感染症法に基づくライム病の届出状況、2006年5月1日~2024年3月31日
国立感染症研究所 実地疫学研究センター
感染症疫学センター
細菌第一部
2024年4月16日現在
(掲載日:2025年2月21日)
ライム病は、野生齧歯類や鳥類などを保菌動物とし、野外に生息するマダニによって媒介されるスピロヘータ感染症(本邦における主な病原体はBorrelia bavariensisやBorrelia garinii)であり(1)、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」に基づく感染症発生動向調査において、1999年の同法施行時から4類感染症全数把握疾患に指定されている。
感染初期(stage I)にはマダニ刺咬部を中心とした遊走性紅斑と随伴するインフルエンザ様症状、播種期(stage II)や晩期(stage III)には皮膚症状、神経症状、心疾患、関節炎、筋肉炎などの非特異的で多彩な症状を呈する(1),(2),(3)。感染症発生動向調査では、無症状病原体保有者を含めて検査診断された症例が届出対象となる。届出基準に該当する検査診断法は、紅斑部の皮膚や髄液(髄膜炎、脳炎の場合)からの分離・同定による病原体の検出やPCR法による病原体DNAの検出、またはWestern Blot法による抗ライム病ボレリア抗体の検出である(4)。
今般、2006年5月1日から2024年3月31日までの期間に診断され、感染症発生動向調査に報告された国内のライム病症例について疫学情報をまとめたので報告する。なお、今回解析した情報は2024年4月16日時点の感染症サーベイランスシステムに報告された症例に基づく。そのため、後日更新される場合があることに留意されたい。
2006年5月1日から2024年3月31日までに診断されたライム病症例は265例であった。基本属性を表1に示す。男性の報告数は164例(62%)で、女性よりも多かった。年齢中央値は53歳(四分位範囲36-66歳)で、最年少は1歳、最高齢は88歳であった。図1に男女別年齢階層別の症例数を示す。職業は無職が92例(35%)と最も多く、次いで屋外労働が多いと推察される農林水産業関係者が27例(10%)を占めた。
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表1.基本属性(2006年5月1日~2024年3月31日, n=265, 2024年4月16日時点)
図1. 2006年5月1日~2024年3月31日, 男女別年齢階層別症例数(n=265), 2024年4月16日現在
国内感染例の診断年別推移を図2に示す。国内感染例の症例数は2019年まで毎年5例(2008年)から16例(2017年)の間で増減を繰り返しながら推移したが、2020年に27例、2021年に22例、2023年に24例が報告され増加傾向となった。各年の国内感染例のうち北海道を推定感染地域とする症例の割合は2011年以降上昇傾向で、2012年以降は各年の国内感染例の半数以上を占め、北海道への局在が顕著であった。

国内感染例のうち発症した月が記載された191例の発症月別症例数を図3に示す。一峰性に6月と7月にかけて多くの症例が発症しており、冬季に発症した症例は少なかった。
- 図3. 2006年5月1日~2024年3月31日, 国内感染例の発症月別症例数(n=191). 2024年4月16日現在
ライム病症例の推定感染地域を表2に示す。推定感染地域が国内の症例は216例(82%)、国外の症例は42例(16%)で、国内感染例が多かった。国内の推定感染地域は図4に示すとおり25都道府県に分布しており、北海道を推定感染地域とする報告例が161例と国内感染例の半数以上を占め、次いで長野県(11例)、新潟県(5例)の順に多かった。国外の推定感染地域は、米国を推定感染地域とする症例が16例と最も多く、次いでドイツ(5例)、ポーランド/スウェーデン(3例)の順に多かった。
- 表2. 推定感染地域(2006年5月1日~2024年3月31日, n=265. 2024年4月16日現在)
- 図4. 2006年5月1日~2023年3月31日に報告された国内感染例(n=216)の推定感染地域. 2024年4月16日現在
