HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数における診断時CD4値の分布

HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数における診断時CD4値の分布
(IASR Vol. 47 p182-184: 2026年10月号)
背景
末梢血CD4陽性リンパ球数(CD4値)は, HIV感染症において免疫不全の程度を評価するための重要な指標である。HIV感染症の発生届において, 2019年1月1日より診断時のCD4値の項目が追加され, エイズ発生動向調査での集計が開始された。CD4値はHIV感染症診断時には測定されない場合も多く, 診断から7日以内に届出を行う必要がある発生届において, CD4値報告の欠損は避けられない。発生届でのCD4値報告率は2025年新規報告においては, HIV感染者で61.5%(384/624), AIDS患者で88.0%(234/266)であった(本号特集図6)。なお, ここではHIV感染者・AIDS患者の用語をエイズ発生動向年報の定義にしたがって使用する1)。
HIV感染者およびAIDS患者それぞれにおけるCD4値の分布は, エイズ発生動向年報で報告されている1)(本号特集図6)。一方で, HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数におけるCD4値の分布については, 国際的な比較や全体の診断時CD4値分布を評価する際に重要であるが, HIV感染者とAIDS患者のCD4値報告率が異なることから, 単純合計することはできず, 補正が必要になる。また, 国籍別・性別・年齢群別・感染経路別・報告地(ブロック)別のCD4値報告率やCD4値の分布についてはエイズ発生動向年報(表14-1, 表14-2)で報告されている1)が, 届出元機関種別には示されていない。保健所等での無料・匿名検査や, クリニックでの検査で診断され届出されたHIV感染者においては, 病院で診断され届出されたHIV感染者と比較して, CD4値の分布が異なることが推定されるが, 特に, 保健所等やクリニックでは診断時にCD4値を測定しない場合が多く, CD4値報告率が低いことが推定される。
本稿では, 診断時CD4値欠損について, 各年ごとのHIV感染者・AIDS患者の区分での補正に加えて, 届出元機関種別の補正を行い, HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数における診断時CD4値の分布を推定することを目的とした。
方法
感染症発生動向調査に届出された情報に基づいて集計されるエイズ発生動向年報(2019~2025年)の各年の確定値集計時点のデータセットを用いた。診断時CD4値カテゴリーはエイズ発生動向年報に準じ, CD4値が(1)50/μL未満, (2)50/μL以上200/μL未満, (3)200/μL以上350/μL未満, (4)350/μL以上500/μL未満, (5)500/μL以上, の5分類とした。
主解析では, 各報告年のHIV感染者およびAIDS患者の区分ごとに, CD4値不明例のCD4値分布が同区分のCD4値既知例と同一であると仮定し, HIV感染者・AIDS患者区分で補正した全体のCD4値分布を求めた。詳細には, 各区分のCD4値既知例に占める各CD4値カテゴリー別割合を, CD4値不明例を含む同区分全体の報告数に乗じて, 各CD4値カテゴリーの推定報告数を求めた。次に, 各年において, CD4値カテゴリーごとの推定報告数をHIV感染者とAIDS患者で合算し, HIV感染者とAIDS患者を合わせた全体の新規報告数で除したものを, 補正後のCD4値分布とした。
さらに, CD4値報告率およびCD4値分布は届出元機関種別によって大きく異なっていたため, 副次解析として, 各報告年, HIV感染者およびAIDS患者区分, および届出元機関種別で層別した同様の補正を行った。発生届の届出元機関(届出を行った医師の従事する病院・診療所)の分類については, 以前報告した方法2)に従い, 「保健所等」, 「HIV診療におけるブロック拠点病院・中核拠点病院」, 「その他の病院」, 「クリニック」の4種類に分類した。保健所等については, 自治体直営の保健所等での検査と, 自治体が委託して実施する検査の主要な委託先について「保健所等」として分類した。HIV診療におけるブロック拠点病院・中核拠点病院については, HIV感染症の医療体制の整備に関する研究の拠点病院診療案内のwebサイト3)(2024年10月5日現在)に基づいた。
結果
解析自体は各年ごとに行ったが, ここでは, 2019~2025年(合計)の届出元機関種別CD4値カテゴリー別新規報告数とその分布を図に示す。HIV感染者において, 保健所等およびクリニックにおいて, ブロック拠点病院・中核拠点病院およびその他病院と比較し, CD4値不明例の割合が高く(図a), CD4値200/μL以上およびCD4値350/μL以上の割合が高かった(図c)。AIDS患者においては, 保健所等およびクリニックからの報告数はわずかであり(図b), 保健所等以外から報告されたCD4値の60%以上がCD4値<50/μLであった(図d)。
各年のHIV感染者・AIDS患者区分で補正したHIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数における全体の診断時CD4値分布を表の(a)に示す。HIV感染者・AIDS患者区分に加えて, 各年の届出元機関種別でも補正した全体の診断時CD4値分布を表の(b)に示す。
本号特集図6に示す通り, 2025年の診断時CD4値<350/μLの割合はHIV感染者で61%(本号特集図6b), AIDS患者では98%(本号特集図6d)であるが, HIV感染者・AIDS患者区分での補正および届出元機関種別補正による, HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数に占めるCD4値<350/μLの割合は72%であった。また, HIV感染者・AIDS患者区分での補正(a)と, 届出元機関種別補正(b)の差は-1.1%~+2.6%の範囲であった。
考察
HIV感染者・AIDS患者区分別の補正と, 届出元機関種別の補正を行い, HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数における診断時CD4値の分布を推定した。2つの補正方法による推定値は, 各年・各CD4値カテゴリーにおいて近い値であり, 届出元機関種別によるCD4値報告率およびCD4値分布の違いを考慮しても, 推定された全体のCD4値分布への影響は小さかった。HIV感染者・AIDS患者区分別の補正は容易であり, 全体の診断時CD4値分布を評価する際に有用と考えられた。HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数に占める診断時CD4値<350/μLの割合は, late diagnosisの割合の指標でもあるが, 2019~2022年は71%前後で推移し, 2023~2024年は74%へと上昇, 2025年は72%であった。診断時CD4値<350/μLの割合は, 2024年に英国48%, フランス38%, スペイン51%, ドイツ34%, イタリア60%, オランダ37%と報告されており4), 西ヨーロッパ各国の報告と比較して高かった。HIV感染者・AIDS患者新規報告数の推移に加えて, 診断時CD4値の分布についても本邦のエイズ発生動向を理解するうえで重要と考えられる。
参考文献
- 厚生労働省エイズ動向委員会, 令和7(2025)年エイズ発生動向年報(1月1日~12月31日)
https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/nenpo.html - IASR 46: 194-195, 2025
- 厚生労働行政推進調査事業費補助金, エイズ対策政策研究事業「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究」班, 拠点病院診療案内(アクセス日:2024年10月5日)
https://hiv-hospital.jp/ - ECDC, WHO, HIV/AIDS surveillance in Europe 2025-2024 data(アクセス日:2026年9月3日)
https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/2025-Annual-HIV-Report.pdf
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
エイズ研究センター
感染症疫学センター
感染症サーベイランス研究部
