2026年夏季におけるインフルエンザの流行入りとインフルエンザウイルスについて

2026年夏季におけるインフルエンザの流行入りとインフルエンザウイルスについて
(速報掲載日 2026/10/16)日本におけるインフルエンザの発生動向をみる際には、当該年の疫学週第36週(9月初旬)~翌年の第35週(8月下旬~9月初旬)までを1シーズンとしている。2009年以降では、2009年のA(H1N1)pdm09ウイルスによるパンデミック発生時を除き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以前は、第45週前後(10月下旬~12月初旬)に、「流行入り」を経験的に示す指標である定点当たり報告数が1を超えていた。しかし、COVID-19パンデミック後、インフルエンザの再流行が確認された2022/23シーズン以降の流行入りについては、COVID-19パンデミック以前とは異なっている。特に2025/26シーズンは、2025年の第39週(9月下旬)に、2026/27シーズンはさらに早まって2025/26シーズン終盤の2026年第34週(8月中旬)に定点当たり報告数が1を超えた。
病原体検出情報サブシステムの登録データをみると、2025/26シーズンの終盤以降はA(H1N1)pdm09亜型が最も多く検出されている。2026年第27~37週(6月29日~9月13日まで)に報告されたA(H1N1)pdm09亜型、A(H3N2)亜型およびB/Victoria系統の割合は、それぞれ94.5%(188株)、5.5%(11株)および0%であった。2025/26シーズンにおいては、2025年第36週~2026年第26週までのA(H1N1)pdm09亜型の報告が2.3%(223株)であり、検出数や検出頻度を踏まえると2026年第27週以降のインフルエンザの流行は同亜型によるものである。
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所では、地方衛生研究所(地衛研)・海外機関から分与されたウイルス、地衛研等から供与を受けた臨床検体から分離されたウイルス、ならびに入国時感染症ゲノムサーベイランスで収集された臨床検体中のウイルス、およびその中から選抜された検体から分離されたウイルスについて、ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)遺伝子の遺伝子系統樹解析、フェレット感染血清・ヒトワクチン接種後血清を用いた赤血球凝集阻止(HI)試験による詳細な抗原性解析を実施している(詳細はIASR 11月号特集関連情報として報告予定)。
検体採取日が2026年4月以降のA(H1N1)pdm09ウイルスについて解析したところ、ほぼすべてがサブクレードD.3.1.1に属していた(表1)。その中で、5月以降、HAの155番目のアミノ酸がグリシン(G)からグルタミン酸(E)に置換した(G155E)ウイルスが検出されるようになり、8月以降にその割合が大きく増えた(表2)。155番目のアミノ酸はH1亜型HAの抗原部位に位置しており、この変異は抗原性への影響が推察された。解析したウイルスでは、8月には約90%がG155E変異を持ち、9月の解析数は少ないが、すべてのウイルスがこの変異を持っていた(2026年10月1日時点)。サブクレードD.3.1.1の部分を拡大した系統樹からも、G155E変異を持つウイルスが多く検出されていることが確認できる(図1)。また、155番目の変異以外にも、いくつかのアミノ酸変異の組み合わせ(Q54H、V152IおよびA73Sや、V152IおよびN287Sなど)を持つウイルスが検出されている(図1)。
図2に、抗原性解析結果を系統樹に重ねて示した。系統樹上の点は、検体採取月が2026年2月以降の各ウイルスを示している。各ウイルスの横には、各参照ウイルスに対するフェレット感染血清との反応性を示しており、系統樹上に点で示していないウイルスについても、抗原性解析を実施したものについてはその結果を示している。各ウイルスに対するHI価を、各参照ウイルスに対するHI価と比較し、その低下の程度を黄~紫色で示している。同等~2倍の低下を黄色、それ以上の低下を橙~紫色で示した(図2、HI価低下倍数)。抗原性解析の結果、G155E変異を持つウイルスは、参照ウイルスに対するフェレット感染血清との反応性の低下が認められた。特に、昨シーズン(2025/26シーズン)の鶏卵培養ワクチン推奨株であるA/Victoria/4897/2022に対するフェレット感染血清との反応性は8-16倍の低下を示した。
今夏のA(H1N1)pdm09ウイルスによる流行入りのタイミングが早くなった理由は複数の要因が考えられる。本亜型による前回の大きな流行は2シーズン前の2024/25シーズンであり、また上述のように2025/26シーズンではほとんど検出されなかったことや2026/27シーズンのワクチン接種前であったことから、A(H1N1)pdm09亜型ウイルスに対する免疫が十分でない人が一定程度存在し、その状況がこの時期の流行に寄与した可能性は考えられる。さらに、抗原性に変化をともなう変異ウイルスが出現したことも、この時期の流行に影響した可能性が考えられる。
わが国のインフルエンザは冬季に大きく流行する季節性を明確に示しており、今夏の流行拡大の後にも、昨シーズンにみられたような二峰性の流行となる可能性もあり、今後A(H1N1)pdm09亜型ウイルスが収まった後に、A(H3N2)亜型ウイルスやB/Victoria系統ウイルスが増加する可能性もある。今後も急性呼吸器感染症サーベイランスを含む複数のサーベイランスによる国内のインフルエンザの発生動向を監視するとともに、国内外のインフルエンザウイルスの特徴を継続的に監視して、情報発信していくことが重要である。