届出に記載のあった症状及び検査方法を表3に示す。無症状の症例は8例(3%)であった。感染初期(stage I)から見られる遊走性紅斑は164 例(62%)、発熱は101 例(38%)で報告された。播種期(stage II)から見られることが多い神経症状は50例(19%)で報告された。うち25例でより詳細な症状が報告されており、報告された神経症状は、多い順に末梢神経症状(14例)、髄膜炎(11例)、顔面神経麻痺(6例)であった。晩期(stage III)の症状である萎縮性肢端皮膚炎が報告された症例は1例のみであった。また、ライム病関節炎(Lyme arthritis)と考えられた症状は27例(10%)でみられた一方で、慢性の関節炎に特徴的な関節腫脹を伴った症例は7例(3%)に留まった。届出時点の死亡例の報告はなかった。検査方法で最も多く用いられていたのはWestern Blot法による抗ライム病ボレリア抗体の検出(243例、92%)であった。発病日、初診日、診断日等が日付まで記載され、時系列に矛盾がなく評価が可能な症例の、発病日から初診日まで及び発病日から診断日までの中央値はそれぞれ4日(四分位範囲 1-10)、28.5日(四分位範囲 16-45)であった。
- 表3.症状および検査方法(2006年5月1日~2024年3月31日, n=265. 2024年4月16日時点)
ライム病は前述のとおり野外に生息するマダニによって媒介されるため、マダニの生息域において屋外活動を行うことが感染リスクとなる。国内における主な媒介マダニは、冷涼な気候を好むシェルツェマダニ(Ixodes persulcatus)とされている。本マダニは図5に示す北海道ならびに本州・四国・九州の標高の高い山間部に生息していることが知られている(1)。今回のまとめで、北海道を推定感染地域とする症例が多かったことは、北海道がシェルツェマダニの代表的な生息域であることと一致している。一方で、図2で示した推定感染地域とされた都道府県の中にはシェルツェマダニの生息域とされていない地域も含まれた。シェルツェマダニの生息域が拡がっている可能性や、他のマダニによって病原体が媒介されている可能性があり、既知の生息域外でもマダニ刺咬によってライム病に罹患するリスクがあることが示唆された。これまでにライム病症例の報告が稀で、シェルツェマダニの生息域外とされている地域では、診断に至らず報告されていない症例が存在する可能性がある。また、播種期や晩期の症状の報告頻度が少なかったことは、国内において感染初期に速やかな医療機関への受診が行われた結果と解釈できる一方で、非特異的な症状を示すことが多い播種期や晩期の症例が未診断のまま存在している可能性もある。
- 図5.マダニ採取記録等から推定されているシュルツェ・マダニ(Ixodes persulcatus)の国内生息域.参考文献1より引用
マダニに刺咬された際の屋外活動の内容は、状況が具体的に記述されている届出が少なかったため、今回の検討では直接的に評価できなかった。だが、症例は中高齢、男性の割合が高く、無職の症例を除けば農林水産業関係者の症例が多かったことから、屋外活動の中でも屋外労働は主要な感染機会となると推測される。
前述の通りライム病の届出には検査診断が必須であり、現状ではその大半が行政検査によって行われている。そのため、医師が患者を診察した際に鑑別診断として想起する頻度と行政検査へのアクセスのしやすさによって、届出数に地域差が生じた可能性がある。また、感染症発生動向調査における情報は届出時点のものであり、届出後に生じた症状や最終的な転帰は把握できない。これらは本検討における制限となる。
現状、ライム病の予防に有効なワクチンは存在しないため、マダニ刺咬を避けることが感染予防のために最も重要である。本検証により、シェルツェマダニの生息域として知られている地域以外でも、ライム病に罹患するリスクがあることが示唆されたことから、公衆衛生関係者は住民に対して疾患の概要や予防行動を啓発することが望まれる。また、ライム病の診療に携わる可能性のある医師は、鑑別疾患としてのライム病の疫学情報や診断検査へのアクセス法等について把握することが必要である。
参考文献
- 国立感染症研究所. ライム病とは (2024年7月26日取得)
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ra/lyme/010/lyme.html - 佐藤 梢, 川端 寛樹. 【脳・神経系の感染症-診断と治療の最前線】脳・神経系の細菌感染症ほか ライム病とその他のボレリア感染症. 医学のあゆみ. 2021;277(1):120-7.
- 佐藤 梢, 川端 寛樹. 【ダニ媒介感染症-適切な理解と診断の道標】ボレリア感染症. 臨床検査. 2021;65(2):158-63.
- 厚生労働省. 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について 38 ライム病 (2024年7月26日取得)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-35.html