝播した事例も報告されており5), One Healthの観点からも結核菌群の伝播動態の解明が重要視されている。今後は, 結核菌群分離株について全ゲノム解析を含む分子疫学調査を進め, 菌種レベルでの実態把握と継続的な監視を行うことが望まれる。

参考文献

  1. Hugh BT, et al., Front Public Health 13: 1568194, 2025
  2. Lee K, et al., Emerg Infect Dis 27: 1509-1512, 2021
  3. Lee K, et al., Microbiol Spectr 12: e0235523, 2024
  4. Rani I, et al., Front Public Health 13: 1505967, 2025
  5. Dawson KL, et al., J Clin Microbiol 50: 3136-3138, 2012

  神戸市健康科学研究所      
   大畑奈月 有川健太郎 岩本朋忠
  神戸市保健所          
   藤山理世 楠 信也      
  神戸市保健所保健課 
     

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